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NPTをめぐっては来年、世界の核軍縮の大きな方向性を決める5年に1度の「再検討会議」が予定されていて、その論点を整理するための準備会合が2週間にわたってニューヨークの国連本部で開かれてきました。

会合では、核兵器を持たない多くの国々が、核兵器の非人道性に言及した過去の再検討会議での合意を完全に順守すること、それに核兵器を法的に禁止する核兵器禁止条約を多くの国が支持していることなどを合意文書に盛り込むよう主張してきました。

これに対し、アメリカなど核兵器を持つ国々は「世界の厳しい安全保障情勢を無視したものだ」などと反対して、その溝は最終日の10日になっても埋まらず、会合は合意文書を採択できないまま閉会しました。

これを受けて、会合の議長は「再検討会議の過去の合意内容を確認し実行することを各国に求める」などという文書を議長として出しましたが、これについてもアメリカは認めないというコメントを出し、核軍縮の進め方をめぐる対立が浮き彫りになりました。

会合の閉会後、サイード議長は記者会見を開き、「どの国の意見を盛り込めば全体の合意に近くなるか。そのことが国際会議では常に問題となるが、状況は極めて厳しかった」と述べ、核兵器を持つ国々と核兵器を持たない国々の間で合意点を見いだすことは難しかったという認識を示しました。

そのうえでサイード議長は、今回の会合で採択できなかった合意文書の案を来年のNPT再検討会議に議論のたたき台として提出したいという考えを明らかにしました。ただ、これにはアメリカから反対が出ていて、文書の扱いは再検討会議の議長の判断に委ねられることになります。

一方、サイード議長は広島・長崎の被爆者が世界の核軍縮で果たしている役割について「核兵器がもたらす壊滅的な結末について世代を超えて語り継ぐために極めて重要だと認識した」と述べました。そのうえで、「被爆者のことばはとても力強い。その力強いことばを今後も発信してくれるようわれわれは被爆者を支え続けなければならない」と述べ、被爆者による国際社会への発信に期待感を示しました。

会合を傍聴した長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎副センター長は今回の会合の結果について「NPTの重要性について広い合意があることが確認できた点はよかった。ただ、ここ数年、核軍縮は危機的な状況にある。今回の議論では核軍縮に対する各国の基本的な考え方の違いが出たと思う」と述べました。

そのうえで、来年開かれるNPT再検討会議について、「議長が出した文書を核保有国と日本を含めた核の傘のもとにある国が受け止めて、核軍縮の努力を進めていくかが鍵になる。国際社会があらゆる場で核軍縮の議論を深め、真剣に取り組んでもらいたい。次回の再検討会議が失敗すればどの国にとっても利益にならないという思いは各国にあると思うので、何らかの合意を得られるのではないかと期待したい」と述べました。

被爆地広島・長崎をはじめ核兵器の廃絶を目指す世界の7700を超える自治体で作る「平和首長会議」の代表が準備会合のサイード議長と面会し、要請文を手渡しました。

要請文は「NPTの共通基盤を損ねるような分裂は認められない」と今回の結果に対する懸念を示したうえで、「来年の再検討会議の成否はお互いの違いを縮める各国の外交活動にかかっている」として、各国にさらなる努力を求めています。

そのうえで要請文は「人間として人間に訴える。人間性を思い起こせ。それ以外は忘れろ」という冷戦下で世界の科学者が核兵器の廃絶を訴えた宣言からのことばを引用し「これこそ被爆者の訴えだ。核兵器のない世界を実現したいという被爆者の願いをNPTに加盟しているすべての国に伝えたい」としています。

これに対して、サイード議長は「とても力強いメッセージだ」と答えていました。

核兵器禁止条約を推進してきたオーストリアのハイノッチ大使は「合意文書は出せなかったが、核兵器をめぐる国際情勢が明るくない中で、立場の違う国々が集まって議論したことが重要だ。会合の中で核兵器禁止条約に反対していたのは一部の国であり、多くの国々が条約を高く評価していたのはよかったと思う」と述べました。

そのうえでハイノッチ大使は、「NPTは核軍縮の基盤で、すべての国が核軍縮の義務やこれまでの合意を尊重すべきだ。来年の再検討会議では具体的に何が達成できていて、何が達成できていないか、確認することが重要になる」と述べました。

現在、地球上にはおよそ1万4500発の核弾頭が存在すると推定されています。

戦後まもなくはアメリカだけが核兵器保有していましたが、1949年に旧ソビエトが核実験に成功したあと1950年代から60年代にかけて、イギリス、フランス、中国も保有するに至り、拡散が進みました。

この間、1962年にはキューバへのミサイル基地建設をめぐってアメリカと旧ソビエトが激しく対立する「キューバ危機」が起き、核戦争が起きるのではないかと緊張が高まりました。

こうした中、核兵器の拡散を防ごうとNPT=核拡散防止条約が1970年に発効したのです。NPTは当時、核兵器保有していた5か国には保有を認める代わりに核軍縮に取り組む義務を定め、ほかの国には保有を禁じています。

しかし、その後も核軍縮は進みませんでした。アメリカと旧ソビエトが対立し覇権を争った冷戦のもと、敵より強力な核攻撃力を持つことで核攻撃を思いとどまらせる「核抑止論」によって軍拡競争がエスカレートしました。

1980年代後半のピーク時、核弾頭の数は世界中で7万発近くに上りました。さらに、1970年代以降、インドやパキスタン、それに北朝鮮が核実験を行って核兵器を持つに至ったほか、イスラエル核兵器保有しているとみられ、核兵器を持つとされる国は9か国となり、拡散する結果となっています。

一方で、東西の雪どけとともにアメリカと旧ソビエトの間でINF=中距離核ミサイルの全廃条約や、戦略核弾頭の削減を定めたSTART=戦略兵器削減条約が結ばれ、その後の冷戦の終結もあり、核兵器の数は大幅に減りました。

しかし、最近では、現在ある核弾頭のうち90%以上を保有するアメリカとロシアの対立によって核軍縮のペースが鈍っていて、アメリカのトランプ政権が誕生して以降、先行きはさらに不透明となっています。

トランプ政権は去年2月に発表した中長期的な核戦略の中で、局地的な攻撃に使える「低出力核」と呼ばれる威力をおさえた核兵器の増強を打ち出しました。

これについて、専門家からは「核兵器を使うことへのハードルを下げ、核の拡散も助長することになる」という懸念が出ています。また、トランプ政権はINF=中距離核ミサイルの全廃条約もロシアの条約違反を理由に破棄すると通告し、ことし8月に失効する見通しです。

さらに、イラン核合意からの離脱などもあり、アメリカの科学雑誌が発表する地球最後の日までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」の時刻は、冷戦期の1953年と並んで、過去最短の「残り2分」になっています。