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日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン容疑者(64)は、10年前のリーマンショックで18億円余りの含み損を抱えた私的な為替取引の権利を日産に付け替えたなどとして特別背任の疑いで東京地検特捜部に再逮捕されました。

関係者によりますと、ゴーン前会長は日本円で受け取っていた日産の報酬を固定のレートでドルに換えるためスワップ取引と呼ばれる為替取引を新生銀行と契約していましたが、リーマンショックによる円の急騰で含み損が急速に拡大し、銀行側から巨額の追加の担保を求められたということです。

このためゴーン前会長は、取引の権利を一時的に日産に付け替えましたが、その間にも数千万円の損失が生じ、日産の名義で銀行側に支払われていたことがわかりました。

権利の付け替えや損失の支払いは、ほかの取締役に気付かれないように行われていたということで、特捜部が詳しい経緯を調べています。

一方、弁護士によりますと、ゴーン前会長は「日産の信用力を一時的に担保として借りたが、その間に発生した損失は自分が負担して日産の名義で支払った。日産に損害は与えておらず、特別背任には当たらない」などと主張し、容疑を否認しているということです。

東京地検特捜部が日産のカルロス・ゴーン会長を逮捕した事件については、(1)突然の逮捕、(2)逮捕容疑は、実際に支払われた役員報酬ではなく、「退任後の支払の約束」に過ぎなかったこと、(3)再逮捕事実が、当初の逮捕事実と同じ虚偽記載の「直近3年分」だったこと、(4)再逮捕事実による勾留延長請求を、東京地裁が却下したこと、(5)延長請求却下の翌日に、特捜部がゴーン氏を特別背任で再逮捕したこと、という「衝撃」が繰り返されてきた。

私は、その都度、明らかになった衝撃の事実を解説する記事を書いてきた。

その私にとって、特別背任による再逮捕の翌日の朝日新聞朝刊2面に掲載された【(時時刻刻)特捜、特別背任に急転換 「虚偽記載は形式犯」批判に反発 ゴーン前会長再逮捕】という記事の内容は、この事件の展開や内容に関して、これまで繰り返されてきた「衝撃」に匹敵するほどの「驚き」だった。

朝日の記事は、20日の勾留延長却下決定までは、特別背任による再逮捕をする予定ではなかったが、却下決定という「裁判所の仕打ち」を、裁判所が「報酬の虚偽記載は形式犯」という見方を示したと受け止めて、急遽、再逮捕することにした、としている。それは、私の推測の根幹部分を「検察幹部の発言」によって裏付けるものだった。

確かに、その時点で計算上損失となっている取引を日産に付け替えたのだとすれば、その時点だけを見れば、「損失」と言えなくもない。しかし、少なくとも、その取引の決済期限が来て、損益が確定するまでは、損失は「評価損」にとどまり、現実には発生しない。不正融資の背任事件の場合、融資した段階で「財産上の損失」があったとされるが、それは、その時点で資金の移動があるからであり「評価損」の問題とは異なる。ゴーン氏側が、「計算上損失となった取引を、一時的に、日産名義で預かってもらっていただけで、決済期限までに円高が反転して損失は解消されなければ、自己名義に移すつもりだった」と弁解した場合、実際に、損失を発生させることなくゴーン氏側に契約上の権利が戻っている以上、「損害を発生させる認識」を立証することも困難だ。

検察は、サウジアラビア人の聴取を行える目途が経たないことから、特別背任の立件は困難と判断していたと考えられる。サウジアラビア人の証言に代えて、検察との司法取引に応じている秘書室長が、「支出の目的は、信用保証をしてくれたことの見返りであり、正当な支出ではなかった」と供述していることで、ゴーン氏の弁解を排斥できると判断して、特別背任での再逮捕に踏み切ったのかもしれない。

しかし、そこには、「司法取引供述の虚偽供述の疑い」という重大な問題がある。

この秘書室長は、ゴーン氏の「退任後の報酬の支払」に関する覚書の作成を行っており、今回の事件では、それが有価証券報告書の虚偽記載という犯罪に該当することを前提に、検察との司法取引に応じ、自らの刑事責任を減免してもらう見返りに検察捜査に全面的に供述している人間だ。そのような供述には、「共犯者の引き込み」の虚偽供述の疑いがある。そのため、信用性を慎重に判断し、十分な裏付けが得られた場合でなければ、証拠として使えないということは、法務省が、刑訴法改正の国会審議の場でも繰り返し強調してきたことだ。

「覚書」という客観証拠もあり、外形的事実にはほとんど争いがない「退任後の報酬の支払」に関する供述の方は、有価証券報告書への記載義務があるか否かとか、「重要な事項」に当たるのか否かなど法律上の問題があるだけで、供述の信用性には問題がない。しかし、秘書室長の「サウジアラビア人の会社への支出」の目的について供述は、それとは大きく異なる。ゴーン氏の説明と完全に相反しているので、供述の信用性が重大な問題となる。

その点に関して致命的なのは、この支払については、日産側は社内調査で全く把握しておらず、「退任後の報酬の支払」の覚書について供述した秘書室長が、この支出の問題については、社内調査に対して何一つ話していないことだ(上記朝日記事でも、「再逮捕は検察独自の捜査によるもので、社内調査が捜査に貢献するという思惑通りにはなっていない」としている。)。

秘書室長は、検察と司法取引する前提で、社内調査にも全面的に協力したはずであり、もし、このサウジアラビア人に対する支出が特別背任に当たる違法行為だと考えていたのであれば、なぜ社内調査に対してそれを言わなかったのか。「その点は隠したかった」というのも考えにくい。この支出が特別背任に当たり、秘書室長がその共犯の刑事責任を負う可能性があるとしても、既に7年の公訴時効が完成しており、刑事責任を問われる余地はないからである(ゴーン氏については海外渡航期間の関係で時効が停止していて、未完成だとしても、その時効停止の効果は、共犯者には及ばない)。

結局、秘書室長の供述の信用性には重大な問題があり、ゴーン氏の説明・弁解を覆して「サウジアラビア人への支出」が不当な目的であったと立証するのは極めて困難だと言わざるを得ない。

https://d1021.hatenadiary.jp/entry/2018/12/23/200430(ゴーン前会長の10日間の勾留認める 東京地裁

https://d1021.hatenadiary.jp/entry/2018/11/24/200430(小さい頃、「ヤメ検」という俗語を知らず「ヤミ検」と勘違いし、闇落ちした元検事みたいな邪悪な存在をイメージしたことがある。)