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北朝鮮崩壊で一番困る中国と韓国は制裁に本気になれない|田岡俊次の戦略目からウロコ|ダイヤモンド・オンライン

 だが肝腎の北朝鮮からの石炭、鉄、鉄鉱石の輸出については、北朝鮮国民の生活に影響を及ぼさない範囲で禁止する内容となっており、中国はその輸入を続けることができる。


 また北朝鮮に対する航空燃料、ロケット燃料の禁輸を定めてはいるが、原油の輸出は禁じておらず、北朝鮮は石油精製能力を持つから、中国から原油輸入を続け、航空用・ロケット用の燃料を造ることが可能だ。

 韓国の「大韓貿易振興公社」が昨年発表した「2014年度の北朝鮮対外貿易動向」によれば北朝鮮の貿易の90.1%は対中国で、ロシアは1.2%、インドが1.2%、タイが1%という。ただこれは韓国との交易を含んでいない。南北の取引は「対外貿易」と見なしていないためだ。


 実際には韓国と北朝鮮は国連にそれぞれ加盟しており事実上は別の国だから、韓国統一部の「統一白書2015年版」による南北の交易23.4億ドルを含めて計算すると、北朝鮮の貿易額は2014年で99.5億ドル、うち中朝貿易が68.6億ドルで69%、南北交易が23%となる。


北朝鮮の貿易は経済制裁にもかかわらず急速に増加した。韓国以外の貿易額は韓国側の計算によれば2010年に輸出25.6億ドル、輸入35.3億ドルだったのが、2014年には輸出43.6億ドルで1.7倍、輸入55.9億ドルで1.6倍になった。そのGDPも韓国統計庁の計算では2011年以来、毎年約1%程度とはいえ伸び続けている。


 企業や農場が自主的に経営を行い販売することを認める独立採算性の導入などの市場経済化が経済の若干の活性化をもたらし、食料事情もかなり改善されたようだが、中国との貿易の拡大も大きな要因だった。だが中国で公共事業が一段落し、ビル建設ブームも去って鉄が余る状態になったため、一昨年からは減少傾向になった。


北朝鮮の中国への第一の輸出品目は石炭で輸出額の約40%を占め、衣類、鉄鉱石、魚類、鉄鋼、亜鉛がそれに続く。主な輸入品は原油、石油製品、電気機器、機械類、プラスチック製品などだ。

北朝鮮旧ソ連が1990年9月に韓国と国交を樹立し、中国も92年8月それに続いたため孤立し、独力で韓国軍、米軍に向かい合う恐怖心から核開発に向かった。北朝鮮を見捨てて韓国に付いたソ連北朝鮮への石油などの輸出にドル払いを要求し、即金で払えないとすぐに供給を停止するという冷酷な姿勢を示したのに対し、中国はソ連ほど露骨に北朝鮮を突き放さず、外貨が乏しい北朝鮮に物々交換のバーター取引や延べ払いで最小限の食料、石油などを供給し北朝鮮の崩壊を防いだ。


 だが北朝鮮が欲しがった対空兵器や艦艇などの武器は渡さず「生かさず殺さず」の援助を続けた。その一方で、中国は韓国との経済関係を飛躍的に拡大させたから巧妙な政策だった。


核兵器弾道ミサイルの開発はやめるべきだ」との中国の度重なる忠告を聞かない北朝鮮は、中国の面子を失わせてきたし、それが韓国とますます親密になる中国に向けられる危険性もゼロではない。中国が世界の非難の的である北朝鮮を支援しているように思われては、米国、日本をはじめ大多数の諸国との関係上も不利だから、中国の識者からも「北朝鮮に対しもっと厳しい姿勢を取るべきだ」との提言が出るのは当然だ。


 だが、中国は一見厳しいように見える制裁決議に賛成しながら、米国などとの交渉で制裁案に抜け道を用意し、北朝鮮の崩壊を防ごうとする。


 もし北朝鮮が崩壊すれば、脱北者を止める北朝鮮軍は雲散霧消し、大量の難民が押し寄せるのを中国が警戒しているのは明らかだが、多分それだけが理由ではなかろう。

「韓国による朝鮮半島の統一が行われれば緩衝地帯が消え、中国は米軍と向き合う形になることを怖れている」との見方が米国にあり、日本でもそれを言う人々は少なくない。だが、中国にとっては米軍よりも韓国軍が中朝国境に進出する方が脅威ではないか、と考える。


 かつては北朝鮮の背後にソ連軍、中国軍がいたから、米国も1990年時点で韓国に陸軍3万2000人、空軍1万2000人余を置いていたが、冷戦が終了し、ロシア、中国が北朝鮮を見捨てて韓国と親密になり、北朝鮮軍が衰弱する一方、韓国軍の近代化が進んで通常戦力では圧倒的になったから在韓米軍は縮小し、今日では陸軍1万9200人、空軍8800人になった。


 韓国には米陸軍の第8軍司令部があり、その下に第2歩兵師団などがいることになっているが、第2歩兵師団の主力だった2個旅団のうち1つはイラク戦争に派遣され、その後本国に戻って解散した。残っていた第1旅団も昨年7月に解体となり、代わりに米本土から9ヵ月交代で1個機甲旅団(約4600人)が派遣されている。


 韓国に常駐している米陸軍はヘリコプター部隊、ロケット砲部隊、対空ミサイル部隊などだけになった。財政危機の中、米陸軍は現在49万人弱の兵力を来年までに45万人に削る方針で、在韓米軍の兵力にも影響が出そうだ。


 もし北朝鮮の崩壊後、米軍の一部が核施設の処理などのために北朝鮮に入ることがあっても、鴨緑江などを越えて中国に攻め込むことは考えにくく、中国にとって米軍を恐れる必要はなさそうだ。

 一方、韓国陸軍は兵力49万5000人で米陸軍をしのいでおり、戦車2400輌(うち旧式850輌)装甲車2100輌、大砲、ロケット砲5000門、ヘリコプター500機などを持つ近代的な大陸軍だ。

 他方、韓国にとっても統一は民族の悲願であっても現実には災厄となる公算が大だ。東西ドイツの統一と比較しても状況は格段に悪い。


(1)1990年のドイツ統一の際には、西独の人口が6036万人、東独が1666万人。3.6対1の比率で、約4人が1人を助ける形だったが、今日の韓国は4911万人、北朝鮮は2498万人でほぼ2:1の比率だ。


(2)統一前の東独の1人当たりGDPは約6000ドルと推定されていて、ソ連圏の東欧では最も豊かな国だったが、北朝鮮のそれは国連の推計で2014年に696ドル、世界213ヵ国中197位の最貧国だ。


(3)西独は当時対外純債権3584億ドルを持つ世界最大の債権国だったが、統一の負担で、それをほぼ使いはたした。韓国は長く純債務国で、2014年末にはじめて対外債権が対外債務を上回る純債権国になったばかりで西独のような余裕はない。


(4)韓国の全国経済人連合会が国内の経済研究所や証券会社の専門家20人にアンケートした結果を2010年9月に発表したが、それによれば統一の費用は少なくとも3500兆ウォン(約350兆円)で韓国の2015年のGDP1561兆ウォンの2.2倍に当たる。

 実は周辺諸国が「北朝鮮に潰れられては皆が迷惑」と思っていることこそが北朝鮮にとって最大の「抑止力」であり、核兵器弾道ミサイルは体制維持に不要、有害であることを納得させるのが安全保障の良策ではないか、と考えざるをえない。