https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

カンザス州のブレイディ・ピーターソンさんのレストラン「ピーツ」は、数キロにわたって風に揺れる小麦の穂に囲まれた小さな街にある。ランチ客で満員御礼のはずの土曜日だが、今は閑古鳥が鳴く。ふだんはフライドチキンやチーズバーガーを注文する近所の農家の人たちであふれていたが、農業収入の低迷とともに、ピーターソンさんの商売も上がったりだ。

売上低迷でピーターソンさん自身の収入も激減した。猛暑に見舞われる夏にも自宅のエアコンを使う余裕はないし、親友の葬儀に着ていくスーツを買うお金もない。
「結局、仕事着のTシャツと、良い状態のジーンズを履いていった」と、ピーターソンさんは語った。

米国の農家の2024年の収入は急落が予想されている。農産物価格の急速な反落、政府支援の削減、借入コストと人件費の高騰が原因だが、その経済的苦境は農家だけでなく、地域全体へと波及しつつある。

特に状況が深刻なのは、「プレーリー」と呼ばれる米国中部の平原地域に位置する各州だ。関係者によれば、この地域の農家はこの10数年で最悪の経済状況に直面しており、小規模都市はゴーストタウンになる恐れがあるという。

ロイターはカンザス州内で、企業経営者10人、商工会議所幹部2人、さらに2人のエコノミストと3人の農家に話を聞いた。厳しい干ばつが2年続いたうえに、種子と農薬・化学肥料の価格高騰、金利上昇、作物価格下落により、周辺の地域経済も干上がりつつあるという。

企業経営者たちは、前年比で20ー30%の減収になっていると語っている。米農務省では、全米では農業収入が前年比で25%低下すると予想している。金額ベースで見れば、年間での減少としては過去最大になりそうだ。

カンザス州コンコーディアで「メグズ・グルーミング・ペットサロン」を営むミーガン・ジェンセンさんは、「このあたりは農業地帯だ。それなのに、肝心の農家が使うべきお金を持っていない」と涙ぐむ。「有り金残らずこの店に投資してきた。失敗したらホームレスになってしまう」

米国の農家の収入は、2022年に過去最高を記録したが、その後、南米諸国での豊作や輸入産業・食肉加工産業での需要減少に由来する農産物価格の急落により、状況は一気に暗転した。トウモロコシ、大豆、小麦の先物価格は過去3年で最低の水準で推移している。

農務省のデータによると、カンザス州などプレーリー地域各州での農家収入の低下はさらに深刻で、今年は少なくとも2010年以降で最低になると予想されている。
カンザス州は米国最大の小麦生産州だ。エコノミストらは、農家収入の低迷は全国共通だが、米国産小麦への需要が縮小することで特に小麦生産地域への打撃が深刻だと指摘した。

<祭りか飢饉か――激しい浮き沈み>

カンザス州スミスセンターのブライス・ウィール市長は農家出身で、よく日に焼け、ふぞろいの白いあごひげを蓄え、しゃがれ声で話す。「ピーツ」店内でフライドチキンを前にして、相次ぐ差し押さえや、1500人台となった市内人口の減少、経済が陥っている悪循環について語ってくれた。

「農産物価格に依存しない産業は、まず見当たらない。農産物価格は地域社会に劇的な影響を与えている」と同氏は語った。

カンザス州の農業地帯では、中心街でもシャッターを下ろしたままの店舗があちこちで見られ、住民はかつてないほど人通りが減っていると指摘する。

カンザスノートンで銃砲店を営むシェーン・ワイアットさんは「このあたりでは浮き沈みがとても激しい。お祭り騒ぎか、飢饉(ききん)かといった具合だ」と語る。「ゴーストタウンとまでは行かなくとも、農産物価格低迷の影響は火を見るより明らかだ」
クレイトン大学の研究者らは5月、米国経済全般が順調に成長する一方で、中西部及びグレートプレーンズの農村地域の実体経済が後退したと報告している。農機具の売上不振と、農地価格が過去5年間で初めて下落したことが背景にある。

ノートンで宝飾店を営むラス・アーバートさんにとっての喜びは、上質のダイヤモンドが微かな光のもとでさえ輝く様子を若いカップルに見せ、婚約したばかりの女性が自分の指輪を見て微笑むのを見ることだ。だが、この小さな農業の街が経済的不振に陥ってからは、そういう場面も減っている。

