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7月12日午前。大阪・吹田市教育委員会は、突然、市内の54の小中学校に文書を通知しました。

「各学校におかれまして、可能な限り半旗掲揚をお願いします」

この日行われた安倍元総理大臣の葬儀を受けて、哀悼の意を表すために国旗などを半旗にするよう求めたのです。

実際に半旗を掲げた学校もありましたが、現場の教員からは対応に疑問の声が上がっています。

吹田市の小学校の40代教員
「通知のことを知って理由を尋ねましたが、説明はありませんでした。いつもと旗の状態が違えば子どもから疑問が出ますし、それに教員が答えられない状態なのはおかしいと思います」

「悲しむ気持ちは当然ですが、十分に議論もされないまま、知らないうちに現場で実施されるのは怖いと思いました。教育委員会にはよく考えて判断してほしかった」
大阪・富田林市でも同じような通知が市内の24校に届きました。

通知を受けた市内のほとんどの小中学校で半旗が掲げられたということですが、こちらでも困惑の声が上がっています。

富田林市内の小学校の校長
「さまざまな立場からの意見があるものなので、通知を受け取った際、問題になる気がした。ただ通知に従わないと『なぜやらないのか』と説明責任を問われる。通知が来た以上、対応せざるを得ない」

半旗を掲げることは、国旗などを専門に扱うメーカーによると、もともとは船の上で弔意を示す方法だったということです。

東京製旗株式会社 小林達夫 社長
「もともと船の上では弔意を示す儀礼として黒い帆を掲げるのが慣習でしたが、そのためだけに黒い帆を積んでおくのは効率が悪く、代用として黒い布をマストに掲揚するようになりました。ただ、遠方からでは見えにくいため、しだいに国旗をメインマストの半分まで掲揚する半旗で弔意を示すことが普及したと言われています」

小林さんによると、これが広がり今では弔意を示す国際儀礼になったということです。
外務省のホームページでも、弔意を表す方法として半旗の掲揚を紹介していて、「我が国においては、例えば、外国元首が逝去し、当該国で国葬が行われる場合には、その国葬日に、総理官邸及び外務省では、半旗を掲揚することが慣行となっています」と記述しています。

弔意を示す方法として広がった半旗の掲揚ですが、学校で行うことの何が問題なのでしょうか。

教育行政に詳しい名古屋大学の中嶋哲彦 名誉教授に聞きました。

中嶋名誉教授
「最も大きな問題は『政治的な中立』に違反する可能性がある点です。私が小学生の時に元総理大臣の吉田茂さんの国葬があり、学校で弔旗の掲揚と黙とうを経験しましたが、子どもながらに『立派な人だったんだな』と印象を持ちました。特定の政治家の葬儀にあたって弔旗を掲げる、半旗を掲げるというのは、子どもたちに『特別な人なんだ』『賞賛すべき人物なんだ』というメッセージを出すことになりかねないので、大きな問題があると思います」

中嶋名誉教授によると、子どもたちが学校で知識を得ながら成長する過程で、特定の考え方や価値観を一方的に与えることは適切ではないという考え方から、教育基本法では「政治的中立」を重視しているということです。

中嶋名誉教授
教育基本法では、教育は政治的に中立で行わなければならないと定めていて、特定の政治家の葬儀に対して半旗の掲揚を行うことはその規定に違反する可能性があります」

7月、半旗の掲揚を通知した大阪・富田林市の教育委員会は、「特定の政党を支持するなど政治的な意図はありませんが、学校現場に混乱を招いた事実は認識している。今後予定されている国葬については、教育基本法に基づいて適切に対応を検討します」としています。

一方、大阪・吹田市教育委員会は、「特段、今回の対応について評価はしていない。教育基本法に照らして問題かということも、特に組織として検討していないので答えられない」とコメントしています。

