No.180
空海の誕生は宝亀五年(七七四)である。桓武天皇による平安遷都の年(七九四)に、空海は数え二十一歳になっていた。青春のまっただ中に、社会の大変動と識者たちのかかえていた課題、にぶち当った空海が、これを自身の課題に置き変えて考えないはずはない。この時局を生きぬくには、まさに自由な学問と思索が必要である。心ゆくまで学びたいものを自由に学び、何のとらわれもなしに自由に思索する。そこにこそ新しい時代の新しい道がひらけるのである。そうした心づもりをしながら、高い理想を追っていた空海にとって、当時の大学の授業と教育内容は、理想とはほど遠いものであった。