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アルゼンチンの外務省や国際機関で核問題に取り組んできたラファエル・グロッシ氏は、ことし亡くなった天野事務局長の後任として、先月、南米出身者としては初めてIAEAの事務局長に選出され、来月3日に正式に就任します。

グロッシ氏は29日、NHKのインタビューに応じ北朝鮮の核問題について、「IAEAの査察官が北朝鮮から出されて10年以上がたち、情報が得られず、大きな空白が生じている」と述べ、核開発の実態を把握できずにいる現状に危機感を示しました。

そのうえで、アメリカと北朝鮮の政治合意が成立したら、即座に、北朝鮮IAEAの査察活動が展開できるようにする」と述べ非核化をめぐる米朝交渉の行方を注視し、検証活動を再開させたいと強調しました。

また、核開発の動きを強めるイランについて、建設的な関係を築きたいとする一方で、「公平であると同時に、断固とした態度で臨む。IAEAは極めて真剣に取り組む必要がある」と述べ、厳しい姿勢で対応する考えを明らかにしました。

さらに、福島第一原子力発電所にたまり続けている水の処理をめぐる日本側の対応を韓国が批判していることに関連してグロッシ氏は「国際社会の懸念に対し、説明責任を果たさなければならないが、日本政府は責任をもって取り組んでいる」と述べて日本側の対応を評価しました。

グロッシ氏はイランなどに対する立場がアメリカに近いとみられていて、核開発の動きを強めるイランや北朝鮮に対してどこまで厳しい姿勢を示していくのか、注目されています。

ラファエル・グロッシ氏は58歳。アルゼンチン生まれで、南米出身者としては初めてのIAEA事務局長となります。

1985年にアルゼンチン外務省に入省したあと、OPCW=化学兵器禁止機関で勤務し、2010年からはIAEAに移って当時の天野事務局長を支えました。さらに、2013年からはウィーンのアルゼンチン代表部の大使を務めてIAEAを担当するなど、核軍縮のエキスパートとして知られています。

また、グロッシ氏は、来年にニューヨークで開かれるNPT=核拡散防止条約の議長役にも抜てきされていましたが、IAEAの事務局長に選出されて兼務が難しいことから、NPTの議長役は辞退することにしています。

グロッシ氏は、ことし7月、天野事務局長が亡くなったことを受けて、後任を決める選挙が行われることになった際、真っ先に立候補を表明。事務局長の選出は4人の候補者で争われましたが、先月29日、4回目となる投票で、グロッシ氏が35の理事国の中で、3分の2以上の支持を獲得し、次の事務局長に選ばれました。

グロッシ氏は、来月2日にウィーンで開かれるIAEAの特別総会で正式に次期事務局長に承認され、3日から第6代の事務局長に就任することになっています。

グロッシ氏は日本について「私がまだごく若い外交官だった時代に、広島と長崎を訪問する機会があった。深い衝撃を受け、私の精神と心からそのときの記憶が消えることは決してなかった」と述べ、広島と長崎への訪問が、核軍縮の分野に取り組む原点になったと日本への思いを述べました。

そして、みずからと同じアルゼンチン出身ローマカトリック教会のフランシスコ教皇が広島や長崎を訪問したことにも言及し、「世界の多くの人々にとって精神的なよりどころであるフランシスコ教皇が『忘れてはいけないことだ』とおっしゃたのは自然なことだと言える。核に対しては、思想や政治的なアプローチの違いはあっても、重要なのは、人類がどのような被害を受けてしまうのか、それを中心に考えなければいけない。広島と長崎はまさにそれを例示している」と述べました。

そのうえで、「日本はIAEAにとって重要な加盟国だ。財政面や技術面でも貢献してくれるし、さらに、私の前任の天野事務局長は歴史的な遺産を残してくれた。日本と対話することは特別な意味がある」と述べ、来年の早い時期に来日し、日本政府と意見交換したいと意欲を示しました。

また、グロッシ氏は、「より多くの核活動や核物質、そして新しい技術やサイバーの脅威といった数年前には予見できなかった世界の中で、われわれは核の不拡散に取り組まなければならない」と述べ、核をめぐる世界の現状に危機感を示しました。

そして来年、5年に1度、世界の核軍縮の大きな方向性を決めるNPT=核拡散防止条約の再検討会議が開かれることについて、グロッシ氏は「NPTは国際秩序のまさに柱であり、これによって世界は過去50年間秩序が維持されてきた。私もIAEAの立場から関わっていくつもりだ。再検討会議は必ず成功に導かねばならない」と強調しました。

IAEAは、原子力の軍事目的への転用を防ぎ、平和利用を進めるために1957年に設立された組織です。本部はオーストリアの首都ウィーンにあり、専門家の職員が核関連施設の査察などを行うことから、「核の番人」とも呼ばれています。

核兵器やその技術が拡散するのを防ぐうえで欠かせない組織として、日本をはじめ世界各国が支援していて、2019年時点で171か国が加盟しています。

2005年には、北朝鮮やイランなどの核開発によって、核の不拡散体制が揺らぐ中、IAEAと当時のエルバラダイ事務局長がノーベル平和賞を受賞し、その役割が一層期待されました。

2009年からは、日本人として初めて天野之弥氏が事務局長に就任し、イランや北朝鮮の核開発問題のほか、2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、世界の原子力発電所の安全向上に取り組みました。

また天野氏は、「平和と開発のための原子力」をスローガンに掲げ、IAEAは、ガンや伝染病の放射線治療など、原子力の技術を発展途上国に普及させることにも尽力を尽くしてきました。