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 本願寺法主蓮如研究の第一人者としても知られる大谷暢順師が、2018年5月3日、フランス語の著書『Le bouddhisme face au monde contemporain(現代社会の諸問題に佛教はどう応えるか?)』を、パリ市の出版社「Les Indes Savantes」(レ・ザンド・サヴォント)から刊行した。昨年、日本で発刊した『私たちは今の世をどう生きるか』(中央公論新社)のフランス語版。本願寺を強大な宗門に発展させた中興の祖・蓮如の教えから、哲学やフランス語に精通する大谷師が導き出した現代への提言は、日本やフランスのみならず世界の若者への指南書というべき示唆にあふれている。「自己自身を問うことから新しい生き方を発見する」という大谷師に話を聞いた。

 −−蓮如上人といえば浄土真宗の中興の祖であり、中世の思想家としても有名です。フランス語版出版のきっかけは


 大谷 もともと、仏教や蓮如上人について書こうと思ったわけではないのです。あえて言えば、日本やフランスの青年たちに今の時代について考えてほしいと思って書いた本です。


 −−青年ですか


 大谷 今、若者が迷っている。現代社会を生きるにはとまどうことが多いのではないかと思います。若者に限らないかもしれません。友人のINALCO(イナルコ、フランス国立東洋言語文化学院)の元教授が訳してくれることになりました。


 −−書くときにはフランス語でも考えるそうですね


 大谷 例えば主語や複数形など、日本語ではあいまいなときがあって、理論的に考えると、フランス語の方が適していることがあります。また、日本では宗教や政治の話は普段あまりしないものですが、フランス人は議論もよくして、腹を割って話せるところがある。フランス人の方がより理解してくれるかもしれないと思いました。もちろん、私は浄土真宗の僧侶ですから、真宗の教えが世界の混乱を救うに違いないという信念があります。

 −−「知れるところを問ふ」というのが大きなテーマです


 大谷 これは蓮如上人が言われた言葉で、息子の実悟が記した『蓮如上人御一代記聞書』などに書かれています。これを取り上げて論じた人は今までいないと自負しているんですよ。


 −−ソクラテスの「無知の知」の例えが秀逸でした


 大谷 自分は何も知らないということを自覚すべきだとソクラテスは言い、蓮如のいうところに通じます。だから「知れるところを問ふ」。すなわち、広大無辺の阿弥陀仏の他力にすがることを教えるという浄土真宗の教義なのです。


 −−また、「宗教は帰納法的経路をたどって生まれるべきもの」と書かれていて目を開かれた気がしました


 大谷 まさにそこが大事なところです。仏教を演(えん)繹(えき)法で説くからみなさん、ピンとこない。普遍的命題(公理)から個別的命題(定理)を導こうとするわけですが、私はそうではないと思うのです。発心の動機は人間一人一人に特異なもので、個別的で具体的です。それを抽象的に説法するから「もういいわ」となるんじゃないでしょうか。


 −−なるほど。そう考えると、仏教を身近に感じることができますね。つい「宇宙の真理である」などと大上段に考えがちです


 大谷 「お釈迦様は広い真理を教えようと出現された」と考えるから分かりにくい。お釈迦様自身の生れ育った国が今滅びようとしている、さあどうしたらいいのか、と考え、そこから出発したのが仏教であると。それをこの本でわかっていただけたらと期待しています。


 −−現代の社会や政治についても書かれています


 大谷 人類の危機を感じています。このままではいけない。


 −−何が問題ですか


 大谷 国家機構が整備され、その中にはめられてしまうと、自分の感情や意思などを生かすことができなくなっています。言論の自由といいながら、その枠の中にいるのですから、本当に自由ではないのです。例えば、西洋の中世は暗黒時代といわれますが、最初はそうではありませんでした。農業が発達して明るい時代だったのに、やがて封建制度で囲まれてしまい、漆黒の世界になる。つまり、興隆の諸原因をなしていたものが、そのまま衰退の諸原因になってしまうのです。


 例えば科学。たいていの人は科学を信仰していますが、その科学が原子爆弾を見つけたのですから。発展の要因が、いつの間にか衰退の要因に変わってしまっています。人間というものに課せられた宿命のようなものでしょう。これを佛教では「業(ごう) karman(カルマン)」と教えています。


 −−どうしたらいいのでしょうか?


 大谷 私にもわかりません。ただ、それをみんなで考えなければいけないと思います。


 −−「感(かん)恩(おん)」ということをおっしゃっていますね


 大谷 こんな熟語があるはずだと思って辞書を引いたらありました。あまり使われてこなかった言葉ですが、いまこそ「感恩」を広めたいと思っています。感謝は一方的にするものですが、感恩は響き合うもの。一方は恩を施す喜びがあり、かたや恩を受ける喜びがある。響き合い、増幅していくのです。これが大事です。現代の危機を救う一つの要素になると思っています。


 −−近年、日本の言葉が世界で意味を持つ例が増えていますね。


 大谷 「もったいない」とか「ありがたい」とか「おもてなし」などですね。実は「恩」に当たるフランス語はないんですよ。英語は知りませんが、全く同じ意味の言葉はやはりないのではありませんか。ぜひ「KANON」を広めていきたいです。

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