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フランスのマクロン大統領は、欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長に譲歩し、次期委員候補でもあったブルトン委員(域内市場担当)を犠牲にしたことで、欧州における影響力の低下が明るみに出た――専門家らはこう指摘する。

ブルトン氏は16日に突然辞任を表明し、再任が決まったフォンデアライエン委員長に対する辛らつな言葉を残した。6月の欧州議会選挙に続きEUの政治的権力移行において、予想外の展開となった。

マクロン氏側の人々は、後継の欧州委員候補となるマクロン氏の盟友セジュルネ外相のためにより影響力のある役割を確保したと話しているが、どうやらこの交代劇における最大の勝者はフォンデアライエン委員長で、マクロン氏との政争に勝利したことが明らかになりつつある。

フォンデアライエン氏は17日、欧州連合における最も強力な機関を今後5年間率いるチームとして、閣僚に相当する新たな欧州委員の候補を発表した。27加盟国が1つずつ、欧州委員のポストを占めることになる。

シンクタンクロベルト・シューマン財団」のジャン・ドミニク・ジュリアーニ総裁は、あるメモの中で「(フォンデアライエン)委員長は、自分ひとりでEUを引っ張っていこうとしている」と述べた。

「フォンデアライエン体制には自由な精神の居場所はない。だからブルトン氏は辞任した」とジュリアーニ氏は続ける。「影響力の低下したマクロン大統領は、ブルトン氏の立場を守るために戦うのは得策ではないと判断した。情けない話だ」

69歳のブルトン氏はフランスの元財務相で、自国の複数の優良企業で最高経営責任者を務めた豊富な経験を有する。この5年間、欧州委員会でも存在感を強め、フォンデアライエン氏の主要なライバルとなっていた。

ブルトン氏はこれまでメディア報道をにぎわせてきた。テクノロジー産業で財をなしたイーロン・マスク氏に論戦を挑み、EUのいわゆる「ビッグテック」規制や新型コロナ対策、防衛産業強化への取り組みでも中心的な役割を担ってきた。

ブルトン氏とフォンデアライエン氏は何度か公然とぶつかっており、フォンデアライエン氏が自らの独キリスト教民主同盟(CDU)出身者をEUの要職に据えようとする決定を妨げる際にも一役買った。

とはいえ、6月にはマクロン仏大統領がブルトン氏をフランス選出の欧州委員として承認しており、つい先週までは同氏の再任が既定路線となっていた。マクロン大統領に近い筋によれば、大統領は経済分野の重要ポストをフランスに与えることを条件としてフォンデアライエン氏の再任を支持していたという。

<仏総選挙で変わった力関係>

だが外交関係者がロイターに語ったところでは、夏季休暇を終えて8月19日にEU本部に戻ったフォンデアライエン氏は、マクロン大統領に対し、ブルトン氏を引っ込めなければマクロン氏の希望するポストを提供できないと告げた。

この頃には、すでに欧州議会からの再任支持を確保していたフォンデアライエン氏が優位に立っていた。

一方のマクロン氏は、解散・総選挙というギャンブルに失敗した挙げ句の空転議会のもとで、誰に首相の座を任せればいいのか、フランス政界の有力者とのやっかいな協議に追われていた。

あるEU外交官はロイターに対して、「フォンデアライエン氏は、絶好のタイミングをつかんだ」と語った。

フォンデアライエン氏のチームは、ブルトン氏に関するコメントは控えるとしている。

ブルトン氏の進退をめぐる妥協は、5年前にフォンデアライエン氏の委員長就任に力を貸し、EUのアジェンダ設定を主導してきたマクロン大統領の影響力低下を象徴している。

マクロン大統領に近い筋によれば、同氏にとって重要なのは新たな欧州委員会でフランスが占めるポストだけであり、依然としてブルトン氏に全面的な信頼を寄せていたとはいえ、誰が委員になるかは二の次だったという。

フランス外相を退任するセジュルネ氏は、ブルトン氏の主要な任務である産業部門の責任者を引き継ぐ。さらに、同氏に近い筋によれば、現在では他のポストに分散している「財政ツール」も使えるようになるという。

また、4人の欧州委員で構成されるグループを統括する執行副委員長の肩書きも与えられる予定だ。

だがEUの仕組みに詳しい人々によれば、EU本部において重要なのは、各国の省に相当する「総局」をいくつ直接の指揮下に抱えているか、だという。

フランス当局者はセジュルネ氏が他の欧州委員を自らのグループ内で「監督」することになると言うが、ブルトン氏が3つの総局を指揮していたのに対し、セジュルネ氏は1つだけだ。

EU本部の関係者の1人は、「肩書きは重要ではない。EU本部では、力関係がすべてだ。物事を動かすには、官僚機構に対する直接的な指揮権を握り、強い個性を持っていなければならない」と語る。

セジュルネ氏は、マクロン大統領の台頭を支えた戦略担当者の1人だが、外相などの公職においては目立った実績がない。

まだ39歳のセジュルネ氏は、ブルトン氏と違って大企業や大規模な官僚機構を動かした経験がなく、グローバルな要人たちがブルトン氏に払ったような敬意を期待することはできず、マスク氏などにも侮られることになるという厳しい見方もある。

専門家のあいだでは、政策面においては、EUはブルトン氏の遂行能力を懐かしむことになるだろうという声がある。

地政学アナリストのフランソワ・エズブール氏はX(旧ツイッター)上で、「(ブルトン氏の辞任は)欧州、特に欧州の防衛部門にとっては、実に残念な話だ」と投稿した。

「自分はブルトン氏の大ファンというわけではないが、彼がEUの兵器調達政策の整備に多くのエネルギーとノウハウをもたらしてくれたことは事実だ」とエズブール氏は述べている。

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