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【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 むなしい郵貯引き上げ論議

反対論は相も変わらぬ「官業による民業圧迫」だが、肝心の民業はとっくに国内にそっぽを向いている。

官だ、民だという次元だけでは何も解決しない。この際、日本の金融業全体を見直すべきだ。

 郵貯など市場経済の原則によらないカネの流れを太らせることは、経済全体の効率を悪くする。経済理論上はそうだ。「民のものは民に」という2001年からの「小泉・竹中改革」路線は国内でも多くの支持を集めたものの、結果はどうか。

 2001年から06年にかけての小泉政権時代、日銀によるゼロ金利政策量的緩和政策が実施された。改革路線に乗って、銀行は1990年代のバブル崩壊後の不良債権処理を急ぐとともに、相次ぐ大型合併による国内業務の合理化と取り組んだ。この間、銀行は日銀からゼロ金利で大量に供給される資金を、円やドルなどの形で住宅ブームにわく米国や欧州の投資ファンドや金融機関に流すようになった。デフレに沈む国内で「貸しはがし」に精力を注ぎ、代わりに米欧などの海外融資に奔走する。異様である。


 円資金は融資を受けたヘッジファンドなど米投資ファンドにより為替市場で売られ、ドル建ての金融商品で運用される。余剰資金流入で米住宅市況は上昇し、消費ブームをあおった。日本では円資金の流出を背景に円安が定着し、自動車などの輸出主導で業績を回復させた。中国をはじめ新興国も輸出主導で高度成長を続け、日本の輸出増に弾みをつけた。日本国内向け融資は2005年末に下落に歯止めがかかったものの、増加は長続きしない。


 米国の住宅ローンを担保とする金融商品は住宅とともにバブルと化し、08年9月の「リーマン・ショック」をきっかけに、史上未曾有の金融危機を引き起こした。不良資産化した米金融商品の処理総額は、日本円換算で1千兆円に上る。輸出が急減した日本はデフレが悪化し、物価下落以上に所得が下がり続けている。

国内ではデフレを、海外では金融バブルを引き起こす有力要因になった日本の金融業は、世界金融危機の教訓から何も学んでいない。

 米国はボルカー経済再生諮問会議議長(元米連邦準備制度理事会FRB=議長)主導で、投資ファンドなどへの銀行融資を禁じ規制案を打ち出した。貯蓄マネーを運用する銀行をファンドから遮断せよ、というわけで、日本の銀行融資モデルは米国新基準に合わない。

 では、金融業をどう立て直すか。「民」は国内の貯蓄を国内融資に回し、企業を育て、消費者の便宜を図るという原点に回帰すべきだ。日本郵政も政策金融機関も民の限界を官が補完することで日本型金融の再生、デフレの克服につなげなければ存在意義に乏しい。大局観のない郵貯限度額引き上げ論議はむなしい。