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興銀の中山素平はJODCO(ジャパン石油開発)に続き、さらにインドネシアにも石油利権を求めた。ここでも大物フィクサーの田中清玄が手引きするのだが、政界では田中角栄という実力者の後押しも欠かせなかった。玉置は次のような意味深長な言葉を残した。

「ソッペイさん(中山のこと)はJODCOのときも何かと角さんに相談し、通商産業大臣だった角さんが資金調達のさまざまな枠組みをつくりました。インドネシア石油の計画は、これとほぼ同時に進行した。それは角栄政権の樹立に大きな役割を果たしています」

角栄は第三次佐藤栄作改造内閣の発足した'71年7月、通産大臣に就き、エネルギー政策を主導した。それから1年後の翌'72年7月、自民党総裁選でライバルの福田赳夫を破り、晴れて首相の座に上りつめる。こちらの田中もまた、終戦間もない頃から興銀の中山と交友をはじめ、刎頸の友として知られる。

インドネシア石油は興銀の中山が呼びかけ、トヨタグループがそこに乗った石油開発事業会社だ。通称、トヨタ石油。東京・紀尾井町ホテルニューオータニで開かれた'73年7月の会社設立パーティに首相の角栄が登場した模様は前に書いたが、インドネシア石油設立の動きはこれより2年ほど前から始まっていた。長らく続いた佐藤政権下、角栄が次の内閣総理大臣の座をうかがっていた時期と重なる。

一方、トヨタは'82年7月に合併するまで、本体のトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売をグループの両輪として、成長してきた。会社として勢いがあったのはむしろトヨタ自販で、社長の神谷正太郎は「販売の神様」と謳われる。トヨタグループにおける最大の実力者と評されてきた。

今でこそ電気自動車が持て囃されるが、かつて石油は自動車会社の命綱だった。興銀の中山によるインドネシア石油構想にトヨタ自販の神谷が乗ったのはそのためだ。中山の陣頭指揮の下、玉置は通称、トヨタ石油の計画に奔走した。玉置が言葉少なに語る。

トヨタ石油の計画が進んだのは、まさに角さんが総理になろうかというときです。私も神谷さんの側近といっしょに動きました。角さんのライバルは福田(赳夫)さんで、自民党総裁選に勝てる自信を持っていました。中曽根(康弘)さんが自分につくと思っていた。ところが蓋を開けてみると、角さんにひっくり返されたわけです」

インドネシアは、初代大統領のスカルノの第3夫人となったラトナ・サリ・デヴィ(旧名・根本七保子)や商社「東日貿易」を例にあげるまでもなく、日本との交流の歴史は古い。'68年3月にスハルトに政権が移り、政界では角栄や福田とも交流を深めていった。

一方、財界ではトヨタインドネシアに食い込んだ。政府や軍の公用車は今もほぼトヨタ製だ。

そしてこの時期、石油公社「プルタミナ」による対日石油供給の流れに乗り、興銀とトヨタが手を結んでインドネシア石油が設立されたのである。むろんメインバンクは興銀が務め、さらにインドネシアプロジェクトに対する邦銀の協調融資団も立ち上げられた。玉置はその融資の担当課長を命じられた。

スカルノと親しかった田中清玄がインドネシアに渡りをつけ、石油が供給されるのですが、その他に日本政府の公的資金を含めた協調融資をすることになったのです。融資額はトータルで2億5000万ドル(750億円)だったと記憶しています。ところが、この協調融資は興銀ではなく、東海銀行(現・三菱UFJ銀行)に幹事行を任せろ、とソッペイさんから言われました」

トヨタは愛知県名古屋市に本店を置く東海銀行をメインバンクにして成長してきた。そのためインドネシアへの協調融資で花を持たせたい、というのが、トヨタの言い分で、それを興銀の中山が聞き入れたという。

トヨタ自動車が私のところにまで出張ってきて、『東海銀行を主力銀行にしてほしい』と迫ってきたので、揉めました。私が『とんでもない。これだけ働かされてきたんですから』とソッペイさんに文句を言ったら、『ここは降りろ』と指示された。ソッペイさんに言われたら従わざるをえませんが、私としては、残念な思いでした」

玉置は豊田市にあるトヨタ自動車の本社に出向いた。玉置が明かす。

「専務が対応してくれ、『うちで何かできることはありませんか』と申し出てくれました。それで、『うち(興銀)の利付債券をいくらかお買い上げいただけませんか』と私自身の判断で言ってみたのです。結果、名古屋支店の人間を連れて行き、300億円分の利付債を買ってもらいました。とうぜん支店では大喜びでした」

戦前、政府の特殊銀行だった興銀は、日本債券信用銀行日本長期信用銀行とともに、資金調達の手段として預金だけではなく債券発行を認められてきた。債券は「ワリコー」と「利付債」の2種類がある。利付債は名称通り銀行側が定期的に利息を支払う企業向けのそれだ。

半面、興銀や日債銀の発行する債券は購入者が無署名で保有できる。そのため、財産隠しに悪用されてきた側面もあった。元自民党副総裁の金丸信の5億円脱税事件で注目された日債銀の「ワリシン」などが典型である。

つまり興銀がトヨタに売った300億円の利付債が自民党総裁選における裏金に化けたのではないか。玉置にそう尋ねてみた。するとこう薄笑いを浮かべるだけだった。

「その話は墓場まで持っていきますよ」

#田中角栄インドネシア石油=トヨタ石油・中山素平/神谷正太郎/田中清玄・元興銀常務玉置修一郎「300億円分の利付債を買ってもらいました」)

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#田中清玄「これからの日本は石油だ」

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