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三菱自、東芝…旧日本軍と共通する「失敗の本質」破綻する組織は「言葉」を奪い始める|「超」入門 失敗の本質――日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ|ダイヤモンド・オンライン

データ偽装を行った三菱自動車粉飾決算を行った東芝。名門企業の優秀な社員のもとで、なぜ不正は起きたのだろうか? これまでも食品偽装から、東京オリンピックの不明瞭な運営まで、日本的な組織の病根が明らかになるたびに引用される名著『失敗の本質』。戦後70年たった今も変わらない日本的組織のジレンマを、14万部のベストセラーとなった『「超」入門 失敗の本質』の著者が読み解く。

 私たちが2社の不祥事報道で感じるのは、なぜこのように問題が巨大化するまで放置され、小さな規模のときに是正されなかったのか?ということです。会計処理、燃費試験の不正は、社内で早期に問題に気づいた人たちが必ずいたはずなのに、です。


 2社は長い歴史と伝統を誇る、日本の名門企業です。一般的に名門かつ規模の大きい企業には、優秀な学生が応募し人材の層を成していきます。優秀な人たちが集まってつくられた組織にもかかわらず、なぜ致命的な問題が長期間にわたり放置され、会社の存続を揺るがす大問題になるまでの膨張を許してしまったのでしょうか。

 日本的な巨大組織を語るときに、避けて通れない存在があります。約70年前、戦前に日本最大の組織だった日本軍です。1937年の日中戦争から、1941年12月の真珠湾攻撃で始まる太平洋戦争、そして1945年の敗戦まで。当時、日本最大の組織だった日本軍は急激な膨張をしたのちに、ほぼすべての戦力を失うまで敗北を重ねます。最後は広島と長崎に原爆が投下され、1945年の夏に敗戦を迎えました。

【『失敗の本質』が指摘した失敗要因】
●空気の支配(戦略上の失敗要因の1つ)
●人的ネットワーク偏重の組織構造(組織上の失敗要因の1つ)


 合理的思考ではなく、空気に組織内が支配されてしまうと、理性ではなく情緒によって判断がされてしまう。人的ネットワークを過度に重視した組織構造では、合理的につくられているはずの組織の中で、非公式の人間的なつながりによる意思決定が強力に機能してしまう。結果として、間違いがいつまでも是正されず、膨らみ続けて致命的な失敗・敗北を生み出してしまうのです。


インパールで日本軍と戦ったスリム英第一四軍司令官は、「日本軍の欠陥は、作戦計画がかりに誤っていた場合に、これをただちに立て直す心構えがまったくなかったことである」と指摘したといわれる」(『失敗の本質』より)

 巨大組織が破綻する兆候の一つは、「言葉」を奪い始めることです。日本軍は戦局が悪化を始めたとき、撤退すべき場面であえてその言葉を使わず「転進」と言い換えて使い、権力の及ぶ範囲でそれを徹底させました。作戦が失敗しているのに、それを認めない態度を表わしているかのようです。

 今回、不正が発覚して大問題となった2社の中では、「不正会計」「過大計上」「燃費偽装」「法令違反」などの言葉が、奪われていたのではないでしょうか。集団内で特定の言葉が奪われることは、短期的には問題(真実)への目隠しの効果を発揮し、最終的には組織の巨大な破綻と敗北を引き寄せます。


 なぜ、組織や集団の中で「言葉を奪うこと」が大きな破滅への道になるのでしょうか。それは、言葉を奪うことが真実(現実)との接点を失わせて、本来なら対策が取られるべきときに、それを実行させない負の影響を発揮してしまうからです。

「空気」とは日本でよく使われる言葉ですが、筆者は「空気」を、それをあえて検討しないという暗黙の了解をつくることだと捉えています。言い方を変えれば、あることを一つの視点だけで解釈するように固定させ、他の視点から検討させないことです。

 作戦会議では、大和特攻を進める三上参謀と、無謀として海軍の伊藤長官が対立します。軍人の常識から、戦艦が戦闘機の護衛なしで勝てる見込みはゼロだったからです。ところが、次の三上参謀の言葉で「空気」ができてしまいます。


