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2人に初めに質問したのは、弁護団が最も強調している主張、捜査に違法性があったかどうかというポイントです。弁護団は証拠収集などの手続きが違法だとして、無罪主張だけで無く、公訴棄却=「裁判の打ち切り」を求めています。

検察は日本に去年導入されたばかりの「司法取引」を使って、日産の元秘書室長ら2人を不起訴にする見返りに、2人から供述や書類などの証拠を得て、ゴーン元会長を起訴しました。

弁護団はこの「司法取引」について「実質的には、法人としての日産が検察と取り引きをしている。元会長を失脚させることが目的で違法だ」と批判しています。さらに海外での証拠収集の手続きについても「日産の社員や弁護士が、あらかじめ日本の検事と相談したうえで海外の自宅や事務所からパソコンなどを無断で持ち去った。捜査権の及ばない海外で私人を利用した違法な捜査だ」主張しています。

これついて元検事の高井さんは「『公訴棄却』が認められる基準は、起訴したこと自体が犯罪といえるようなケースで、過去に最高裁判所が認めた例はない。弁護団は認められる可能性がほとんどないことを分かったうえで『公訴棄却』を主張していると思う」と指摘しています。

そのうえで「弁護団はそれでも捜査の違法性を訴えることで、『ゴーン元会長は有罪』という社会の雰囲気や世論を変え、裁判官に対しては、証拠や供述の信用性を十分吟味してほしいと訴えるねらいがあるのではないか」と分析しています。

元裁判官の水野さんも、「公訴棄却」が認められるハードルはかなり高いとしたうえで、「実体的には有罪でも、証拠収集の手続きが違法なら、その証拠が使えずに無罪ということはありえる」と指摘します。

そのうえで「証拠が使えなくなるのは、収集の手続きに許容できないほど重大な違法性がある場合で、弁護団は、海外での違法な証拠収集を、検察が指導して行わせたという証拠をある程度、具体的に示す必要がある」と話しています。

ゴーン元会長は、2017年度まで8年間の有価証券報告書にみずからの報酬を合わせて91億円余り少なく記載したとして金融商品取引法違反の罪に問われています。

これについて検察は2010年度に導入された役員報酬の「個別開示制度」で高額報酬への批判が出ることを避けるため元会長が、確定した報酬の一部を報告書に記載せず、「未払い報酬」として退任後に受け取ることにしていたと主張しています。また「未払い報酬」が記載された書面も作成され、元会長みずから署名していると指摘しています。

一方、弁護団は、記録したのは「未払い報酬」ではなく「減額した報酬」で、元会長が退任後に日産と何らかの契約をする際、どのような条件を設定するか参考資料になるものだったと主張しています。

これについて元検事の高井さんは「コンプライアンスが重視される時代に、トップがどれくらいの報酬を受けているかは投資家の判断材料になる。検察の主張は筋が通っている」と指摘します。

そのうえで、「『未払い報酬』が会社として意思決定されたものと言えるか、金額が書かれたメモ(書面)がどういう経緯で作成され、どういう意味を持つのかが決定的に重要になる。取締役会で決定されたのと同じ価値があると言えるかがポイントだ」と話しています。

一方、元裁判官の水野さんは「支払われていない報酬を記載しなかったことが金融商品取引法で禁じられたうその記載に当たるかは、検察の立証というより、裁判所の評価の問題になる。法律論で無罪になる可能性はあると思う」と分析しています。

ゴーン元会長は2008年のリーマンショックで18億円余りの含み損を抱えた私的な為替取引の権利を日産に付け替えたとして特別背任の罪に問われています。

これについて弁護団「日産には負担を生じさせない条件で、取引契約の当事者を日産に移した。当事者の地位は、およそ4か月後に、元会長側に戻していて、日産に損失は一切生じていない」と主張しています。

これについて元裁判官の水野さんは「一時的でも、個人の含み損を会社に負わせることは普通はしないし、損失を負わせたと言われても仕方がない。実害がなくても返済の見込みのない不良債権を会社に負わせた時点で特別背任が認められた判例もある」と指摘します。

そのうえで水野さんは、弁護団が「当時、元会長は、権利を日産に付け替えなければ、退職金で精算するしかない状況だった。金融危機のさなかに元会長が退職すれば、日産に回復不能な損害を与えていた」と主張している点を挙げ、「特別背任に当たるかどうかは付け替えの主な目的が会社のためではなく、自分の利益のためだったと認定できるかどうかがポイントになる」という見方を示しました。

一方、元検事の高井さんは「勇気ある起訴で、検察は一種の賭けに出たと思う。日産に付け替えた為替取引の権利には確かに評価損が含まれているが金融商品なので、きょうの含み損は、あしたの含み益かもしれない。検察は『日産に権利を付け替えた時点で評価損が発生するため、背任が成立する』と主張すると思うが、最終的には裁判所がどう評価するかだ」と指摘しました。

次に質問したのはゴーン元会長が、18億円余りの含み損が出た為替取引の信用保証に協力したサウジアラビア人の実業家の会社に2009年から2012年にかけて日産の資金から12億8000万円を不正に支出させたとされる特別背任の罪についてです。

検察はゴーン元会長が損失の穴埋めに協力してくれた実業家への見返りとして、日産の資金を不正に支出するようになったと主張しています。

一方、弁護団この実業家の協力によって日産はサウジアラビアでのビジネスで多大な利益を得たとして支出は正当だったと主張しています。

これについて元検事の高井さんは「弁護団が主張するように正当な支出だと認められれば、仮に日産への含み損の付け替えが有罪になっても、実業家側への支出は特別背任にあたらない。弁護団が、支出には業務上、正当な理由があったと証拠を示して主張できるかがカギだ」と指摘します。

元裁判官の水野さんは「具体的な証拠を見ないと分からないが、販売促進などの名目として支払われるということはあり得る話だ」としたうえで、「その実業家がどの程度の日産に貢献したか、サウジアラビアでの基準を日本の裁判官が判断するのは難しい」という見方を示しました。

最後はゴーン元会長が去年までの2年間に、日産からオマーンの販売代理店に支出させた資金の一部をみずからが実質的に保有するレバノンペーパーカンパニーに還流させ5億5000万円余りの損害を与えたとされる特別背任の罪です。

弁護団は、代理店への支払いは販売奨励金で日産が中東地域におけるマーケット・シェアを維持拡大する経営戦略として合理的なものだったと主張する方針です。一方、ペーパーカンパニーへの還流については「還流の事実はない」と主張していますが、具体的な反論は示していません。

これについて元検事の高井さんは「検察にとっては還流を立証できるかどうかがポイントになる。仮に代理店への支払いが合理的な理由でも、還流分は上乗せして払ったということになるので背任に当たる」と指摘しています。

そのうえで「還流を立証するには日産から代理店に支払った金と元会長側に流れている金をひも付ける必要がある。そのためには送金の時期や元会長側の会社の業務実態などを緻密に立証する必要がある」と分析しています。

一方、元裁判官の水野さん弁護団が還流について具体的な反論をしていないことについて、「立証責任は検察にあり、今の時点で細かいことをいうのは、得策ではないと考えているのではないか。検察側の証拠開示はまだ終わっていないようなので弁護団は証拠を見たうえで、どこまで検察の主張をつぶせるか検討するのだろう。この辺りは、まだ不透明だと思う」と述べました。

起訴されれば99%以上、有罪になるとされる日本の刑事裁判。しかし今回の取材からは、そうした予断を許さない検察と弁護団の攻防の実態が見えてきました。

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