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核兵器禁止条約は、核兵器の開発や保有、使用などを禁止する初めての国際条約で、ことしの3月からニューヨークの国連本部で、120を超える国が参加して制定に向けた交渉が行われてきました。


7日、行われた採決では、NATO北大西洋条約機構の加盟国として唯一交渉に参加してきたオランダ1か国が反対したものの、122の国と地域の圧倒的多数の賛成で条約は採択されました。採決に先立ち、交渉会議の議長を務めるコスタリカのホワイト軍縮大使は「条約は核兵器を禁止する規範になる」と述べ、その意義を強調しました。


採択の瞬間、議場では各国の代表から大きな拍手と歓声が上がり、市民社会の代表として参加した広島の被爆者も立ち上がって拍手を送っていました。


条約はことし9月から署名が始まり、50か国が批准の手続きを終えたのち90日後に発効することになっていて、100か国以上が加盟する見通しです。一方で、アメリカやロシアなどの核兵器保有国や、核の傘に守られた日本などは「核兵器を一方的に禁止することは世界の安全保障の現実を踏まえていない」として、条約に参加しない見通しです。このため、核兵器を包括的に禁止する新しい条約が、今後の世界の核軍縮にどのような影響を及ぼしていくのか、注目されます。


核兵器禁止条約の採択を受け、交渉会議では、議論を主導してきた国の1つ、オーストリアの代表が「条約は多国間の核軍縮をさらに進めるための礎を築いた。核兵器は違法であり廃絶しなければならない。いまだに核兵器に依拠した安全保障政策をとる国々に対しては、彼らの安全のためにも、そして、人類の安全のためにも条約への参加を呼びかける」と述べ、条約の意義を強調しました。一方で、唯一の反対票を投じたオランダの代表は条約に反対した理由について、「核兵器保有国の広い支持が得られていないうえ、NATO北大西洋条約機構の加盟国としての責任とも矛盾が生じる」と説明しました。

核兵器禁止条約が採択されたことを受けて、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスの3か国は7日、共同で声明を出しました。


声明では、「国際的な安全保障の環境を無視したイニシアチブだ。条約は北朝鮮による核開発の深刻な脅威に対してなんの解決策も示していない。条約に参加する考えは全くなく、われわれの核兵器に関する法的義務にはなんら変化はない」として、核保有国が参加しないまま条約が採択されたことを厳しく批判し、今後も賛同する考えがない意思を明確に示しました。

今回の交渉で中心的な役割を果たしたオーストリアのハイノツィ大使は記者会見で、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスの3か国が国際的な安全保障の環境を無視しているなどと、共同声明を出して批判したことについて、「安全保障のために核兵器が必要だという考えはやや短絡的だ。1つの国が核兵器保有すれば、ほかの国々も保有しようして核兵器の拡散につながるからだ。私たちは核兵器の使用が地球全体に影響を与えることを知っている。安全保障のためにこそ、核兵器を禁止する規範を確立することが重要だ」と述べ、条約の意義を強調しました。


また、南アフリカのディセコ大使は「このように短期間で採択された条約は記憶になく、採択は大きな功績だ。最も心を動かされたのは、広島と長崎から被爆者を迎え、現実と向き合ったことだ。被爆者に対する私たちの責任を常に心に留めていた。変化をもたらすための一歩を踏み出したと思っている」と述べ、日本の被爆者の存在が条約の採択を後押ししたと指摘しました。

核兵器禁止条約が国連で採択されたことについて、国際政治が専門の明治学院大学の高原孝生教授は「非人道的である核兵器を明確に禁止する条約はなく、今回の条約は極めて画期的だ。世界は今、北朝鮮の対外的な対応を含めて極めて危険な状態にある。今こそ核兵器を禁止する国際社会の規範を作らなければならないという各国の意識が、採択につながったのではないか」と評価しました。


一方で、今回の条約の交渉に、日本や核保有国が不参加だったことについては、「核保有国にどう働きかけていくか、課題は残った。しかし、核保有国の中でも核兵器は禁止すべきだという世論はあり、今回、それを支持する国際社会の規範ができたことで核保有国の中で核兵器廃絶の機運が高まることも期待できる」と指摘しています。


また、条文の前文で被爆者にもたらされた受け入れがたい苦しみと被害に留意すると明記されたことについては、「今回の条約に被爆者が果たした役割は大きい。被爆者が長年、核兵器廃絶を訴えてきたことへの共感と、核兵器の被害がどのようなものなのか私たち人類は学ぶ必要があるという気持ちの表れであり、評価できる」と話しています。

