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最高裁判所の戸倉三郎長官は、刑事裁判の課題について、初公判の前の手続きが長期化していることを挙げ、「証人の記憶の限界を招く」として、検察や弁護士などとも問題意識の共有を図る考えを示しました。

最高裁判所の戸倉三郎長官は、憲法記念日にあわせて会見を開き、「憲法が実現する法の支配の重要性を自覚し、司法の役割を果たしたい」と語りました。

導入から5月で15年となる裁判員裁判について、「おおむね順調に運用されている」と評価したうえで、導入後の刑事裁判の課題として、裁判が始まる前に証拠などを絞り込む「公判前整理手続き」の長期化を挙げました。

公判前整理手続きは、刑事裁判の期間短縮のために始まりましたが、去年行われた手続きの期間は、平均で11か月余りとなり、裁判が始まるまで時間がかかる状況が続いています。

戸倉長官は「証人などの事件関係者の記憶の限界を招きかねない。裁判官が争点整理の目標について議論を深めるとともに、検察や弁護士と共通の認識をつくりたい」と話し、法曹三者で問題意識を共有して解決を図っていく考えを示しました。

また、結婚したときに夫婦で別の名字を選べる「選択的夫婦別姓」を求める裁判に関心が集まっていることを問われると、「広がりが大きい制度なので、司法と立法の関係性も意識しながら、その時々の状況の中で的確な判断をしていく」と述べました。

憲法記念日」にあたって、各党は声明や談話などを発表しました。

自民党
憲法は国のあるべき姿を示す国家の基本法であり、社会構造や国民意識の変化に応じて必要な改正を行なっていかなければならない。広く国民の議論を喚起していくことは政治の責務であり、国会での議論と国民の理解を車の両輪としながら憲法議論を進め、改正の早期実現に向けて全力で取り組んでいく」としています。

立憲民主党
「『憲法改正』は権力側の体制強化や業績づくりのために進められるものではない。立憲主義に基づき国会での憲法論議に慎重かつ真摯に臨んでいく。裏金を長年手にし、法律すら守れなかった自民党の議員に憲法改正を任せることはできない。憲法を為政者のための国民統治の道具にせず国民のためにいかしていく」としています。

日本維新の会
「国民の生命・財産、わが国の平和・安定を守るために、憲法改正を遅滞なく実現すべきであり、衆参の憲法審査会は、ただちに起草委員会を設置し、項目を絞って改正条文案のとりまとめに着手すべきだ。一日も早く国民投票が実施されるよう全力を尽くす」としています。

公明党
「政治とカネの問題で政治の信頼が大きく失墜する事態が起き、憲法の前文に掲げる民主政治本来の姿を実現しなければならない。衆議院憲法審査会では緊急事態をめぐる議論の整理が進んでいるが十分な国民的議論と理解を深めていくことが大切だ」としています。

共産党
「岸田政権が進める大軍拡は、社会保障や教育などの予算を抑え込み、幸福追求権や生存権、教育を受ける権利を脅かしている。自民党政治を終わらせ、憲法を生かした希望ある政治に変えるため全力を尽くす」としています。

国民民主党
「時代の変化を踏まえ憲法の足らざる点を真摯に議論し、必要な改正を目指す。大規模災害などはいつ発生するか分からず緊急事態条項について1日も早く憲法審査会で条文化することを強く求める」としています。

れいわ新選組
「まずは、失われた30年を取り戻す経済政策や、一刻も早い奥能登の生活復旧と災害前を上回る復興が最優先だ。これこそが憲法を守る政治であり、その先頭に立つ」としています。

教育無償化を実現する会
「時代の変化を踏まえながら、国民とともに未来志向の憲法を構想していく。憲法に教育無償化を明記することで、子どもに等しく教育の機会を提供し、日本再生の大転換を図る」としています。

社民党
「『抑止力』の名で進む不毛な防衛費増大や軍拡競争に反対し、戦争への道を断固拒否する。平和憲法のもと、いのちとくらしが最優先される社会を目指し、憲法改悪を許さない」としています。

