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焦点:黒田シナリオに「誤算」、強気姿勢で緩和観測招く | Reuters

日銀が30日公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で示された物価見通しは今回も下方修正され、物価をめぐる日銀の見立てに誤算が生じたことを浮き彫りにした。


それでも従来の強気シナリオを維持した結果、原油価格の影響がはく落した時点での物価動向が問われる結果となり、かえって追加緩和がより濃厚になった、との見方を招いている。

市場では「達成期限について柔軟に考えているということだろう。2年程度の旗は建前上降ろさないが、事実上曖昧化していると言える」(SMBC日興証券・シニアエコノミスト宮前耕也氏)との見方が出ている。達成時期の先送りもかかわらず、原油価格下落の影響がはく落するに伴って2%に向けて上昇率が高まっていくとの従来のシナリオを維持したため、秋になって物価が15年度の見通しに達する見込みがないことが明らかとなれば、追加緩和せざるを得ない、というのが多くの市場関係者の見立てだ。


15年度の物価の政策委員見通しの中央値は0.8%。原油安で当面0%程度で推移するとしている日銀の見立てからすると、年度後半には1%を大きく超えなければ達成はできない。今回の展望リポートでも示されたように、原油の物価下押し寄与度は15年度0.7─0.8%程度。下押し圧力がなくなった場合に、どこまで物価上昇圧力が生まれているかが問われることになる。

成長率見通しが2%の物価上昇に見合っていない印象を与える背景には、想定されていた経済環境の好転がなかなか表れてこない面も影響しているとみられる。


本来であれば、昨年10月以降の日本経済は、円安進行による輸出・生産の改善や、今年秋に実施されるはずだった消費税引き上げの先送り、原油安による交易条件の改善、昨年以上の春闘での賃上げ率など、成長率押し上げや需給ギャップの改善が物価を押し上げる条件が整ってきていたはずだ。


日銀も、そうした経済環境を念頭に、強気の物価シナリオを組み立ててきたと思われる。しかし、3月の経済指標をみても、カバー範囲の広い商業動態統計の小売業販売額が1─3月に前期比2%を超える減少幅となったショックが広がっている。

何よりも、異次元緩和が狙う最大の目標である期待インフレ率も、当初の狙い通りに上がっていない。内閣府の「消費動向調査」の1年後の物価見通し調査からロイターが試算した期待インフレ率は、昨年第4四半期には2.97%まで上昇していたが、その後徐々に低下、3月には2.80%となっている。日常的に購入するモノ・サービスやガソリン価格などに影響されやすいのがこの調査の特徴だ。


展望リポートでも、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率のペースについて「現実の消費者物価の前年比が当面0%程度で推移することが影響するリスクがある」と指摘され、「物価見通しには下ぶれリスクが大きい」との判断が示されている。日銀も、ベースマネーの大量供給と2%物価上昇へのコミットメントを通した人々の期待インフレ率への働きかけには、当初ほどの自信はないとみられる。


さらに、これと連動して、販売価格の引き上げが進まないリスクも、展望リポートでは指摘されており、実際にそうした傾向をうかがわせる調査結果もある。

物価を巡る日銀のシナリオ通りに動いているのは労働需給だ。3月短観では全規模全業種で労働力が不足超過となっている。賃金の増加傾向も確認されており、春闘では昨年以上の賃上げ率が中小企業にも広がり始めている。


農中総研・首席研究員の南武志氏は、「14年度はマイナス成長だったが、雇用はしっかりとした動きを続けており、日本が直面する労働供給制約が大きく影響している。先行き2%絡みの成長率になれば、一段と労働需要が強まり、労働需給が逼迫、賃金・物価の上昇率を想定以上に高める可能性はあるのは確か」とみている。


人口問題に起因する人手不足と賃上げに助けられて、企業の価格転嫁がどこまで進むか。人々の期待インフレ率が上昇していくのか。秋を迎えるまでに、こうした動きが日銀の想定通りに進むか、マクロ経済の動きに注目する必要がある。