核兵器の禁止に関する条約は、前文で、「核兵器は壊滅的な人道上の結末を招くとして完全に除去されることが必要で、それが再び使用されないことを保証する唯一の方法である」としたうえで、核兵器の使用は国際人道法に違反し、人道の原則と公共の良心に反するとして、核兵器は非人道的で違法なものだと明示しています。


そして、第1条で、加盟国に核兵器の開発や保有、実験、使用のみならず、核兵器を使用すると威嚇する行為も禁止するとしています。「威嚇」をめぐっては、核抑止力も禁止することから、核兵器保有国だけでなく、核の傘に守られた安全保障政策をとる国々にも影響を及ぼすため、多くの議論を呼びましたが、最終的に盛り込まれることになりました。


また、第4条の「核兵器の全面的除去に向けた措置」では、核保有国の参加も促すため、核兵器を放棄してから条約に参加する方法や、核兵器保有している段階で条約に加入し、その後、期限を設けて核兵器を廃棄する方法も記されています。


さらに、条約の発効から1年以内とそのあと2年ごとに開かれる締約国会議や、5年ごとに開かれる再検討会議には、条約に参加していない国もオブザーバーとして参加できると定めています。


また、条約は核兵器を全面的かつ明確に禁止する一方で、18条の「その他の協定との関係」の中で、「既存の国際条約との関係で加盟国が負う義務に影響を及ぼさない」として、従来のNPT=核拡散防止条約が加盟国に課す義務と相反することなく、補完する役割を果たすとしています。これについては、NATO北大西洋条約機構の加盟国の中で唯一交渉に参加したオランダがあくまでもNPTを優先すべきだと主張しましたが、多くの国が反発し、修正は認められませんでした。


条約は広島や長崎の被爆者にも言及していて、前文に「被爆者にもたらされた受け入れがたい苦しみと被害に留意する」、「核兵器の廃絶に向けた被爆者の努力を認識する」と明記されたほか、第6条の「被害者支援と環境回復」の中で、加盟国に対し核兵器の使用や実験によって影響を受けた個人に、医療やリハビリ、心理面の支援を提供するとして、被爆者への支援を求めています。

核兵器禁止条約の制定に向けた動きが始まった背景には、核保有国による核軍縮が一向に進まないことに対する、核兵器を持たない国の強いいらだちがありました。


これまで、核軍縮は、NPT=核拡散防止条約の下で、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国を核保有国と認め、核兵器の削減を求める一方、そのほかの国々には核兵器保有や拡散を禁止してきました。しかし、1970年にNPTが発効してから40年以上がたっても、世界の核兵器のほとんどを保有するアメリカやロシアによる核軍縮は遅々として進まず、条約の締約国となっていないインドとパキスタンが相次いで核実験を行ったほか、一方的に脱退を宣言した北朝鮮も核実験を繰り返すなど、核兵器をめぐる状況は以前より深刻になっています。


また、宇宙空間や大気圏内、地中や地下を含むあらゆる核実験を禁止するCTBT=包括的核実験禁止条約も、アメリカやインド、パキスタンなど、条約発効の要件とされている国々で批准の見通しが立たず、1996年の採択から20年以上がたっても発効していません。


このため、従来の枠組みでの核軍縮には限界があるとして、オーストリアやメキシコなどが4年前からNPTとは別の国際会議を開き、核兵器の非人道性を根拠に法的に禁止すべきだという議論をリードしてきました。


おととし春のNPT再検討会議では、核兵器の法的な禁止を求める国々と、段階的な核軍縮を主張する核保有国が鋭く対立し、世界の核軍縮の方向性を決める合意文書を採択できないまま、会議は閉幕しました。


その後、オーストリアやメキシコなど50以上の国が共同で、核兵器禁止条約の交渉の開始を求める決議案を国連総会に提出し、去年12月、113か国の賛成多数で決議は採択されました。決議にはアメリカやロシアなどの核兵器保有国に加え、日本も「核軍縮は核保有国とともに段階的に進めるべきだ」として反対に回りました。


日本は唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶を掲げながら、アメリカの核の傘に守られる安全保障上の政策から、核兵器を直ちに禁止することには慎重な立場を取ってきましたが、このとき「棄権」ではなくアメリカなどとともに「反対」に回ったことは、驚きをもって受け止められ、内外の批判を受けました。


条約の制定に向けた議論を主導してきたメキシコの代表はNHKの取材に対し、「日本は原爆の惨禍に苦しんだ唯一の国であり、だからこそ日本と一緒に核兵器の禁止に取り組みたい」と述べ、日本が唯一の戦争被爆国としての役割を果たすことに期待を示していました。