(三上参謀)「陸軍の総反撃に呼応し、敵上陸地点に切りこみ、ノシあげて陸兵になるところまでお考えいただきたい」
(伊藤長官)「それならば何をかいわんや。よく了解した」


 三上参謀は、海軍の最新鋭戦艦である「大和」が突撃することで、沖縄戦に対する敢闘精神を示威することの正しさを主張したのでしょうが、この小さな正論が、軍事的常識から考えて、作戦は絶対に成功しないという別の視点からの検討をさせない効果を発揮しました。


「空気」が厄介なのは、その主張に小さな正論が混入されていることです。「大和」の特攻は、軍事作戦としてはあり得なくとも、沖縄で苦戦をしている陸軍への精神的援護、支援の敢闘精神の発露という意味では、正論と言える部分が含まれています。

【誤りを誘発する「空気」の小さな正論】
・企業は良い決算数字を出すべく努力すべき
・燃費が良いほうが自動車は売れる


 過去、食品衛生問題では「もったいない」「また食べることができる」からと、別の客に出した食材を使いまわしていた前代未聞の事件がありました。これも食品衛生法や飲食店の倫理という別の視点で判断すれば、絶対にあってはいけない行為です。ところが、組織内で権力を持つ人たちが、ごく小さな正論を振りかざして、他の視点でこの問題を議論させない「空気」をつくると、組織全体が大きな過ちを犯してしまうのです。

「日本軍が戦前において高度の官僚制を採用した最も合理的な組織であったはずであるにもかかわらず、その実体は、官僚制のなかに情緒性を混在させ、インフォーマルな人的ネットワークが強力に機能するという特異な組織であったことを示している」(『失敗の本質』より)


 属人的な決定に、組織内での権威や権力が加わるとどのようなことが起きるのか。誤った決断を覆すことが、愚かしいほど難しい状態を生み出してしまうのです。


「権威のまわりには、それをまもろうとする人垣ができる。だから、まやかしだとわかっているような、人相見の虚偽をあばこうとすると、でも私の場合にはぴたりと当たりましたよという人が出て来て彼をまもろうとする」


「権威をぐらつかせることは、実は、そのまわりにある人垣と、たたかうことになるのですね」(いずれも、なだいなだ著『権威と権力』より)

 燃費が良い自動車が売れているのは事実です。しかし、人気車になるには「燃費の追求」が唯一の指標でしょうか? そんなことはありません。新たな指標の有効性を証明している自動車メーカーがあります。例えば、マツダとスバルという日本の中堅自動車メーカーです。

 企業が対外的に高い評価を受けるには、決算数字も重要ですが、リバイバルプランなどの再生・改善計画がしっかりしており、効果的なものと認められることでも可能です。東芝の経営陣が今回の会計処理問題の初期に、このような新しい指標を会社の方針として導入し、自ら対策とともに発表をしていたらどうなっていたか。

 私たちは、戦略策定や戦略転換(イノベーション)の構造を明確に理解しつつ、体験を広く積み重ねることで、新たな時代に有効な新指標を導入できるビジネスパーソンを必要としています。その上で、リーダーが現実との接点を失うような形で、権威や権力を乱用しないことを強く自戒すべきです。現実との接点を失うことは、一時的な問題の隠ぺいには成功しても、やがては組織を妄想の世界に突入させ、現実に引き戻されたときにはトップも組織も破綻に追い込まれてしまうからです。


マツダやスバルの姿は、新しい指標を導入することで企業が飛躍できるという可能性を私たちに示しています。一方で、古い指標に疑問を抱かず、それを追いかけ続けて閉塞感に陥る企業も数多く存在しています。戦略策定の能力と、現実との接点を失う問題は表裏一体であり、その両面を正しく理解することが、新たな失敗を防ぎ、日本企業に飛躍を実現する力となるのです。

http://d.hatena.ne.jp/d1021/20160516#1463394931
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