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銀行のサービスが急激に変わりつつある。これまで銀行というのはタダでお金を預かってくれるどころか、金利まで付けてくれる便利な場所であり、多くの日本人にとって銀行のサービスは無料(もしくは格安)という感覚が強かった。だが銀行の経営環境は著しく悪化しており、従来のサービスを維持する余力がなくなっている。これからは、何をするにも手数料が取られる時代になるだろう。

三井住友銀行は2021年4月以降、ネットバンキングを使わない顧客から手数料を徴収する方針を明らかにした。ネットバンキングのサービスを開設していない顧客で、かつ2年以上取引がなく、残高が1万円未満だった場合、年1100円が口座から差し引かれる。同時に紙の通帳を利用する場合にも年550円の手数料がかかる(75歳以上の高齢者と2021年3月31日以前に開設した口座は対象外)。

同行には約2700万の個人口座があるが、ネット利用は約4割にとどまる。同行のみならず各行は店舗網の削減を急ピッチで進めており、店舗でなければできない取引以外はネットへの移行を促している。対面の顧客から手数料を徴収することでネットの利用を促進し、全体のコストを引き下げたい考えだ。

通帳に記帳して取引を記録するというのは、国際的に見ても独特なやり方で、日本など一部の国以外では採用されていない。ステートメントと呼ばれる取引記録が送られてくるのが一般的であり、たいていの国ではステートメントがそのままWebに移行している。

また、取引が少ない口座や残高が一定金額以下の口座について、口座維持手数料を徴収するというのも、諸外国では当たり前の商習慣である。来年以降、日本も諸外国とほぼ同じサービスになると考えてよい。

ここに来て、各行が一斉にサービスの有料化に乗り出している直接的な理由は、銀行の経営環境が著しく悪化したことである。量的緩和策の導入によって金利がほぼゼロとなり、銀行は融資による金利収入を得にくくなった。一部の銀行では調達金利と貸し出し金利が逆転する「逆ざや」が発生している。

しかも、日本の人口が急激に減ることから、国内事業の規模も、それに合わせて縮小する必要に迫られている。筆者が利用している銀行でも、近隣の店舗が驚くようなペースで閉鎖されており、唯一残っていた近隣店舗のひとつは何とビルの高層階に移転してしまった。

これまで銀行の店舗というのは、人通りの多い道路に面した場所に出店するというのが絶対的な常識であった。だが定型業務の多くをネットに移管し、店舗ではコンサルティングなど付加価値の高い業務を提供することになれば、不特定多数の顧客を相手にする必要はない。

実際、三井住友銀行三菱UFJ銀行では予約制の導入を進めている。不特定多数の顧客がいなければ、行員の数を大幅に減らせるし、賃料の高い路面店に出店する必要もなくなる。ビルのフロアの一画に店舗があるというのも諸外国の都市部ではよく見かける光景であり、日本でもこうした店舗が増えてくるだろう。

同じタイミングでITを使った業務自動化の波が押し寄せていることも大きい。銀行の業務は定型的なものが多く、もっとも自動化が容易な業種のひとつといわれる。事務職を中心に大量に人材が余ることが予想されており、みずほ銀行では2026年度までに1万9000人の人員削減を計画している状況だ。

簡単に言ってしまえば、銀行は苛烈なリストラをしなければ生き残れなくなっており、顧客からは、なりふり構わず手数料を徴収せざるを得ない。

だが、上記の説明はあくまでも直接的な理由であり、問題の本質ではない。日本の金融サービスには昭和の時代から大きな歪みが存在しており、量的緩和策や人口減少などをきっかけに諸問題が顕在化したと考えた方が自然だ。

日本の金融サービスにおける最大の問題点は、銀行の業務が過度に融資に偏っていることである。諸外国では個人や法人からお金を預かったり、振り込みなどのサービスを提供する商業銀行と、企業の資金調達を支援する投資銀行が明確に区分されてきた。

設備投資に代表される先行投資は増資などを中心としたエクイティ・ファイナンスでカバーし、銀行からの融資に代表されるデット・ファイナンスは運転資金の確保に用いるのが基本である。特にリスクの高い先行投資を融資で調達する行為は、貸し手と借り手の双方にとってデメリットが多い(借り手は失敗する可能性が高い案件でも返済の義務に負われ、貸し手は高い貸し倒れリスクを引き受ける結果となる)。

ところが日本の場合、長期的な設備投資資金も、短期的な運転資金も、多くが銀行からの融資で調達されてきた。これは戦争遂行を目的とした国家総動員体制によって、日本の株式市場が事実上、機能停止に追い込まれ、政府が管理できる銀行を通じてすべての資金を提供したことが発端となっている。

本来、こうした仕組みは終戦と共に解体すべきだったが、「護送船団方式」という言葉にも代表されるように、政府は銀行中心の金融システムを戦後も継続し、エクイティ・ファイナンスの市場育成には力を入れなかった。本来、商業銀行は預金を集めるだけでなく、各種の金融サービスを提供することで手数料収入を確保する必要があるが、日本の場合、企業は銀行からお金を借りるしか調達方法がないため、銀行は簡単に融資先を開拓できた。

しかも、顧客企業は長期の設備投資資金まで借りてくれるので金利が高く、銀行は黙っていても利ざやを稼ぐことができた。このため顧客から手数料を徴収するという意識が希薄となり、利用者の側も銀行のサービスはタダという感覚を持つようになってしまった。

本来、銀行が手を出すべきではない、リスクの高い資金調達まで担当したことで、バブル崩壊後の不良債権処理は困難を極めた。当時と比較すると、エクイティ・ファイナンスの環境はだいぶ整ったが、銀行の融資依存体質はいまだに変わっていない。

実は、この問題は政府のキャッシュレス政策にも影を落としている。日本のキャッシュレス比率は諸外国と比べて低く推移しており、政府はキャッシュレスへの移行を強く促している。だが日本ではATM(現金自動預け払い機)網が発達しており、現金の取扱いが便利なため、多くの人は現金決済をやめない。

ATM網の維持には莫大なコストがかかっており、本来、ここまでのネットワークを確立するのは不可能だったはずだが、銀行としてはとにかく預金を集めればビジネスが成立したので、コストを考えずにATM網を拡大してしまった。今になってそのコストが大きな負担となり、店舗網を縮小せざるを得なくなっている。

上記からも分かるように、銀行の店舗網縮小や各種の手数料強化は、銀行の業績悪化という一時的な理由ではなく、日本の金融システムの歪みに由来した構造的なものである。したがって、今後は、各種手数料が高くなることはあっても、安くなることはないと思った方がよい。

これからの時代は口座をたくさん持っていると、手数料をたくさん払う羽目になるので、付き合う銀行の数を絞る必要がある。取引は原則としてネットで行い、基本的には店舗に行かないようにした方が、圧倒的に手数料を安くできる。銀行はもはや「気軽に行ける」場所ではないと考えた方がよいだろう。

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