参政党
「現行憲法は日本人の自由な意思で作られていない。国民が一から憲法を創り直す『創憲』を通じ、国の未来を自分たちで考える場を持続的に提供することを目指す」としています。

憲法記念日の3日、日本国憲法は施行から77年を迎えました。国会では、自民党が大規模災害など緊急事態での対応について憲法改正の条文案の作成に入るよう提案しているのに対し、立憲民主党は慎重かつ多角的に議論すべきだとしています。

憲法改正について岸田総理大臣はみずからの自民党総裁の任期中に実現するため、ことし、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速させたいとしています。

国会の憲法審査会では、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けてメンバーが交代したことなどから衆議院では、実質的な憲法論議が先月から始まりました。

自民党は大規模災害など緊急事態での対応について、これまでの議論で論点が整理されているとして憲法改正の条文案の作成に入るよう提案しています。

日本維新の会公明党、国民民主党も同様に条文案の作成を求めています。

これに対し立憲民主党憲法改正は権力側の業績づくりのためのものではなく、政治とカネの問題を解決していない自民党に改正を論じる正当性はないとして慎重かつ多角的に議論すべきだとしています。

また、共産党改憲のための議論は認められないと主張し、れいわ新選組能登半島地震への対応などを優先すべきだとしています。

自民党憲法改正には幅広い合意形成が必要だとして、反対の立場の党も協議に参加する形で条文案の作成に入りたい考えで、与野党間で議論が続く見通しです。

憲法記念日の3日、憲法改正を求める立場の人たちや憲法を守る立場の人たちが、それぞれ都内で集会を開きました。

《「憲法改正を求める立場」の人たちでつくる団体の集会》
憲法改正を求める立場の「民間憲法臨調」などは、東京 千代田区でフォーラムを開き、主催者の発表でおよそ800人が参加しました。

この中で官房副長官補を務めた同志社大学の兼原信克特別客員教授は「中国の軍事拡大や北朝鮮核武装、ロシアのウクライナ侵略と国際情勢は悪化の一途だ。憲法の改正、特に9条の改正は私たちの使命だ」と訴えました。

このあと、能登半島地震を踏まえて、「法律での対応には限界があり、憲法への『緊急事態条項』の新設は不可避の課題だ」などとして憲法改正の国会発議を各政党に求める声明を採択しました。

参加した62歳の男性は「憲法が一言一句変わっていないのはこの進んだ時代にありえない。賛成も反対も声を出し、自分の意志を示すことが国民の責任だ」と話していました。

参加した各党からは
岸田総理大臣はビデオメッセージで「社会が大きく変化し、憲法改正がますます先送りのできない重要な課題となる中、国民に選択肢を示すことは政治の責任だ。いたずらに議論を引き延ばし、選択肢の提示すら行わないことになれば責任の放棄と言われてもやむをえない」と指摘しました。その上で、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題について改めて陳謝し「政治の信頼回復のためにも政治改革の議論とあわせて憲法改正という重要な課題について党派を超えて連携しながら真摯(しんし)に議論を行う」と強調しました。

また自民党憲法改正実現本部の古屋本部長は「国会の憲法審査会は憲法改正原案の取りまとめに向けて議論を加速すべきだ。各党には参議院でも審議を促進するよう働きかけていただきたい。小異を捨てて大同につくという精神で戦後初の憲法改正の実現に向けてまい進していきたい」と述べました。

日本維新の会の小野泰輔氏は「緊急事態条項の条文案を独自に作成し論点が出尽くすまで検討した。あとは国会で決めるだけで、時間を区切り結論を出すのは大人の社会で当たり前のことだ。だらだらと何年先になるか分からないような議論ばかりするのはやる気がないだけだ」と主張しました。

公明党の大口憲法調査会副会長は「大規模災害などの緊急時に国会機能を維持するための憲法改正は待ったなしであり、衆議院憲法審査会の議論を通じて論点は出尽くした。賛同する会派と共に近々議員任期延長のための改正案のたたき台を出し、条文案を起草できるよう全力を挙げたい」と訴えました。

