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これからの日本企業、日本人

樋口
これからの日本は、中国式の競争の場にもう一度出て行くということではなく、新しい国の形を追求していく必要があるのではないかと思います。

奥田
日本人は、普段からもう少し宗教観、いや死生観といったほうがいいかもしれませんが、そういうものを持ち、死と毎日対決しているという意識で生活していく必要があると思います。人間は、絶えず死生観を持っていて初めて充実した生活ができます。それが何もなくて、命は金で買えるというような気持ちでいると、会社としても人間としても成功しないでしょうね。

樋口
今の日本人には、自足の精神がないですね。昔の成長の夢を追っていて、心がすさんでいく。今の日本の価値基準は拝金主義で、どこかおかしくなっているという気がします。

奥田
会社のエリートも、官僚のエリートも、受験勉強の偏差値は非常に高いけれども、人生の偏差値の高さには必ずしもつながっていない。若いときに、落ち込んだり、失恋したり、酒飲んでひっくり返ったりした経験がなく、人生を知らない人たちが国を引っ張っていくと、国もアンバランスになっていくという気がします。

樋口
先ほど、2003年はせいぜいよくて1%程度の成長だろうというお話がありましたが、そういう低成長にわれわれは慣れていかなくてはいけないということですか。
 奥田
多分そうでしょうね。だからこそ多様性が大事になり、個人個人が自分の趣味や個性を活かして生きていく。高度成長時代には、やれ車が買えたとか、やっとクーラーが手に入ったといった楽しみがありましたが、今は自分なりの価値観を持っていないと、楽しいことがない。楽しくなろうとすれば、もっと別の世界を求めていかなくてはならないと思います。

奥田
そうだと思いますね。明治時代の生活に戻ればいいという人もいますが、それよりも、スイスなどヨーロッパの小国のように生活を楽しむという生き方を日本人も学んでいかないといけないと思います。
ただ、日本は、まだまだ住環境が悪いと思います。物質的に満足していると言っても、本当に豊かで良質な住宅、広くて快適な住宅に住んだことのない人が、日本人の大半です。

奥田
それは、トヨタ自動車に限らず日本企業の多くに創業家がいて、それを求心力にして会社をまとめているからではないでしょうか。だから、派閥ができないのです。派閥が会社の中でできるのは、次の社長を目指して、副社長や専務が徒党を組んで閥をつくってしまうからではないかと思います。

奥田
トヨタ自動車が成功しているのは、TPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式で会社がうまく廻っているからではないかということで、世界中からたくさんの人がトヨタ生産方式を学びにきます。では、それを具体的に展開して成功した会社があるかというと、全然ない。そこで、何かもっと別のものトヨタにはあるのではないかと考えたケンブリッジ大学の先生は、会社に入ってからのトレーニングや、今言ったコミュニケーションとか、組織とか、そういうものが絡み合って、人材がいかに現場で100%能力を発揮して働けるかが大切で、トヨタはそこら辺に暗黙知がある、だから、トヨタの秘密はTPSではなくて、人材に関しての暗黙知だと書いた本を出しています。
もう一つうちの会社の特徴は、現地現物を徹底しているところです。年に一度は全役員が集合して必ず各工場を見に行きますし、地方へ行けば、ちょっとした時間を見つけて販売店に話を聞きに行きます。また、年に二回は、東富士に新車と対抗車を100台くらい集めて、全役員が試乗します。ものを見て判断するという現地現物はどこの会社でも大事なことでしょうね。


樋口 公啓 - 卒業生インタビュー | 慶應義塾大学経済学部・大学院経済学研究科

「そうですね、学生時代は会計学とか簿記とか商学関係を中心にやっていたように思いますが、会社に入ったあと若い頃に配属された人事部では、いろいろと考えねばならなくなった。給与制度改革の仕事に回されたんですが、そこで『サラリーマンにとって給与とはどういう意味があるのか』『給与制度とはそもそも、どういう意味があるのか』『労務管理とは何か』といったところから始まって『会社とは一体何の為にあるのか』といったところまで考えざるをえなくなった。それぞれに疑問が生じると、それに関連する本を読む必要が出て、仕事に関連していろいろな興味が沸き出してきましたね

会社っていうのは、社会の為に存在しているんですよ。社会の為に社業を通じて何らかの貢献ができなくなったら、会社は存在している意義がないと私は思っているんです。利益だけ上げようと思ったら、我々の会社も損保は辞めて、資産運用だけで食っていったほうが、ひょっとしたら儲かるかもしれない(笑)。でもそれは、許されないことだと思うんですよ」

―― 経済原論などでは、企業は利潤追求であるということを説いていますし、経済学というのは、ある意味では誤解されやすい学問なのかもしれませんね。


「基本的に利潤追求というのは正しいと思いますよ。ただやり方の問題なんでしょう」

古来君子と小人の違いは窮した時にみだれるかどうかだと言われますが、今はみだれる人が多い。みだれていると気がついてさえいないのかもしれません