https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

インドでは来週から下院総選挙が始まるが、モディ首相が次の10年も高成長を確保できることは既に約束されたようなものだ。世界経済が低迷する中でも、インド経済は順調に前進している。モディ政権の勝利は確実視されているものの、インド経済の成長がモディ氏にかかっているというわけではない。

<28年までに日独追い抜き世界3位に>
モディ政権は既に今後の成長目標を描いているほど3期目入りを確信している。ある閣僚は1月、ロイターに対し「今後10年間に6―8%の持続的な成長率を予想している」と述べた。

世界経済が今後数年間、低成長を続けそうな情勢だけに、この見通しは非常に高く感じられる。予想の幅もまた大きく、考えられるさまざまな可能性を覆い隠すものでもある。

確かに成長率がレンジの下限近くになったとしても、現在のところ世界5位のインドの経済規模が、2028年までにドイツと日本を追い抜く見通しだ。

一方で、レンジの上限である年率8%成長を達成したとしても、47年までに先進国の仲間入りをするという目標には届かない。47年というのは、英国統治からの独立100周年に当たる。

いずれにせよ、インドは過去10年間よりも高成長を遂げなければならない。モディ氏の与党インド人民党(BJP)が14年に政権に就いて以降、平均成長率は年率5.8%だ。

この間に新型コロナウイルスパンデミックを経たことを考えれば、これは並大抵の偉業ではない。コロナ禍前にも、インド経済は不良債権問題やモディ首相による高額紙幣廃止によって打撃を被っていた。

とはいえ、04―13年の前政権時代には、金融危機につながる野放図な貸し出しに支えられてはいたが、成長率が年率平均8%近かった。

モディ首相はこうした問題のいくつかに取り組み、金融システムを健全化し、会社破産法や財・サービス課税、不動産規則などの改革を遂行した。インドは現在、以前より効率化し、外資に対して開かれ、債権者の保護も強化された。政府は課税逃れを難しくする対策も採った。

ゴールドマン・サックスのインド担当エコノミスト、サンタヌ・セングプタ氏によると、現在のペースが続けば、インドは30年までに少なくとも年平均6%の成長を達成できる。

全体の投資と労働参加率を過去最高水準まで引き上げれば、成長率はさらに1.5%ポイント上昇し、土地や労働市場などの改革を行えば長期的な潜在成長率を8%まで押し上げられるという。

こうした楽観論には根拠がある。第1に、インドは現在、財政赤字と経常収支赤字という「双子の赤字」をコントロールできている。ITサービスを筆頭に輸出も堅調だ。一時、2桁台だったインフレも収まり、通貨ルピーは非常に安定的に推移している。これは米ドル建ての利益に着目する企業や投資家にとって朗報だ。

<大半の国民はぎりぎりの生活>
だが、経済成長ペースを上げるには、さらなる努力が必要になる。官民の投資が国内総生産(GDP)に占める割合は33%程度と、ピークだった10―11年の40%を下回っている。政府投資の比率はパンデミック中に拡大したが、GDP比82%に達した公的債務比率を抑えるために、今後は投資を削減する必要がある。

リライアンス・インダストリーズ(RELI.NS), opens new tabを経営するインド随一の大富豪、ムケシュ・アンバニ氏は最近、息子のために豪華絢爛な婚前祝賀会を開いてニュースの見出しを飾った。

しかし、アンバニ氏とやはり大富豪のゴータム・アダニ氏は、再生可能エネルギープロジェクトにも数十億ドルを投じている。閣僚や企業は大量の外国直接投資が押し寄せると予想しているが、年間の流入額は縮小しつつある。セクターごとの成長率もまだら模様だ。

HSBCの首席インドエコノミスト、プランジュル・バーンダリ氏によると、ハイテク製造業、ITサービス、スタートアップ企業で構成される「ニュー・インディア」経済で働く人々は労働人口の5%に過ぎないが、GDPの15%を担う存在だ。

零細企業や農業など残りの経済分野は遅れを取っている。農村部や出稼ぎ労働者にも多少は経済成長の「おこぼれ」が届いているとはいえ、年率6.5%程度の持続的な成長を達成するには、こうした「オールド・インディア」経済を押し上げる必要がある、とバーンダリ氏は言う。

インドの富裕層は高価なダイソンの空気清浄器を買い、モルジブで休暇を過ごしている。ところが、GDPの約60%を占める個人消費全体で見ると、今年は3%と過去20年間で最も低い伸びにとどまる見通しだ。

家計貯蓄(ネットベース)は過去50年間で最低となっている。国民のうち8億人ほどは今後さらに5年間、政府の穀物配給を受ける条件を満たすほど貧しい。つまり大半の国民は経済の繁栄をおう歌するどころか、生き延びるのが精いっぱいということだ。

  実際、人口が増えると同時に就職難も高じている一方、現在の賃金水準に甘んじて働きたいという意欲も低下。労働市場における生産年齢人口の割合は55%と、2000年の61%から下がった。

<モディ氏要因>
モディ政権はさまざまな成功を収めたかもしれないが、インドの成長物語および試練の始まりも終わりも、この政権が背負っているわけではない。

同政権は銀行口座を普及させ、トイレを建設し、貧困層に無料で調理用のガスを提供した。だが、強い抵抗に遭って必要な改革を成し遂げられなかった事例もある。

農業セクターの抜本改革を試みたが失敗し、農業は今も非常に非効率的だ。国民の半分以上が農業で生計を立てているにもかかわらず、農業はGDPに15%しか寄与していない。

政府はまた、気候変動と闘うための多大な資源の確保を迫られている。どんな政権になろうとも、今後の改革を遂行する上では同様の壁にぶつかるだろう。

経済成長もまた、モディ首相の肩に掛かっているわけではない。モディ氏が選挙で負ければ株価はおそらく急落するだろうし、連立政権に戻れば政策決定のペースは遅くなるかもしれない。

しかし、モディ氏の改革を逆転させることは難しいし、国民会議派を中心とする野党連合は、経済政策についてBJPとおおむね考え方が一致している。過去の一連の選挙では、与野党ともに財政規律の維持を約束していた。

インド南部の5州は主に、BJPと対立する地方政党によって支配されているが、一部の州は高成長を遂げている。主要政治家間の大きな対立点はヒンズー至上主義を巡るものだ。

国際団体はモディ政権下のインドについて、表現の自由などが制限される「部分的に自由」な「選挙のある専制国」だと評している。政府はこうした分類は間違いだと一蹴するが、長期的視野を持つ投資家にとっては心配な状況かもしれない。

こうしたレッテルはまた、モディ氏がもたらした異例の政治的安定の裏返しでもある。下院選挙でモディ氏側が勝利するのはほぼ確実だろうが、首相がモディ氏であろうがなかろうが、インド経済は高成長の中で格闘して行かねばならない。

d1021.hatenadiary.jp

#南アジア