国民民主党の玉木代表は「いざというときに備えて緊急事態条項を整備することは国民の生命と財産、わが国の主権を守るために不可欠だ。いつまでもだらだらやっていても結果は出ないのでしっかりと前に進める必要がある」と述べました。

《「憲法を守る立場」の市民団体が開いた集会》
憲法を守る立場の市民団体が東京・江東区で開いた集会には主催者の発表でおよそ3万2000人が参加しました。

この中で、長年憲法の問題に取り組んでいる伊藤真 弁護士は「経済の安全保障や武器輸出、そして学問や芸術など、さまざまな問題に政府が介入し憲法を無視した政治がどんどん進もうとしている。今まで憲法に守られてきた私たちが今度は憲法を守る責任を果たさないといけない」と訴えました。

集会のあと参加者たちは横断幕やプラカードを掲げながら会場の周辺を行進し、「武力で平和はつくれない」とか「憲法を暮らしにいかそう」と声を上げました。

参加した50代の男性は「よい形で憲法が変わるならいいのですが、現在進められている改憲の議論には反対で、今の憲法をいかしてもっと暮らしやすく人生が豊かになるような政治を行ってほしいです」と話していました。

参加した野党4党からは
この集会で、立憲民主党共産党など野党4党は、自民党が主張する、緊急事態の際の国会議員の任期延長のための憲法改正が必要ないことや、自公政権は安全保障政策で憲法を踏みにじっているなどと訴えました。

この中で立憲民主党の逢坂代表代行は「『裏金議員』が憲法を議論する正当性があるのか。憲法は国会議員や公務員などを縛る法規であり、憲法に縛られる側の人間が法律を犯しているかもしれない中、声高に憲法改正を叫ぶことは異常な姿だ」と指摘しました。

その上で「緊急事態に名を借りて、国会議員の任期を延長させる議論を一生懸命やっている人がいるが順番は逆だ。災害に強い選挙や参議院の緊急集会の役割を充実させる議論を尽くす必要がある」と述べました。

共産党の田村委員長は「戦争をする国づくりを何としても止めたい。集団的自衛権の行使容認や軍事費2倍などは、歴代自民党政権憲法9条があるからできないと言っていたものばかりだ。いったいどこまで憲法を踏みにじるのか。危険な自公政権の政治を許すわけにはいかない」と訴えました。

れいわ新選組の櫛渕共同代表は「能登半島地震では、がれきの撤去が進まず『憲法25条』が規定する最低限度の生活が保障されていない。被災地を放置しながら、災害のために憲法を改正し、緊急事態条項を入れるのは茶番だ」と述べました。

社民党の福島党首は「自民党政権特定秘密保護法や安全保障関連の3文書などで憲法破壊をくり返してきた。法律をやぶる『裏金議員』に憲法を変える資格はなく、憲法改正よりも憲法を生かすべきだ」と主張しました。

3日は、日本国憲法の施行から77年となる憲法記念日です。NHK世論調査で今の憲法を改正する必要があると思うかどうか聞いたところ、「改正する必要があると思う」は36%、「改正する必要はないと思う」は19%、「どちらともいえない」が41%でした。

《調査概要》
NHKは、先月5日から3日間、全国の18歳以上を対象にコンピューターで無作為に発生させた固定電話と携帯電話の番号に電話をかけるRDDという方法で世論調査を行いました。

調査の対象になったのは、3129人で、49%にあたる1534人から回答を得ました。

憲法改正の必要性》
今の憲法を改正する必要があると思うかどうか聞いたところ、「改正する必要があると思う」が36%、「改正する必要はないと思う」が19%、「どちらともいえない」が41%で、去年の同じ時期に行った調査とほぼ同じ割合となりました。

(2023年調査:必要ある35%、必要ない19%、どちらともいえない42%)

