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気象庁は67年前の昭和28年から、季節を知らせる動物の初鳴きや植物の開花などといった「生物季節観測」を全国で行ってきました。

しかし最近は都市化が進んだ影響などを受け、限られた人員で動植物を探すことが難しくなってきたほか、春に鳴くとされた「うぐいす」も観測される時期が大きくずれるなど、本来の「季節の変化を知らせる」意味が薄れてきたということです。

このため気象庁は57種類の動植物のうち、およそ9割にあたる51種類の観測を、ことしいっぱいで廃止することを決めました。

一方で、全国の季節の変化を把握することに適した「うめ」と「さくら」「あじさい」「すすき」「かえで」「いちょう」の観測は続けられます。

この決定については、生物学の研究者や環境団体などから「全国的に継続されてきた動植物の貴重な観測データが失われる」などといった反対の意見も上がっています。

これに対して気象庁は「生物季節観測」は、あくまで「気象」観測の一環として季節の変化を知らせることが目的で、動植物の「生態」観測が目的ではないことを理解してほしいとしています。

気象庁観測整備計画課の村井博一統計技術管理官は「生物季節観測の、そもそもの目的が果たせなくなっているので、大幅な廃止についてはご理解いただきたいと考えている。今後も季節の移り変わりをしっかり捉えられるよう『さくら』など6種類の植物は観測し、季節の移ろいを伝えていきたい」と話しています。

12月中旬、宇都宮地方気象台では、ことしいっぱいで廃止される「くわ」の落葉の最後の観測が行われました。

「くわ」の落葉は冬の訪れを知らせる現象で、全体の8割の葉が落ちると観測日を記録することになっています。
観測を担当している宇都宮地方気象台の田中三樹男さん(63)は、昭和53年に気象庁に入り、長年、生物季節観測を行ってきました。

当初は観測の対象になるものが、どのような動植物かわからず、マニュアルに描かれた絵を何度も見ながら記憶して近くの公園を探し回ったといいます。

その後も、夏の暑さの中で公園で長時間にわたって「あぶらぜみ」を探し歩いたり、冬の厳しい寒さの中で「もず」の高鳴きを聞くため、高い木を見上げながら長距離を歩き続けたり、苦労が絶えなかったということです。

苦労が多い観測の中でも、トンボの「あきあかね」など、見分けるのが困難な動植物を見つけた時には興奮気味に職場に戻って報告するなど、喜びも大きかったということです。

観測が大幅に廃止されることについて、宇都宮地方気象台の田中さんは「来年になって『つばめ』を見たり『もず』の高鳴きを聞いたりした時には、もう観測しなくていいんだと寂しさを感じるかもしれません。ただ、このほかの植物の観測は続けていくので、その情報を通して季節を感じていただければと思います」と話していました。

「生物季節観測」の大幅廃止については、研究者や環境団体などから反対の意見がでました。

このうち、生物学の研究者などが所属している合わせて27の学会は今月23日、共同で気象庁に要望書を提出しました。

要望書では、長期間、広範囲にわたって行われてきた観測を中止することは、学術的にも社会的にも大きな損失になるとしたうえで、
▽全国一律での中止を改めることや、
▽市民が参加することも含めた観測体制の継続を検討するよう求めました。
要望書を提出した日本生態学会の湯本貴和会長は「観測のデータは研究の根幹となるもので国際的にも例が無く、海外の研究者も決定に懸念を示している。観測を続けるために何ができるかを急いで考えなければならない」と話していました。

また、自然保護活動を行っている環境NGOの日本自然保護協会も今月19日、観測の継続を求める声明を発表しました。

この協会は、全国各地にいるおよそ8000人の会員が生き物の観察会などを通して自然保護の意識を高める活動を行っています。

活動を進める際には「生物季節観測」のデータを参考にして日程を決めたり、観察会の観測結果と比較したりして生き物の動向を確認することもあったということです。

日本自然保護協会の亀山章理事長は「防災や減災という災害を防ぐことも大事だが、われわれの日々の活動から言えば、さまざまなレクリエーション活動などにこのデータが活用されていたことを理解してほしい。この判断が覆るとも考えられないことから自分たちで何かできないか、全国に8000人いる自然保護観察指導員に一部の観測を行ってもらうことも検討していきたい」と話していました。

気象庁が「生物季節観測」を大幅に廃止するなか、それならば自分たちで観測を継続しようという動きも出ています。

埼玉県北本市の北本自然観察公園では、11月に気象庁が生物季節観測を大幅に廃止すると発表したことを受けて、園内で見られる動植物で観測が継続できないか考えたということです。