「農家の若い人たちの中には、結婚を来年まで見送っているという例もある」とアーバートさんは語る。「今は節約したいからだ」

たまに客が来店しても、あまり値の張らないものを買っていくことが多い。銃砲店であれば銃ではなくてポケットナイフ、宝飾店では2カラットのダイヤモンドではなく、控えめな宝石といった具合だ。住民が所有物を質入れして当座の現金を得ることが増えたが、買い戻すために質屋を再訪する例は減った。

インフレの進行と金利上昇も、農家にとっては特に痛い。種子や肥料、家畜や農機まで、収穫後の返済を当てにした短期・変動金利のローンに依存しているからだ。
長引くインフレは企業経営者にも圧力となっているが、わずかな値上げでも文句を言われ顧客が離れてしまうコミュニティーでは、インフレだからといって値上げするにも迷いがある。

同州コンコーディアでドリンクバーとギフトショップを営むタミー・ブリットさんは、「同じ金額を稼ぐのに3倍は働かなければならなくなった気がする」と語る。
たえまないプレッシャーと、いつ終わるとも知れぬ仕事量のせいで、身も心も参りそうだと話す人もいる。

「ピーツ」の経営者ピーターソンさんは、「ストレスが高じて、髪をかきむしりたくなる日々だ。ときどき、店の裏に走り出て、戻る前に少し大声で叫びでもしないとやっていられない」と語る。「でも、楽天的にならないといけない」

6月15日、米テキサス州エルパソとメキシコのシウダー・フアレスを結ぶ国境の橋を徒歩で渡る人の列に逆らうように、移民の一群がメキシコへと戻っていく。米バイデン政権による新たな移民対策に基づき、数分前に強制送還の処分を受けた人たちだ。

主に20代のベネズエラ人男性らは、6月初旬に発表された、不法に国境を越えた移民の大半を即時送還する米大統領令に基づいて退去処分となった。

ジョー・バイデン大統領による新たなアプローチがもたらす絶望と希望の両面が浮かび上がる光景だ。ほんの数日前に命が危ういほどの猛暑の中で国境を越えた強制送還対象者たちが、キャリーケースを転がしながら1列に並ぶ別の移民のグループとすれ違っていく。

移民たちは、「CBPワン」を使った面接審査が行われるのを待っている。バイデン政権が推進しているスマートフォン用アプリで、入国手続地に合法的に向かう手段を提供するものだ。

銀の十字架をあしらったネックレスを着け、「ジョシュアン」という名前だけ教えてくれた強制送還対象者に、また米国への入国を試みるかと尋ねると、「もちろん」という答えが返ってきた。周囲の仲間もうなずいた。

強制送還対象者は皆、最低でも5年間は再入国を禁止されており、今後国境を越えることがあれば、拘束されないよう身を隠す必要がある。

<「選択肢はこれしかない」>

バイデン米大統領民主党)は、11月5日投票の大統領選挙に向けて移民問題が重要な争点になったことで、国境警備に関する姿勢を強化している。大統領選挙で対決する前任者のドナルド・トランプ前大統領(共和党)は、再選されたら広範囲で不法移民を取り締まると公約している。

バイデン大統領は18日、米国民の配偶者を持つ不法移民について合法的地位を与える計画を発表した。「トランプ氏とは違い、より人道的な移民制度を支持する」という選挙向けのメッセージを裏付ける狙いだ。

今のところ、バイデン政権が移民対策を強化し、メキシコ側でも移民規制をこれまでより厳格に執行していることで、越境する移民の数は減っているように見える。

米税関・国境警備局(CBP)の高官によれば、16日に拘束された人は2500人をわずかに下回り、1日当たりでは2021年2月以来で最低となった。同高官は、まだ暫定の数値に触れることになるとして匿名を希望している。

米当局者によれば、国境検問所8カ所で1日に対応可能な「CBPワン」による面接審査は1450件だが、拘束者数はこれを上回っている。

ここ数年、強制送還された移民による再度の越境もあって、拘束者数は過去最高水準まで膨れ上がっていた。

シウダー・フアレスにあるブエン・サマリターノ移民シェルターのフアン・フィエロ・ガルシア所長は、バイデン氏がトランプ前政権下での移民制限措置を連想させるような大統領令に署名して以来、滞在場所を求めてシェルターに駆け込む人々が40%近く増加したと話す。

「国境は事実上閉鎖されている。唯一の合法的な方法は『CBPワン』による審査だ」とフィエロ・ガルシア氏。このシェルターでは、強制送還となった人は受け入れていない。

ホンジュラス出身のフィデリナ・バルダレスさん(46)は、15歳と5歳になる2人の娘とともに、このブエン・サマリターノ移民シェルターで1カ月半、「CBPワン」の審査を待っていると話す。このアプリは移民がメキシコ中部に到達すると使えるようになる。