《“改正が必要”の理由》
「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「日本を取りまく安全保障環境の変化に対応するため必要だから」が47%と最も多く、「国の自衛権自衛隊の存在を明確にすべきだから」が22%、「プライバシーの権利や環境権など、新たな権利を盛り込むべきだから」が15%、「アメリカに押しつけられた憲法だから」が7%でした。

《“改正は必要ない”の理由》
憲法を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「戦争の放棄を定めた憲法9条を守りたいから」が65%と最も多く、「基本的人権が守られているから」が13%、「すでに国民の中に定着しているから」が11%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が6%でした。

《9条改正の必要性》
憲法9条について、改正する必要があると思うかどうか聞いたところ、「改正する必要があると思う」が31%、「改正する必要はないと思う」が29%、「どちらともいえない」が35%で、去年の同じ時期に行った調査と比べて、いずれも同程度となりました。

(2023年調査:必要ある32%、必要ない30%、どちらともいえない34%)

《9条“改正が必要”の理由》
憲法9条を「改正する必要があると思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「自衛力を持てることを憲法にはっきりと書くべきだから」が60%と最も多く、「国連を中心とする軍事活動にも参加できるようにすべきだから」が20%、「自衛隊も含めた軍事力を放棄することを明確にすべきだから」が8%、「海外で武力行使ができるようにすべきだから」が6%でした。

《9条“改正は必要ない”の理由》
憲法9条を「改正する必要はないと思う」と答えた人に理由を聞いたところ、「平和憲法としての最も大事な条文だから」が67%と最も多く、「改正しなくても、憲法解釈の変更で対応できるから」が13%、「海外での武力行使の歯止めがなくなるから」が11%、「アジア各国などとの国際関係を損なうから」が5%でした。

世論調査結果 専門家はどうみたか》
改憲に向け議論進めるべきとの立場】関学大 井上武史教授
今の憲法を改正する必要があると思うかどうかの回答が去年の調査とほぼ同じ割合となったことについて、憲法学が専門で、憲法改正に向けた議論を進めるべきだという立場の関西学院大学の井上武史教授は「最近は憲法に関する議論が低調で国民を巻き込んだ議論にはなっておらず、それが数字にも出ているのではないか。憲法は私たちの国や社会をよりよくするもので、その都度生きている人たちが必要な改正を施すのが私自身は望ましいと考えており、70年以上も改革できていない憲法が本当に生きた憲法なのかというところは問い続けないといけない問題だと思う」と指摘しています。

また憲法9条について「ロシアによるウクライナ侵攻以降、憲法9条改正については若干関心が高まったと思うが、これまでとは異なり日本が侵略国になることへの歯止めとしてではなく、日本が被害者にならないようにするために9条を整備したほうがいいのではないかという、従来とは違う方向からの関心ではないか」と話しています。

【今は憲法を変えるべきではないとの立場】東大 石川健治教授
また憲法学が専門で、今は憲法を変えるべきではないという立場の東京大学石川健治教授はウクライナ戦争の長期化で、おととしから続いた動揺が収まってきたこともありパニックに踊らされず、比較的安定した民意が今回の結果になっているのではないか。今進んでいる改憲論議はとにかく一度憲法の条文を変えるという方向だけが出ているわけで、何を守るのかという部分の議論がなされないように思う」と指摘しています。

また憲法9条について「安全保障環境の激変ということが強調されているわりには、世論は激変していないところがあり、冷静さが保たれている。一方ですごく警戒感を持ち始めているのではないかと見ており、日米同盟が強化され、中国との対立があおられる状況になると、潜在的に戦争の可能性があっていつ火がつくかだけの問題になっていて、その危険さに直感的に気付いているのではないか」と話しています。

「あなたの母親の旧姓は?」

パスワードを忘れたときの「秘密の質問」で見かけるこのフレーズ。結婚した夫婦の94%以上が夫の名字を選ぶ日本ならではの質問です。

夫婦は同じ名字にするという制度をめぐっては、「家族の一体感を保つために必要だ」という声がある一方、「夫婦で不平等になっていて、別姓も選べるようにすべきだ」と主張する人たちが、繰り返し裁判を起こしてきました。