実は、政治家の葬儀にあたり、学校で半旗を掲揚することをめぐっては、2年前の中曽根元総理大臣の合同葬の際も議論になりました。

この時は、政府が、合同葬(※1)にあわせて▽各省庁の庁舎などで弔旗を掲揚し、▽黙とうすることを閣議で決めました(※2)。

これを受けて文部科学省は、▽国立大学などに対して「よろしくお取り計らいください」などと記した通知を出したほか、▽全国の都道府県の教育委員会に対しても「参考周知」として政府の対応を伝えました。

各地の大学や教育委員会で対応はわかれ、大きな議論となりました。

文部科学省が出した通知については、教育の政治的中立に違反するのではないかという指摘もありましたが、当時の萩生田文部科学大臣は記者会見で、「具体的な対応は関係機関が自主的に判断することになり、強制力を伴うものではなく、児童生徒や学生を直接の対象と想定していないため、教育の中立性を侵すものではない」と説明していました。

※1 政府と自民党が合同で行った葬儀
※2 弔旗掲揚や黙とうの実施を「閣議了解」した

ただ今回は文部科学省などから半旗掲揚に関する通知は出ていません(8月26日現在)。

それでも、大阪では吹田市と富田林市の教育委員会が市内の小中学校に対して半旗掲揚を促しました。通知を出した経緯を教育委員会に取材すると次のような回答が返ってきました。

吹田市教育委員会
「市の総務部局から半旗掲揚の依頼があり、ひとつの作業として各校に連絡しているもので機械的な対応をしたまでだ」

富田林市教育委員会
「市の総務課が半旗掲揚を行うと判断して教育委員会を通じて学校に通知した」

いずれも教育委員会の主体的な判断ではなく、総務の部署が「市の公的な施設では半旗を掲揚する」と決めた内容を、そのまま各学校に通知したということでした。

一方で、吹田市後藤圭二市長は8月25日の定例会見で、「行政のトップであり最長在任期間だった元首相に対して、同じ行政の長として半旗を掲揚するという形で弔意を表しただけで、政治的問題とは考えていない。市と教育委員会は別物で、『もしよければ同調してくれ』とお願いしたまでで、実際に通知をしたのは教育委員会の判断だ」と述べました。

安倍元総理大臣の葬儀などに合わせて、学校に半旗掲揚を促す通知を出すケースは相次ぎましたが、実は理由は似たようなものです。

都立のすべての学校に通夜と葬儀に合わせて半旗掲揚することを促した東京都教育委員会は「庁内の各局と同様に通常の事務連絡として対応して転送しただけ」と説明。

市内の180校余りに半旗掲揚を依頼した仙台市教育委員会も、通知は市の総務局の依頼に基づいて行われたとしています。

あわせて175校の市立学校に半旗の掲揚を促した神奈川県の川崎市教育委員会も市から公共施設での半旗掲揚を依頼する文書が来たために学校側に通知したとしています。

教育委員会で十分な議論がされないまま、総務部局からの通知をそのまま学校側に伝えたという回答について、名古屋大学の中嶋名誉教授は警鐘を鳴らします。

中嶋名誉教授
「本来、教育委員会は総務部などと切り離された独立した存在であり、学校が行うべきで無いことを外部から求められた場合には、ブロックするのが役割です。せき止められずに漫然と学校に通知してしまうとなれば、役割を果たせていないと言われても仕方がなく、教育委員会の存在意義そのものが問われかねません」

教育委員会が『公立学校は公共施設のひとつだから』と考えて安易に通知したとすれば不適切で、学校はとりわけ強く政治的中立性が求められる場所だということを改めて認識すべきだと思います」

9月に行われる国葬は、世論の賛否が分かれていて、政府が、各府省に対して、弔旗を掲揚したり黙祷したりすることを求める「閣議了解」は見送ることになりました。政府は、地方自治体や教育委員会などの関係機関にも弔意表明の協力は求めない方針です。

ただ、通知が無い中でも自治体が独自に判断して弔意を示す動きが出ていることも事実です。

9月の国葬に向けて、教育現場ではどのように対応をするのか、引き続き取材していきます。

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