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日銀は去年1月29日の金融政策決定会合で、異例のマイナス金利政策の導入を決めました。


これは、日銀が金融機関から預かる当座預金の一部に適用する金利をマイナスにして、いわば手数料を取る形にすることで金利全般を押し下げるとともに、金融機関に貸し出しを強く促す政策です。


政策の導入によって金利が大幅に低下したことから、住宅ローンの借り換えが急増したほか、企業が資金を調達するために社債を発行する動きが活発になりました。


一方で、企業の投資や個人消費は日銀の狙いどおりには活性化せず、消費者物価の上昇率は、先月まで10か月連続でマイナス圏内が続いています。


さらに、日銀の想定を超えて金利が低下したことで、地方銀行をはじめ金融機関の収益が圧迫されたり、個人や企業の資産運用が難しくなったりする副作用も現れました。


このため、日銀は去年9月、新たに長期金利にも誘導目標を設ける形に金融政策の枠組みを修正することになり、異例の金融緩和策は長期化を余儀なくされています。

日銀が去年1月、マイナス金利政策の導入を決めた背景には、中国をはじめ新興国経済の減速への懸念から株安や円高が進むなど、金融市場が不安定になり、デフレ脱却がさらに遅れるおそれがあるという危機感がありました。


マイナス金利の導入が決まると、国債の市場では少しでも利回りがプラスのうちに日本国債を買う動きが急速に広がりました。
国債は、買い手が増えて価格が上昇すると、利回りは低下する関係にあり、長期金利の指標となる償還までの期間が10年の国債の利回りは下がりつづけました。


黒田総裁は導入を決めたあとの講演で「中央銀行の歴史の中で、おそらく最も強力な枠組みだ」と述べるなど、政策の効果に強い自信を示しました。


そして去年6月、イギリスが国民投票でEU=ヨーロッパ連合からの離脱を決めるなど、世界経済の先行きが不透明感を増す中、投資家の間で比較的安全な資産として日本国債を買う動きが一段と広がりました。その結果、長期金利は、7月にはマイナス0.3%と日銀の想定を超える水準に低下しました。


これに連動して、償還までの期間が20年、30年の国債の利回りも日銀の想定を超えて低下し、保険や年金の運用が難しくなる副作用が顕在化しました。


そこで、日銀は行き過ぎた金利の低下を抑えるため去年9月、新たに長期金利にも誘導目標を設ける新たな政策の枠組みを決めました。黒田総裁が強い自信を示していたマイナス金利政策は、およそ8か月で修正を迫られた形となりました。


マイナス金利政策の影響で、活況を呈した代表例が、「住宅ローン」の市場です。


ローンの金利が過去最低の水準に低下し、特に借り換えの申し込みが急増しました。大手銀行5行のまとめによりますと、去年(平成28年)3月の1か月間で、借り換えの申し込みは、前の年の同じ月の3.6倍にあたるおよそ2万400件に上りました。しかし最近は、長期金利がいくぶん上昇したこともあって、借り換えの勢いは鈍化しています。


住宅ローンの借り換えと並んで増えたのは、企業が資金を調達するための「社債」の発行です。


証券最大手の野村証券によりますと、去年1年間に企業が発行した社債の額は10兆3000億円余りと、前の年より33%増加しました。返済までの期間が15年以上のいわゆる「超長期債」を発行する企業が増え、なかには期間が40年に及ぶ社債を発行する企業もありました。


一方、マイナス金利政策には「副作用」も指摘されています。


特に地方銀行は、企業や個人への貸し出しの金利を引き下げざるを得ず、さらに“利ざや”が縮小したことで、収益が圧迫されました。


金融庁のまとめによりますと、全国の地方銀行に「埼玉りそな銀行」を加えた106行の去年9月の中間決算は最終的な利益の総額が、前の年の同じ時期と比べ14%減少しています。


また生命保険会社の間では、契約者から預かった資金の運用が難しくなったとして、貯蓄性の高い保険商品の販売をとりやめたり、契約者に約束する利回りを引き下げたりする動きが相次ぎました。

マイナス金利政策による金利の低下で資金を借りやすくなった個人や不動産業者が、投資の一環として賃貸住宅を建設したり購入したりする動きが活発になっていて、日銀は、投資が過熱するいわば“賃貸バブル”とも言える事態にならないか警戒を強めています。


今月24日に東京都内で開かれた不動産投資のセミナーには、個人や不動産業者の関係者らおよそ40人が参加しました。セミナーに参加した埼玉県の森田正治さん(68)は、20年ほど前から不動産関連の投資を行ってきました。マイナス金利政策の影響で金利が一段と低下したのを機に、首都圏のマンションを購入して賃貸住宅として貸し出し、家賃収入を得る投資を考えています。


投資の活発化に加えて、土地を持つ人がマンションなどを建てると相続税の節税にもなることから、賃貸住宅は建設ラッシュとも言える状況になっています。


国土交通省によりますと、去年11月に全国で着工された住宅のうち、賃貸住宅を示す「貸家」の戸数は前の年の同じ月に比べて15.3%増えています。


しかし、投資先の賃貸住宅を探している森田さんは、確実に居住者が見込めるリスクの小さい物件は次第に見つかりにくくなっていると感じています。このため今後は、物件ごとのリスクをより慎重に見極めて投資を判断したいと考えています。
森田さんは、「マイナス金利の影響で個人投資家が増え、競争が激しくなっていて、家賃も下落している。下落率が低いような、本当にいい物件を探すのは難しくなっている」と話しています。


こうした個人の資金が賃貸住宅の投資に向かっている状況から、日銀が今月16日に開いた支店長会議では、賃貸住宅の供給が増えて家賃が下落しているという報告が相次ぎました。


日銀は、投資が過熱すれば、いわば“賃貸バブル”とも言える状況が生まれ、その後、賃貸住宅の資産価値が急落する事態にもなりかねないとして警戒を強めています。

契約者から集めた巨額の資金を運用している生命保険会社の間では、マイナス金利政策による金利の低下で国債の利回りが見込めなくなったことから、運用先を見直す「国債離れ」の動きが広がっています。


このうち、運用資産がおよそ27兆円に上る住友生命は、日本国債の買い入れを抑える一方で、為替が変動するリスクはあるものの、より高い利回りが見込める外国の国債社債の買い入れを増やしています。
今後の市場動向によっては国内株式の購入を増やすことも検討するということです。


藤戸方人常務は「非常に低金利なので、日本国債を中心とした運用はなかなか厳しい。そういう面ではマイナス金利政策は決定打だった。これからは、より細やかにリスクをコントロールしながら収益を出す運用をしていく」と話しています。

日銀の金融政策に詳しい調査会社、東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「全体としては、マイナス金利政策の効果は限定的だった。われわれの世代は将来に不安を抱えているので、金利が下がっても家計や企業は借金を増やそうと思わない。成長戦略や構造改革によって日本経済の将来に自信を持てる環境にしないと、いくら低い金利を日銀が用意しても家計や企業が利用する気になれないのが問題だ」と話しています。

#経済統計#リフレ#アベノミクス