スタッフが園内を確認したところ、気象庁が観測してきた57種類の動植物のうち34種類を公園でも観測できることが分かったということです。

そのため公園では11月19日からツイッターで観測の結果を投稿する取り組みを始めていて、12月17日には「くわ」の落葉が観測されたことを伝えていました。

また、ただ結果を伝えるだけでなく対象の動植物にまつわる話を一緒に紹介して楽しんでもらおうとしていて「くわ」の落葉では、葉が落ちたあとの枝に「くわこ」と呼ばれる「が」の幼虫の繭がついていることがあると、写真を添えて伝えていました。

公園には季節の訪れを知らせる野鳥など、気象庁の観測対象になっていなかった生き物でも20種類近くが姿を見せるということで、こうした生き物についても併せて紹介したいとしています。

北本自然観察公園の田留健介さんは「改めて生き物が季節を通して、いろいろな動きをするのは、おもしろいと思いましたし、こうした自然の情報は、どこか癒されるもので、そういう情報を出すお手伝いをしたいと考えました。ほかの公園などでも観測する動きがもっと広がっていったらいいなと思っています」と話していました。

気象庁にも民間の「生物季節観測」を支援する動きが出ています。

気象庁は、観測手法をまとめたマニュアルをホームページ上に公開するとともに、年明けの1月から季節ごとの動植物の観測手法を伝える講習会を実施することにしています。

講習会を行うことについて気象庁は、予想以上に観測の継続を求める声や、民間が気象庁に変わって観測できる体制を整えるべきという声が相次いだためだとしています。

講習会はインターネットなどを利用して行われる予定で、対象となる動植物の見分け方や動物の鳴き声の特徴などについて、担当の職員が解説するということです。

また、将来的には環境省とも連携し、民間で動植物を観察して情報交換できるネットワークも構築していきたいとしています。

「津村書店」は東京 千代田区にある気象庁の旧庁舎の片隅で親子2代、65年にわたって営業を続けてきた気象専門書店で、気象関係者の間で親しまれたことから「気象予報士の聖地」としても知られていました。

しかし、この10年ほどは経営も厳しく11月の気象庁の港区への移転に伴って閉店を決めていました。

店は利用者の要望に応える形で、当初の閉店予定だった11月以降も営業を続けてきましたが、28日で看板を下ろすことになりました。

看板がかけられたドアには天気図や気象カレンダー、店を訪れた数々の気象予報士の写真などが飾られていて、店主の幸雄さんと妻の京子さんが一つ一つ取り外していきました。

そして最後に「津村書店」と書かれた手作りの看板を、2人で名残惜しそうに外していました。

店主の幸雄さんは「私がまだ小さなころから本当に多くの方に長く使っていただきました。寂しいですが、お世話になった皆様に“ありがとう”と言いたい」と話していました。

京子さんは「この場所での営業は終わりますが、またいつか、この看板を掲げて店を開ける日が来ることを願っています」と話していました。

店では今後、信販売での営業は続けていくということです。

閉店を迎えた28日も、津村書店には閉店を惜しむ気象予報士が次々と訪れ書店での最後の交流を楽しんでいました。

常連客の中島俊夫さんと増田亮介さんは2人で店を訪れ、店の前で看板の写真を撮り、京子さんと店での思い出話をしていました。

中島さんは「この場所は気象関係者にとっては、ただの書店ではありませんでした。実際に気象の本を手に取り、知らなかった本や気象関係者と出会うことができる特別な場所でした。こういう場所がなくなってしまうのは本当に寂しく残念です」と話していました。

増田さんは「著名な予報士の方や気象庁の方も出入りする場所で、気象関係者の交流の場にもなっていた。この場所はなくなりますが、また別の場所でこういった交流の場が復活してくれることを願いたいです」と話していました。

書店での出会いがきっかけで、新たな道に踏み出した大学生も店を訪れていました。

大学3年生で宇宙工学を専攻している相澤脩登さんは、ことし10月に気象予報士に合格して、店を訪れた時に出会った人との交流がきっかけとなり来年から宇宙ベンチャーの企業でインターンをすることになったということです。

相澤さんは「気象予報士になったら絶対に来ようと思っていた場所でした。僕自身も書店での出会いがきっかけで、新たな道に踏み出すことになりました。65年という長い歴史の最後の最後に書店の魅力の一端に触れられたことを光栄に思います」と話していました。

#気象・災害