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【次代への名言】温故知新編(50)

「多くの人たちの中傷と嫉妬は、ほかの多くの善(よ)き人たちを罪に陥れてきたし、これからも陥れ続けるだろう」ソクラテス

 ソクラテスはその後半生、彼にとってよい意味でも悪い意味でも、有名人だった。紀元前423年、彼が50代に近づいていたころ、古代ギリシャの“喜劇王”だったアリストファネスが彼を主要登場人物に配した『雲』が上演された。


 《道中気取って練り歩き、左右を横目でにらみ、裸足(はだし)でもってつもる災(わざわい)も平気の平左(へいざ)》(言語学者、高津春繁訳)


 『雲』に現れるソクラテスの風貌だ。彼は下品で物欲のかたまり、また、不敬の詭弁(きべん)家の典型として描かれるのだが、ソクラテス自身はこう回想している。


 「まったく想像もつかないようなたわごとを、このソクラテスなる人物はしゃべりまくっているのです」

 当時、ソクラテスは、多く「ソフィスト」と呼ばれた雄弁と知識、また詭弁に長(た)けた人々を次々と論破していた。


 「彼らの雄弁術に知識など必要ではない。必要なのは、知識のない者の目に、真の知識をもつ人よりも知っているように見せかける説得術をひねりだすことだけではないだろうか」。皮肉にも『雲』のソクラテスは、本物のソクラテスがこう批判したソフィストたちの姿だった。

 「なぐれ、打て、わけは山ほどある中でも、神々を涜(けが)した罪が一番だ」(同)


 『雲』のラスト、ソクラテスに浴びせられるせりふである。初演から24年後、この悪罵と同じ罪状で、ソクラテスは告発される。