「古の武士道を存して全き者は、独り君有るのみ」
「兆民は当時、勝海舟と親しく交わり、薩摩・城山で自刃して果てた西郷隆盛の第二維新に賭けた夢を知り、西郷こそ抜山蓋世(ばつざんがいせ)の英雄と高く評価した。西郷が生きていたならば、彼を担ぎ出してクーデターを断行し、西郷・勝連合政権を樹立、第二維新を成就したかったと慨嘆した。幸徳秋水は『兆民先生』にこう書いている。
「先生又海舟翁の談に依て、西郷南洲翁の風彩を想望し、欣仰措(きんぎょうお)かず、深く其時を同じくせざるを恨みとせり。西郷南洲をして在らしめば、想うに我をしてを其材を伸ぶるを得せしめならん。而(しこう)して今や即ち亡し」
洋学紳士君は、民主共和・軍備廃止・戦争放棄など進歩主義を主張する民権論者、一方の東洋豪傑君は欧米の侵略勢力に抗して、目本の自尊自立を主張する国権論者である。而して、兆民は分身たる南海先生に「いかなる知識も学説も、品質高尚なる人間の作用を助けるときには価値高きものとなるが、品質低劣なる人間と結びついたのでは、なんらの価値なきものとなる」(草津珍彦著『武士道』)と論じさせる。兆民は南海先生の口吻を借りて、如何に優れた知識や学説であっても、それを実践する人間が人格低劣であっては、全くの没価値であると喝破したのだ。」
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