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権力闘争の構図

初めから全てがそうであった訳ではない。国の進路を決めたのは官僚ではなく政治家である。安全保障を米国に委ね、貿易立国で経済成長を図る体制を敷いたのは吉田茂岸信介椎名悦三郎といった政治家だった。初めは「官僚主導」でなく「政治主導」だったのである。

 この構図を利用して政治にくさびを打ち込んできたのが検察権力である。戦後最大の疑獄事件とされるロッキード事件では東京地検特捜部が田中角栄元総理を逮捕して「最強の捜査機関」と拍手喝采された。しかし実は日本の検察に「最強の捜査機関」の能力などない。その実態がどれほど劣悪かは、産経新聞社会部記者として18年間検察を取材してきた宮本雅史氏の「歪んだ正義―特捜検察の語られざる真相」(情報センター出版局刊)や、同じく産経新聞社会部記者として12年間検察を取材してきた石塚健司氏の「『特捜』崩壊―堕ちた最強捜査機関」(講談社刊)に詳しい。

 宮本氏はロッキード事件東京佐川急便事件を取り上げて検察捜査の異常さを指摘し、「歪み」の出発点を造船疑獄事件に求めている。石塚氏は大蔵省接待汚職事件と防衛省汚職事件での捜査の暴走ぶりを紹介している。これに前回紹介した「知事抹殺―つくられた福島県汚職事件」(平凡社刊)や「リクルート事件江副浩正の真実」(中央公論社刊)を加えると、検察の「でっちあげ」の手口がよく分かる。私もロッキ−ド事件で東京地検特捜部を取材した記者の一人であるから、ロッキード事件が「総理の犯罪」にすり替えられていく過程を体験している。

 ロッキード事件は日本だけでなく世界中で起きた。西ドイツ、オランダ、ベルギー、イタリアなどにもロッキードの賄賂がばらまかれた。西ドイツの国防大臣、オランダ女王の夫君、イタリア大統領らが賄賂を受け取った事実を公表された。しかし誰一人刑事訴追されていない。

 ところが「クリーン」を売り物にした三木元総理はそれを機に政治資金規正法の趣旨をねじ曲げ、やってはならない金額の規制に踏み込んだ。そこから政治資金規正法は官僚による政治支配の道具となる。

 90年代に冷戦が終わると世界は大きく構造変化した。米国の敵はソ連ではなく日本経済となる。米国議会は日本経済を徹底分析し、強さの秘密は日本企業ではなく、その背後の政官財の癒着にあると判断した。そして日本経済を潰すのに最も有効なのは司令塔である大蔵省と通産省を潰すことだと結論づけた。すると間もなく日本の検察が「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待をリークして大蔵省のキャリア官僚を逮捕する事件が起きた。

 事件の前後には、特捜部の捜査によって大蔵官僚の縄張りだった公正取引委員長、預金保険機構理事長などのポストが次々に法務・検察官僚に持って行かれる事態も起きていた。要するに米国の権力が日本経済を潰すため大蔵省をターゲットにする中で、国内にも大蔵省を分割しようとする権力があり、そこに霞ヶ関の縄張り争いが絡まって大蔵省接待汚職事件は作られた。検察にすれば「時代の流れ」に沿う捜査と言うだろう。しかし国益にかなう捜査であったのか疑問である。

 「ノーパンしゃぶしゃぶ」のリークに見られるように、あらかじめ摘発の対象を「悪」と思わせる手法をとるため、検察の捜査は常に「正義」とメディアに報道される。しかしこれはナチスの宣伝相ゲッベルスの手法そのものである。メディアを使って大衆を扇動し、大衆にシロをクロと思い込ませれば、裁判所も無罪の判決を下せなくなる。