このあと、ことし3月に始まった禁止条約の制定に向けた交渉会議は、核兵器の非保有国が中心となって進められ、すべての核保有国に加え、アメリカの核抑止力に依存する日本やNATO北大西洋条約機構の大半の加盟国は参加してきませんでした。


条約は7日、会議に出席している国の圧倒的多数の賛成で採択され、9月から署名が始まり、50か国が批准の手続きを終えたのち、90日後に発効します。条約に賛同する国々は、核兵器国際法に違反するという国際世論の流れをつくり、いわば「核兵器に汚名を着せる」ことで(stigmatise)核兵器保有国に対し、「持ちにくい」「使いにくい」環境を作っていきたい考えです。


核兵器禁止条約の採択を受け、日本の別所国連大使は国連本部で記者団の取材に対し、「条約の具体的な内容にコメントしないが、署名することはない」と述べ、日本として条約に署名しない考えを明らかにしました。


そのうえで、「核のない世界を作るには、核兵器国と非核兵器国が協力して話し合っていく必要がある」と述べ、核軍縮には核保有国と非保有国の協力が不可欠だという日本の立場を改めて強調しました。


そして、「NPT=核拡散防止条約やCTBT=包括的核実験禁止条約の早期発効、それに、核兵器に使われる核物質の生産を禁止する条約交渉の早期開始といった地道な努力を続けていく」と述べ、従来の核軍縮の枠組みのもとで努力していく姿勢を示しました。

核兵器禁止条約の採択を受け、記者会見した国際NGO、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長は、日本の別所国連大使が条約に署名しないと述べたことについて、「日本は絶対に署名しないと言ったわけではないと思う。今は署名できる立場にないかもしれないが、立場が変わることもありえる。日本は核兵器の被害を経験した国で、核兵器が人間にもたらす苦しみを知っている。市民社会は日本が条約に署名するよう働きかけていく」と述べました。


そのうえで、「時間はかかるかもしれないが、交渉に参加しなかった国々も最後には正しい判断をすると信じている」と述べ、核兵器保有国や日本など「核の傘」のもとにある国々も条約に参加するよう、働きかけていく考えを示しました。


核兵器禁止条約が採択されたことを受けて、アメリカのウィリアム・ペリー元国防長官は7日、声明を発表しました。


ペリー氏はかつてのクリントン政権で国防長官を務めたあと、核軍縮の必要性を訴え続け、キッシンジャー国務長官らとともに、「核兵器なき世界」を目指す、オバマ前大統領の理念に影響を与えたとされています。


声明で、ペリー氏は「新たな条約は核戦争の合法性を認めないための重要な一歩だ。核による大惨事は今日、われわれが直面する最も大きな脅威の1つであり、これらの恐ろしい兵器のない世界に思いをめぐらし、夢を描かなければならない」として、安全保障上の脅威が高まる今こそ、禁止条約の意義があるとしています。


そのうえで、「条約が核兵器廃絶に向け、大きな変化をもたらすことを望んでいる。この世界的な脅威には、世界が一体となった行動が必要だ」として、条約の制定によって核兵器廃絶への道筋がつけられることに期待を示しました。


核兵器禁止条約の採択を受けて、国連のグテーレス事務総長は「この20年の間、議論されてきた核軍縮に、初めて法的な拘束力を持たせる多国間の枠組みが作られたことを歓迎する」とする声明を発表しました。


そのうえで、「核兵器のない世界という共通の目標に向けた重要な一歩だ」と評価し、「長年停滞してきた核軍縮の実現に向け、包括的な対話と新たな国際協力が進むことを望む」として、核軍縮に向けた取り組みが進むことに期待を示しました。


ただ、今回の条約には核兵器保有する安全保障理事会の5つの常任理事国が反対していることから、国連としてはNPT=核拡散防止条約など、既存の核軍縮の枠組みを尊重しながら、新しい禁止条約により多くの国の参加を呼びかけ、双方が両立していくことを目指しています。


一方、交渉の議長を務めたコスタリカのホワイト軍縮大使は記者会見を開き、アメリカなどの核保有国が「世界の安全保障環境の現実を軽視した条約だ」と批判していることについて、「今の厳しい国際情勢を前に何もしないでいることもできるが、行動を起こさない責任も問われることになるだろう」と述べ、厳しい現実を前にしても核軍縮の一歩を踏み出したとして、条約の採択の意義を強調しました。