何十年も議論されてきたこの問題。なぜ解決しないのか。
今回、最高裁判所が初めて判決を出した時の裁判官2人に話を聞くことができました。2人の憲法判断をひもとくとともに、未来に向けての提言を聞きました。
(社会部記者 佐伯麻里)

夫婦の名字 憲法との関わりは
ことし(2024年)3月、事実婚カップル5組と夫婦1組が国に賠償を求めて裁判を起こしました。結婚後の名字をめぐる3度目の集団訴訟と言われています。

問題としている規定の1つが、民法の条文です。

民法750条
「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」

夫婦どちらかの名字を選べることになっていますが、実際は夫の名字を選択した夫婦の割合が94.7%に上っています。(厚生労働省のおととしの調査)

告たちは、「女性ばかり仕事や生活上の不利益が生まれ、憲法が保障する『婚姻の自由』や『両性の本質的平等』に違反している」などと主張しています。

裁判を起こした原告
「自分の氏名は自分そのものなので結婚によって変えたくないという気持ちは自然なものだと思います。みんなが幸せに結婚できるために、選択的夫婦別姓制度は必要だと考えています」

30年続く議論
名字の規定をめぐる議論は、およそ30年前にさかのぼります。
政府は、夫婦で別の名字を選べる制度の導入を2度にわたって検討しましたが、「国民の意見が分かれている」として、いずれも法案の提出には至りませんでした。

そうした状況を受けて集団訴訟が繰り返し起こされ、最高裁の大法廷はこれまでに2回、「憲法に違反しない」という合憲の判断を示しました。

世論は年代で傾向分かれる
NHKは、4月初めに憲法に関する世論調査を行いました。
NHK世論調査
期間:2024年4月5日~7日
対象:全国の18歳以上 3,129人
方法:電話法(固定・携帯RDD
回答数(率):1,534人(49.0%)

別の名字を選べる「選択的夫婦別姓」について尋ねたところ、「賛成」が62%、「反対」が27%でした。

さらに年代別で詳しくみると、18歳から60代までのそれぞれの年代では、いずれも「賛成」が70%台で「反対」を大きく上回りました。

一方、70歳以上は「賛成」が48%、「反対」が40%となり、60代と70代を境に傾向が分かれました。

「賛成」と答えた人に理由を聞いたところ、「選択肢が多いほうがいいから」が56%、「名字が変わると、仕事や生活で支障がある人もいると思うから」が18%、「女性が名字を変えるケースが多く、不平等だから」が12%、「自分の名字に愛着がある人もいると思うから」が10%でした。

一方、「反対」と答えた人に理由を聞いたところ、「別の名字にすると、家族の絆や一体感が弱まるから」が36%、「別の名字にすると、子どもに好ましくない影響を与えるから」が26%、「別の名字にすると、まわりの人が混乱するから」が18%、「旧姓のまま使える機会が増えているから」が12%でした。

合憲支持の元判事 “夫の姓95%は慣習”
なぜ問題が解決せず、議論が続くのか。

夫婦は同じ名字にするという制度について、最高裁が初めて合憲判決を出したときの裁判官に話を聞くことができました。当時、合憲を支持した山本庸幸さんです。

山本庸幸 元判事

記者
「なぜ司法でここまで長い間議論されても解決しないんでしょうか」

山本元判事
「家族の姓はどうあるべきかという問題なので、それだけ問題が根深いということではないでしょうか。議論が熟していないし、およそ95%が夫の姓を選択するというのは慣習の問題です」

旧姓を併記したパスポートの見本
女性の社会進出にともない、パスポートに旧姓を表示できるようになるなど、さまざまな場で旧姓の使用が広がっています。

山本さんは、そうした現状では憲法違反というほど切実な問題とは言えないといいます。

山本元判事
「パスポートや運転免許証などを変えなければならないのは面倒ですが、『結婚して姓が変わりました』と言えばいいだけの話で、どうしても耐えられないという程度の問題ではないですね。対応策はいくらでもあるわけです。ちょっとの不合理さや不便さを理由に、違憲判断はできないと思います」

