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最高裁は、震災前の学校と行政の防災対策に過失があったと認めた判断を維持し、今後、全国の教育現場の防災対策に影響を与えるとみられます。

宮城県石巻市にあった大川小学校では、74人の児童が津波の犠牲になり、このうち、児童23人の遺族が石巻市宮城県に対し、22億6000万円余りの賠償を求めました。

1審の仙台地方裁判所は、「広報車の避難の呼びかけを聞いた段階で、津波が来ることを予測できた。教諭らの避難誘導に過失があった」として、市と県に賠償を命じました。

一方、2審の仙台高等裁判所は、「学校は事前に避難場所や経路などを定める義務を怠った」として、1審よりもおよそ1000万円多い、14億3000万円余りの賠償を命じました。

津波で犠牲になった人の遺族が自治体などを訴えた裁判で、震災前の防災対策の不備を理由に賠償を命じた判決は初めてでした。

これについて、市と県が上告していましたが、最高裁判所第1小法廷の山口厚裁判長は、11日までに上告を退ける決定をし、市と県に賠償を命じた判決が確定しました。

決定は上告理由に当たらないとし、5人の裁判官の全員一致の意見となっています。


最高裁が震災前の学校と行政の防災対策に過失があったと認めた2審の判断を維持したことで、今後、全国の教育現場の防災対策に影響を与えるとみられます。

原告側の吉岡和弘弁護士は、NHKの電話取材に対し、「今回の決定が全国の子どもたちの命を守る先例になるだろう。遺族の皆さんも子どもたちがこの社会に存在していた意味をかみしめている。国は高裁の判決で示された学校での事前の防災対策を基準として全国の教育現場に指示を出してほしい」と話していました。

原告団長で、6年生だった長男を亡くした今野浩行さんは、今回の決定を受けてNHKの電話取材に答え、「ほっとしています。学校防災の礎となる司法の判断が出たと思います。今後、行政や学校がこの判断を重く受け止めて子どもの命を守り、安心して通えるような学校にしてほしい」と話していました。

原告の1人で、3年生だった長女を亡くした只野英昭さんは「大川小学校の遺構としての整備が進んでいますが、後世に事実や教訓を正しく伝えるような整備につながると思います。地震や台風など今後の大災害に向けて防災マニュアルをしっかり整備することを改めて考えてほしい。学校には子どもの命を守るという態勢を改めて考え直してほしい」と話していました。

今回、最高裁の判断が全国の教育現場の防災対策に影響を与える可能性があるとして注目されていたのは、2審の判決が、学校や行政に対して、ふだんから高いレベルの防災対策に取り組む義務があるとしたからです。津波からの避難をめぐり、遺族が学校や勤務先などに賠償を求めた裁判で、大川小学校の裁判の2審判決はほかのどの判断とも異なり、注目されました。

【2審判決の特徴1 事前防災】
2審判決の1つ目の特徴は、「震災前の防災対策に過失があった」と判断したことです。大川小学校をめぐる裁判の1審判決や、そのほかの津波の避難をめぐる裁判の判決では、「地震が起きてから津波が来るまでの対応」に過失があるかどうかによって、賠償責任が判断されてきました。一方、2審判決は、震災前に、津波の予測や小学校の立地を詳細に検討すれば津波の危険性を予測するのは十分可能だったとしました。そのうえで、震災前に危機管理マニュアルで、避難の経路や避難方法を定めておくべきだったのに怠ったと指摘しました。

【2審判決の特徴2 児童の安全確保義務】
このように、学校側に高いレベルの防災対策を求める前提としたのが、学校には、「学校保健安全法」によって児童の安全を確保する義務があると、明確に判断したことです。これが2つ目の特徴です。校長や教頭らは、義務教育で児童を預かる以上、一般の住民よりも防災に対してはるかに高い知識や経験が必要だとしました。大川小学校が津波ハザードマップで浸水予想区域に含まれていなかったことについて「児童の安全に直接関わるため、独自の立場から信頼性を検討すべきだった」などと指摘しています。

【2審の特徴3 行政にも責任】
3つ目の特徴は、校長など教育現場だけにとどめず、教育委員会や行政の防災担当部局の関与にまで踏み込み、「市の教育委員会は学校の対策に不備があれば指導すべき義務があるのに怠った」と指摘したことです。

【全国の学校現場に影響か】
こうした2審の判断を最高裁が維持したことで、学校側の事前の防災対策が足りないと、災害で被害が出たときに賠償責任を負うケースがあることが明確になったと言えます。今後、全国の教育現場に影響を与える可能性があります。児童や保護者にとっては子どもたちの安全確保に重きを置いた司法判断で、学校や行政がどのように受け止め、対策が進められるかが注目されます。

東日本大震災での津波からの避難をめぐっては、大川小学校のほかにも、遺族が学校や勤務先などに対して責任を問う裁判が相次いで起こされました。

【野蒜小学校訴訟】
このうち、宮城県東松島市の野蒜小学校では、いったん学校に避難した児童が、同級生の親に引き渡されて浸水予測区域に囲まれていた自宅へ帰り、津波の犠牲になりました。児童の遺族が起こした裁判では、学校側には災害時に児童を引き取ることになっていた家族が来るまで児童を保護する義務があったとして、東松島市に賠償を命じた判決が確定しています。

【日和幼稚園訴訟】
石巻市の日和幼稚園の送迎バスが津波に巻き込まれ、園児の遺族4人が起こした裁判では、1審で「園長が十分に情報を収集せずにバスを海側に出発させたため、園児が津波に巻き込まれる結果になった」として幼稚園側に賠償を命じ、2審で和解が成立しました。

【山元自動車学校訴訟】
宮城県山元町の自動車学校の教習生や従業員の合わせて26人の遺族が起こした裁判でも、1審で「教習生らを速やかに避難させる義務があった」として、学校側に賠償を命じ、2審で和解しています。

【いずれも事後対応で過失認定】
これらの判決はいずれも、大地震が起きてから津波が来るまでの避難行動、つまり「事後対応」に過失があったと認めて、賠償を命じています。大川小学校の裁判でも1審は、事後対応の過失を賠償の理由としました。震災前の防災対策に不備があったこと、つまり「事前防災」の過失を賠償の理由としたのは、大川小学校の裁判の2審だけです。

七十七銀行女川支店訴訟】
一方で、宮城県女川町にあった七十七銀行の支店で、高さおよそ10メートルの屋上に避難して津波の犠牲になった3人の遺族が起こした裁判では、「想定外の津波に備えるのは銀行の責任者に過大な義務を課すことになる」などとして、遺族側の敗訴が確定しました。

【山元町保育所訴訟】
また、宮城県山元町の町立東保育所の園児2人の遺族が起こした裁判では、「海から1.5キロ離れた保育所津波が到達する危険を予測できなかった」として遺族側の敗訴が確定しています。

最高裁判所の決定を受けて、原告となった遺族や弁護士が仙台市内で記者会見しました。

このうち、吉岡和弘弁護士は「高裁の判決は、津波による被害が予測できたことを認め、教育委員会や市などが高い注意義務を持って子どもの命を守らなければならないという判断を示していて、最高裁が認めるかどうかが注目されたが、市と県の上告が退けられた。これを受けて全国の学校関係者は、司法の判断を前提に防災対策に取り組まなければならなくなり、非常に妥当な決定がいただけたと受け止めている」と述べました。

そのうえで、「亡くなった子どもたちがこの社会に存在したせめてもの意義が示され、全国の子どもたちを守るために教訓が生かされるのであれば遺族も救われるのではないか」と話していました。