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1000年単位の歴史観を持てば未来の潮流が見えてくる|ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター 御立尚資|ダイヤモンド・オンライン

――連載では、書籍の執筆やテレビのコメンテーター、経済同友会などでの「課外活動」が、コンサルタントとしての「職人」の仕事や「経営」の仕事と深く関わるようになってきたと話しておられました。具体的には、どういう関わりがあるのでしょうか?


御立 いろいろなことをやらせてもらったので、飽きるヒマがなく、辞めずに済んだ……というのは冗談ですよ。一言で言えば、ビジネス以外の要素が企業業績に与えるインパクトがどんどん大きくなっている。そういう時代背景のもとでは、通常の経営学以外の領域とビジネスをつなぐ力がないと、「職人」としてもクライアントの相談相手になりきれないわけです。


ダボス関連の会議に出る、異分野の専門家と本を書く、といった「課外活動」は、自分が学ぶ分野を経営学から「横」へ広げる活動でもあるので、いわば「職人の修業2.0」みたいな意味があります。もちろん、自分ですべての分野に精通できるはずもないので、学際を「つなげる」ところまで行きたいですね。


 BCGグローバルの経営を考える上でも、同じようにノンビジネスの視点が不可欠になってきた実感があります。

 シニアなコンサルタントは、さまざまな業界や会社を見ているので、複眼での比較くらいまでは普通にできるようになっています。

 企業ではどうか。異なる部門やバックグラウンドの人たちを集めて、共同で研究開発や商品開発をするとしましょう。時には、大学など外部の人たちにも参画してもらう。ここまではいいとして、本当に何か価値を生む結果を出すには、バラバラのものをホッチキスで留めるだけでは何も生まれない。束ね、つなげていく共通言語と、それを駆使して横をつなぐ人材が必要になります。


 面白いことに、こういうことがうまい会社は、自らの「ビジョン」とか「社是社訓」とか「社風」みたいな、「必ずそこに立ち返れば、話は通じる『根っこ』」にこだわっていることが多いですね。

 ところが、通常の任期リミットを1年超えて7年務め、退任した際に、好敵手だったフランス人にこう言われました。「お前の議論の仕方は、本当にユニークだ(笑)。誰が何を言うか、全部事前に読んでいるだろう。この何年間か見てきたが、無用な喧嘩なしに、自分の意見を会議で一番通したのはお前だ」と。


 確かに、重要な議題については、「誰はどういう理屈で何を言いそうか」「誰はどういうことに感情的なひっかかりがあるか」あるいは、「誰と誰は折り合いが悪いか」まで必死に考えてから臨みました。日本人らしく、事前準備から「空気を読む」のです。その上で、議論の流れの中で、一番効果的な弾を撃っていく。

 ちょっと横道に逸れるようですが、バンドマンをやってきて、わかるようになったことがあります。セミプロ級の人はアドリブ8小節のなかでどこを目玉にするか分かっている。もっとレベルの高い人は、これに加えて、1曲全体のなかで、どこで何を伏線にしておいて、どこで思いきったメリハリをつけるかを考える。さらにプロはこれに留まらず、複数の曲を並べて1ステージの間でどういううねりをつくるべきかまで含めて、俯瞰して見えている。つまり短い小節単位の時間軸とステージという長い時間軸の両方を同時に持って動くのが音楽のプロです。


 経営者も同じで、短期に数字をつくりながら、10年単位では過去の経営者が紡いできたものを受け継ぎつつ、後任者に引き継ぐという視点がどうしても必要です。変化を乗り切り、企業を生き続けさせるためには、30〜50年レンジで産業レベルの栄枯盛衰を見る視点がベースになる。さらに、農業革命、産業革命以来の社会経済の歴史や人口変動などの1000年単位での動きを見ていくことも必要です。要は、超短期から超長期までの時間軸を同時に持っていないと経営ができなくなっているように思えるのです。

――歴史観、文明観を持つというのは、知識の広さが求められます。J・S・ミルは、「SomethingについてEverythingを学び、同時にEverythingについてSomethingを学べ」と言っていますが、まさに深い教養が重要ということですね。


御立 単なる知識の積み重ねにしないためには2つの視点が必要だと思います。


 まず、ローマ五賢帝の一人であるマルクス・アウレリウスが言ったことが深い意味を持つと思います。「人生はダンスよりもレスリングに似ている」という言葉です。


 要するに、ダンスは軽やかで優雅なのですが、押されたら倒れかねない身体動作。一方レスリングはどこから相手が攻めてくるか分からないので、自分の重心をどっしりと置きながら、一方で自由に動ける体勢をとる。アウレリウスは蕃族との戦いの日々を送りました。彼にとっては、自由度を保ちながら、しっかり重心軸を意識するレスリングこそが、自らの姿勢のアナロジーとして、ぴったりだったのです。

――ところで、これまでのコンサルタントとしての経験を通して、感服した経営者はいましたか。


御立 たくさんいらっしゃいます。ただ皆さん、名前が出ることを嫌がられますので共通項をご紹介します。


 まず、「この人はすごい」と感じた経営者たちはほぼ全員、「人間を判断する能力とスピードがただ事ではない」です。最新の知識を持ち、戦略をつくる能力であれば社内にもより優秀な方はいると思うのですが、誰を信用して誰に何を任せるかを間違えないから大企業のトップになったのだと感心させられます。人を選ぶのが下手くそな人はやはり長持ちしません。

御立 そうです。強い会社は、「勝ちパターンを磨いています」と言うけれど、本当は次々と勝ちパターンを変えているのです。苦しい会社ほど勝ちパターンを変えずに、外部環境が変わっているのに拘泥し続けている。優れた経営者は、勝ったとしても結構、引いて見ているものです。


――結局、優れた経営者は捨てる作業の思い切りがよい、という側面が強いんですね。


御立 それはそうです。戦略の本質で一番大事なのは、何をやらないかを決めることなのです。リーダーシップと一口に言っても、「こういう感じのリーダーシップは俺ではないな」とクリアであればあるほど自分のリーダーシップスタイルを紡ぎやすい。頭のよい人はどんな姿も演じられると考えがちですが、本質的にはそうではない。まぁ、これは人生そのものにも言えることですけどね。

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