焦点:物価目標2つのハードル、「緩和バイアス」に軸足か | Reuters

日銀が30日に公表した展望リポートは、2016、17年度と2年続けて物価が目標とする2%程度で推移する強気の姿を描いたが、同時に「下振れリスクが大きい」とも言及し、強気になり切れない微妙なスタンスをにじませた。


目標達成には物価をめぐる2つの大きなハードルが待ち構えており、予断を許さない。日銀は実質的に「緩和バイアス」に軸足を乗せて、当面の政策運営をするとみられる。

4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で注目された消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の見通しは、15年度が平均で0.8%上昇(消費税率引き上げの影響除く)と1月時点の1.0%上昇(同)から小幅下方修正されたが、16年度は同2.0%上昇、新たに公表した17年度は同1.9%上昇(同)となった。


想定通りとなれば、日銀が目標に掲げる2%程度の物価上昇率(総合指数)が16、17年度と2年連続で実現することになる。日銀は現行のQQEについて、2%の物価安定目標の実現を目指して「これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」としており、見通し上は17年度までのどこかの段階で、出口政策に移行しても不思議ではない内容だ。


しかし、黒田東彦総裁は30日の会見で、出口政策の議論は「時期尚早」と引き続き封印した。同日の金融政策決定会合でも「出口の議論はなかった」とし、「今の時点の見通しで、出口の時期は特定できない」と語った。


昨年夏以降の原油価格急落を受けて、足元のコアCPIはゼロ%に鈍化。今回の展望リポートでは、物価2%の達成時期もこれまでの「15年度を中心とする期間」から「16年度前半ごろ」に先送りされており、不用意に出口政策に言及すれば市場が混乱し、目標達成が一段と後ずれしかねないとの判断とみられる。

むしろ、物価2%実現の経路には、いばらの道が待ち受けている。日銀は、コアCPIの先行きについて「当面ゼロ%程度で推移するとみられる」としているが、これは夏場にかけてエネルギー価格下落による物価下押し圧力の拡大が、確実視されているためだ。


一方、賃上げや企業の価格転嫁などを背景にした「物価の基調」は次第に強まるとし、ゼロ%を中心に両者の綱引きが続くとみている。


もし、物価の下押し圧力の強まりとともに、マイナス幅が広がっていく事態になれば、基調の弱さを認めざるを得ない。総裁は会見で、2%実現時期が後ずれする理由について、一部の委員の意見として個人消費需給ギャップの改善の遅れを指摘した。30日の会合では金融政策の現状維持が決まったものの、目先の物価の動向からも目が離せない。

その後を展望しても、さらに高いハードルが待ち構えている。日銀では、原油価格下落の影響のはく落とともに実際の物価上昇率が高まり、それを受けてインフレ期待も上昇、15年度後半以降は2%に向かって物価上昇が加速するとみている。市場との大きな隔たりがここにある。


民間エコノミストの予測を集計したESPフォーキャストによると、15年度前半のコアCPIはゼロ%程度の上昇率にとどまるとし、この点は日銀の見通しと大きく変わらない。


しかし、民間エコノミストは15年度後半にコアCPIが上昇しても、せいぜい1%に満たない上昇率で、16年度を通じても1%台前半の伸びにとどまるとみている。16年度前半に2%に達するとみている日銀とのギャップは大きい。

今年度前半の物価下押し圧力の拡大に対抗できる「物価の基調」の強まりと、年度後半以降の急速な物価上昇の実現。


この2つの難関を突破できない場合、日銀は目標達成期限の先送りか、追加金融緩和のいずれかを迫られることになる。


展望リポートでは、物価の先行きについて「下振れリスクが大きい」とあらためて言及した。強気の経済・物価見通しを示したものの、日銀の想定通りに「物価の基調」が強くなっていくのかどうか、不透明感が強い。


市場には、日銀の次の一手は「出口」よりも「追加緩和」との期待感が広がりやすくなりそうだ。