私の取材では、菅内閣不信任案は1日夜の段階で、民主党からの賛成者が約90人に上り、可決される情勢になっていました。だからこそ、菅首相も「退陣の意向を表明するから、内閣不信任案だけは否決してください」となったのです。
そうである以上、退陣の時期は「近い時期」と受け止めるのが当然です。
密室の政治家同士の約束なら、だましたり、だまされたりということは日常茶飯事ですが、菅首相の退陣意向の表明はテレビ中継され、国民の目の前で行われました。われわれマスコミだけでなく、国民のみなさんのほとんども「菅首相は近く辞めるんだ」と思ったことでしょう。それを夜になって、長期続投の意向を表明するのは、明らかに国民を欺く行為です。
「詐欺」は今回が初めてではありません。昨年8月30日も、菅首相は民主党代表選告示を前に鳩山氏と会談して、小沢一郎元代表の出馬を回避するために、菅、鳩山両氏に小沢一郎元代表、輿石東参院議員会長を加えた「トロイカ+1」で党運営をしていくことで一致し、菅、鳩山両氏が並んでテレビカメラの前で明言しました。
これを受けて、小沢氏は出馬回避の調整に入りましたが、翌日になって、菅首相は「あらかじめ人事の話をするのは国民からみて容認できない」と一変。約束をほごにされた鳩山氏は「ぼくは何だったんでしょう」とこぼしましたが、時すでに遅しで、民主党は代表選挙に突入しました。
政局だけならまだしも、菅首相は外交でも「詐欺」をしました。昨年9月の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、中国人船長を処分保留で釈放したことです。菅首相はじめ政府は「那覇地検の判断だ」としましたが、これは真っ赤なウソで実は「菅首相の指示」によるものなのです。
私は関係者に取材を行い、複数の閣僚、政府高官から「菅首相の指示で行われた」との証言を得ました。残念ながら、物証など明確なウラがとれなかったため、記事にすることはできませんでしたが、ウソを塗り固めるための工作が行われたのは間違いありません。
こうしたことを振り返ると、たとえば証言が二転三転した今年3月12日の東京電力福島第1原発事故の海水注入問題も、私は菅政権と東電は「ウソをついているのではないか」と思ってしまいます。