「バイデン政権のルールを受けて、私にとって選択肢はこれしかない」とバルダレスさんは言う。亡命申請のため米国境を目指して9カ月にわたる道のりを始めたのは、息子が同性愛者であることを理由に射殺され、その犯人らが、通報されるのを阻止するためにバルダレスさんと娘の「姿を消す」と脅迫したためだったという。

<死者は2倍近くに>

6月14日、国境を越える橋の米国側。エルパソ・ストリートに面した店舗前の日陰に、ベネズエラ出身のイェニー・シスネロスさん(36)が座っている。ちょうど「CBPワン」での面接審査を終えたところだ。ネイルアーティストのシスネロスさんは、入国審査官のもとに出頭するよう通知を受けた。2週間もすれば就労許可をもらい、ヒューストンで仕事を探せるようになるのではないかと期待している。

「神様とこの国に感謝している」とシスネロスさん。入国管理局事務所のあるベージュ色のビルから20歳の娘が出てくるのを今か今かと待ち受けている。

前日の13日、シスネロスさんと2人の娘は空調の効いたシウダー・フアレスのホテルで、面接審査に備えて身体を休めていた。

同じ日、メキシコ当局はエルサルバドル出身のアドリアナ・カステラノスさん(23)と見られる移民女性の遺体を収容した。人口160万人のシウダー・フアレス市に近い砂漠で、脱水症状により死亡していた。

人権擁護活動家のアラン・リザラガ氏は、犯罪者扱いを受け拘束されるようになった亡命希望者は、やむなく砂漠の横断を企てるようになっている、と指摘する。

エルパソを本拠とするボーダー・ネットワーク・フォー・ヒューマン・ライツ(人権のための国境ネットワーク)に参加するリザラガ氏は、「移民を死に追いやっているのは米国の政策だけではない、メキシコも同罪だ」と話す。

エルパソ側では先週、ほぼ1日に1人のペースで猛暑のために移民が命を落とした。米国の国境管理当局者によれば、今年度に入って移民の死者は2倍近くに増加し、国境警備隊による救助件数は3倍近くに達している。

米国国境警備隊員のオーランド・マレロ・ルビオ氏は、大半の移民が横断を試みるエルパソ西部の山岳地域で取材に応じ、死者が増えている原因は、平年よりも早く猛暑が到来していることと、人身売買を牛耳る犯罪組織による移民に対する非人道的扱いだと語った。

<強制送還の恐怖を口にしない不法移民>

エルパソ市北東部にある広大な移民手続き施設では、収容者数が激減した。拘束された不法移民のほぼ全員が「即決退去」の対象になっているからだ。

バイデン政権による新たな移民対策以前は、国境を越えた移民のほとんどは、当局者による面接審査を経て米国への入国を認められていた。審査では、母国に戻る、あるいは送還されることで危険を感じるかを問われた。

ある国境管理当局者は、移民対応業務の変化について発言するために匿名を希望しつつ、移民たちが亡命希望者と認定されるための面接審査を求めているか否かについて、「彼らは恐怖を口にしない」と話す。

マヨルカス米国土安全保障長官は記者団に対し、多くの移民は迫害を恐れてというよりも、経済的な理由やその他の理由で渡航していると述べ、新たな規制がより大きな影響力を持つようになるとの見方を示した。

シウダー・フアレスのブエン・サマリターノ移民シェルターに戻ろう。ベネズエラ出身のアレハンドロ・ウィルチェスさん(24)は、「計画が変わった」と言う。先週、家族がエルパソ中心街のすぐ東に立つ国境フェンスに近づこうとしたところ、テキサス州兵が催涙弾を発射したからだ。

他の共和党系首長と同様、テキサス州のグレッグ・アボット知事も、移民の越境を阻止するために州兵を用いている。

ウィルチェスさんの生後1カ月半の娘は、催涙ガスを吸って鼻と口から出血した。妻は、米国側に入って亡命申請をしようと試みた時に有刺鉄線でひどい切り傷を負った。
家族は今、「CBPワン」による審査を待っている。

「越境しようとして娘を亡くすのはごめんだ」とウィルチェスさん。気温の上がる午後、本人と家族は室内で休んでいる。幼い娘は、催涙ガスを吸い込んで入院した後、まだ発熱に悩まされている。

d1021.hatenadiary.jp

#米大統領

d1021.hatenadiary.jp