https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

ひとインタビュー 木村多江さん

私もこの作品を観て、何が正しくて何が間違っているのか、私はどう生きたいのかなど、改めて考えさせられました。

 そうなんです。だから、心のどこかでいつも「このままではつまらない役者になってしまう」と焦っていました。それが「ぐるりのこと。」で変わったんです。この映画は、今までのようなハッタリは通用しないと思ったし、実際、通用しませんでした。監督からは毎日「ダメだ、ダメだ」「なぜそんなにできないの?」としかられてばかり。たぶん、千回以上、監督に「ダメ」と言われていると思います(笑い)。でも、お陰で執着も何もかも全部捨てて、自分をゼロにできました。だから「ぐるりのこと。」を撮った一昨年から、ようやく女優としての一歩を踏み出した感じです。

 追い込まれて限界を超えたところから生まれてきたものがいっぱいありました。芝居とはこういうものなんだと教えてもらった作品でした。前は自分の中で、1と思ったら1の芝居をしなければと思い込んでいた。でも、違う。10でも100でもいい、自分にうそをつかなければ、どんなふうに演じてもいいんだと思えるようになりました。

 お芝居って結局、私が演じているから、私の人生が出てしまうんですよね。だったら、お芝居を一生懸命やるだけでなく、人生をいかにどう生きるかのほうが大事なんじゃないかと。そういうことも考えるようになりました。いろんな意味で視野が広がりました。

 楽しいというより、自由になった感じ。芝居だけでなく、人生の様々なことが愛(いとお)しく思えるし、慈しめるようになった気がします。

 人生に無駄はない、学ぶことが山のようにあるのだとその時知りました。入院中、窓から見える景色しかないのですが、朝がくるだけでうれしかったし、雨の音を聞いているだけでも心地よかった。小さな幸せを積み重ねてこそ、人は心豊かになるんだなあと気づかせてもらいました。また、多くの方にご迷惑をおかけしたのに、皆さんが温かく支えてくれたのもうれしかった。それまで以上に人との出会いを大切にするようになりました。

 20代の頃とは別の人みたいです。あの頃はいつも何かに追われていて、夜見る夢も大スペクタクルでした。

 前はコンプレックスと「この仕事しか私にはやれることがない」という思いが原動力でしたが、今は、女優として何か人の役に立てたら、という気持ちが強いです。

 年を重ねるのっていいですよね。どんどん自由になっていく感覚が今はあって、それが今はおもしろくてたまらない。性格がかなり前向きになったのか、嫌な人がいても、その人に心を煩わせることすら時間の無駄と思ってしまうほど、一瞬一瞬を大事にして生きていきたい。きっと、もっと楽しいことがあるだろうし。本もいっぱい読みたいし、映画もたくさん観たいし、いろんな人と出会いたい。そう思うと、本当に時間が足りないですね。