“制度論と憲法論は異なる”
山本さんは、社会にとってどちらの制度がよいかという議論と、憲法違反かどうかの議論は異なると指摘します。

山本元判事
違憲というのはもう耐え難い状況で、違憲判断するしかないというときに発動すべきで、今の規定があるから結婚できないというものでもないでしょう。憲法で保障される婚姻の自由や両性の本質的平等を阻害していると思うことはできません」

違憲主張の元判事 “実態見れば女性に不利”
15人いる最高裁の裁判官の中には、合憲の判断に異を唱える人もいました。山本さんとともに審理に参加した、元判事の櫻井龍子さんです。

櫻井龍子元判事
櫻井さんは、当時いた女性判事、3人全員の連名で「婚姻の自由や両性の本質的平等を保障する憲法に違反する」という多数意見とは異なる見解を示しました。

櫻井元判事
「確かに表面上はどちらかの姓を名乗ればいいことになっていますが、社会状況や慣習の中で女性が夫の姓を名乗り、いろいろな不利益を被っています。こうした実態や現実、結果に立脚すると、明らかに女性に不利な状況をもたらしているので、夫婦同姓を求める規定は差別的です」

労働省で女性局長を務めていた当時の櫻井元判事
櫻井さんは旧姓の「藤井龍子」として旧労働省で女性局長を務めるなど実績を積み上げましたが、その後、最高裁の判事に就任すると旧姓の使用が認められず、過去の評価を認識してもらえない経験をしました。※現在は裁判官も旧姓使用が可能。

櫻井元判事
最高裁判事になった時、『どこの馬の骨か分からない』と言われ、経歴や実績が切れた悲哀を味わいました。旧姓使用はダブルスタンダードみたいなもので、相手が認めるか認めないかで決まる不安定なものです。今も海外などでは、旧姓を使っても身分証明が非常に難しいなど、不便どころか大変な問題が生じることもあります」

“制度あるかぎり差別意識潜在的に残る”
櫻井さんは、夫婦は同じ名字にするという制度があるかぎり、男女の差別意識潜在的に残り続けるといいます。

櫻井元判事
「95%前後が夫の姓を名乗る構図は、夫が主で妻が従、夫が外で働き妻は中で家事をやるという役割分担意識を再生産し、強める方向になっています。最高裁が真っ正面から違憲判断を出すことを期待します」

司法より先に議論すべきは…
合憲か違憲かで分かれた山本さんと櫻井さん。

一方、長く続くこの問題の解決の糸口について聞くと、2人は口をそろえて「国会での議論の重要性」を強調しました。

実は最高裁の大法廷はこれまで2回の合憲判断の中で、「制度のあり方は国会で論じられるべきだ」として、国会に議論を促しました。しかし国会では、今でも具体的な制度の議論は進んでいないのが現状です。

山本元判事
「選択的夫婦別姓制度は基本的な家族の価値観に関わり、戸籍など影響する範囲もあまりにも広いテーマです。こういう問題は、そもそも論の『家族とは』という哲学から始まって、主権者の意向を体現する国会で十分議論して、その過程で決定されるべきものではないかと思います」

櫻井元判事
「家族の形や国民の意見が多様化するなか、最高裁が2回にわたって『国会で議論すべきだ』と言っているにもかかわらず動かないとしたら、今度の判決では、国会の怠慢という意味で違憲判断をする結論もありうると思います。最高裁の判決が出る前に、国会でぜひ議論していただきたい」

取材後記
私たちが生まれた時からそれぞれ付いている名字。

あまりにも当たり前にあるがゆえに、どうあるべきかということを正面から考えるのは難しいことですが、2人の元最高裁判事へのインタビューを通して、社会全体にかかわる大事な問題だと思いました。

どのような司法判断が示されるのか、国会での議論は進むのか、今後も取材を続けたいと思います。

(5月3日「おはよう日本」で放送予定)

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