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東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐり、福島県で暮らす住民など3600人余りが訴えた集団訴訟で、仙台高等裁判所は「大規模な津波が到来する可能性を事故の前に認識できたのに、国が東京電力に対策を求める権限を行使しなかったのは違法だ」などとして、国と東京電力に総額10億円余りの賠償を命じました。
全国の集団訴訟で、国の責任を認める2審判決は初めてです。

この裁判では、原発事故のあとも福島県内で暮らし続ける住民や避難した人など3600人余りが、生活の基盤が損なわれ精神的な苦痛を受けたとして国と東京電力に賠償を求めています。

1審の福島地方裁判所は3年前、国と東京電力の責任を認め、総額4億9000万円余りの賠償を命じていました。

30日の2審の判決で、仙台高等裁判所の上田哲裁判長は「平成14年に政府の地震調査研究推進本部が発表した地震の『長期評価』を踏まえた試算をしていれば、大規模な津波が到来する可能性を認識することができた。国が東京電力に対策を求める権限を行使しなかったのは違法だ」と指摘し、東京電力とともに国の責任を認めました。

また「国と東京電力は『長期評価』に基づく津波の試算を行って対策を講じた場合の、主に東京電力の経済的な負担などの影響の大きさを恐れるあまり、試算自体を避けるなどしたと認めざるを得ない」と、指摘しました。

そのうえで1審では、東京電力の半分にとどまるとした国の賠償責任の範囲について「国がみずからの責任で原発の設置を許可したもので、範囲を限定するのは相当ではない」などと指摘し、東京電力と同等の責任があるとして、国と東京電力に総額でおよそ10億1000万円の賠償を命じました。

全国の集団訴訟で、国の責任を認める2審判決は初めてで、各地で行われている裁判に影響を与える可能性があります。

判決のあと、原告団弁護団仙台市内で記者会見を行いました。

その中では、まず「国と東京電力の責任を明確に認めたことは、事故の再発防止や被害者の全面的な救済だけでなく、被災地の復興にとっても大きな意義がある。賠償の対象地域の拡大や賠償水準の上積みを認めた点は、原告のみにとどまらず広く被害者の救済をはかるという意味においても前進と評価できる」という声明を発表しました。

弁護団の事務局長、馬奈木厳太郎弁護士は「裁判が長期化し、判決を待たずしておよそ100人が亡くなった。この喜びを分かち合うことができないことは残念だ。東京電力と国は責任を認めて1日も早く救済すべきで、上告しないよう求めたい」と述べました。

会見後、原告団長を務める福島県相馬市の中島孝さんは「判決を聞いたとき、司法は生きていたと感じた。1審よりも踏み込んで国の政策が間違っていたことを示してくれてよかった」と話していました。

原告の1人で福島市で果樹農家を営む阿部哲也さん(57)は、自宅のテレビで、国の責任を認めた2審判決の速報を見ると、ガッツポーズをして喜びを表していました。

阿部さんは、「原告団みんなの頑張りがこの判決に結びついたと思います。国の責任を認めることが私たちが一番望んでいたことなので、本当にほっとして涙が出そうです」と話していました。

そのうえで、「これまでたくさんの苦労や喪失感など精神的な被害を受けてきましたが、今回の判決で心が救われほっとしています。お金の問題ではない部分はありますが、とりあえず賠償という形で心にけじめをつけることはやむをえないと思いますので、原告1人1人に寄り添った判決になったと思います」と話していました。

仙台高等裁判所が国と東京電力に賠償を命じたことについて、東京電力は、「当社、原子力発電所の事故により、福島県民の皆様をはじめ、広く社会の皆様に大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて心からお詫び申し上げます。本日、仙台高裁において、言い渡された判決について、今後、内容を精査し、対応を検討して参ります」とのコメントを出しました。

仙台高等裁判所が国と東京電力に賠償を命じたことについて、原発事故が起きた当時の規制機関、「原子力安全・保安院」を引き継ぐ形で発足した原子力規制委員会の更田豊志委員長は、30日開かれた会見の中で、「判決の詳細がまだわからず、コメントは控えるが、原子力規制委員会は福島の原発事故に対する反省や怒りにもとづいて設置された組織だ。二度と原発事故を起こさないよう原発に対する厳正な規制を進めていきたいと改めて考えている」と述べました。

加藤官房長官は、午後の記者会見で、「今後の対応については、関係省庁で判決内容を精査したうえで適切に対応していくと思う。いずれにしても、原子力発電所は安全が最優先であり、独立した原子力規制委員会福島第一原発の事故を踏まえて策定された新規制基準への適合性審査を厳格に進めており、引き続きしっかり対応されると考えている」と述べました。

30日の2審の判決について、原発事故をめぐる国会の事故調査委員会の委員を務めた、中央大学法科大学院の野村修也教授は「国がいわば国策として進めてきた事業について、しっかりと命令をしなかったことや、東京電力に依存する形での監督しかできなかったことを大きな問題ととらえ、東電と同等の責任を共に負うべきだと判断したのは非常に画期的だ」と述べました。

そのうえで「今回の判決では、原発事故を避けることができたかどうかについて、国が証明できないかぎり責任を負いなさいという考え方が示された。このような判断のしかただと、事故を避けられたかどうかが不明確でも、国が責任を負う可能性が高くなってくる。ほかの裁判所の判断にどう影響するか注目したい」と話しました。

また、判決が国の規制当局としての在り方を厳しく非難したことについては「事故当時、東電の説明をうのみにしていたという点を厳しく指摘していて、判決の示したことを教訓として受け止め、規制当局としての在り方をいま一度確認してほしい」と指摘しました。

判決で仙台高等裁判所は、原発事故についての国の責任を厳しく指摘しました。

津波を予測できたか》
判決では、事故の9年前の平成14年に、政府の地震調査研究推進本部が発表した地震の「長期評価」について「国みずからが設置し、多数の専門学者が参加した機関による重要な見解であり『長期評価』を踏まえて、直ちに試算を開始するよう東京電力に指示するか、みずから試算をするなどしていれば、大規模な津波が到来する可能性を認識できた」と指摘しました。
そのうえで「長期評価」をめぐる事故前の、国の対応について「不誠実ともいえる東京電力の報告を唯々諾々と受け入れ、規制当局に期待される役割を果たさなかったといわざるえない」と厳しく指摘しました。


《事故は避けられたか》
また、事故を防ぐことができたかどうかについて「原告側が、一定の程度で事故を防ぎえる具体的な対策を主張した場合、国は、その対策を行えなかったことや、行っても事故を防げないことを主張し、証明する必要がある」としました。
そのうえで「今回、原告が主張した室内に水が入らないようにする『水密化』の対策について、事故を防げなかったという的確な主張や証明がされていない以上、事故を防げた可能性があったと推測される」と指摘しました。
そして「国が規制の権限を行使しなかったのは違法だ」としました。


《国の責任の範囲は》
さらに判決は「国と東京電力は『長期評価』に基づく津波の試算が行われれば、対策を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、そうなった場合の、主に東京電力の経済的な負担などの影響の大きさを恐れるあまり、試算自体を避け、あるいは試算結果が公になることを避けようとしていたと認めざるをえない」と、指摘しました。
1審では、東京電力の半分にとどまるとした国の賠償責任の範囲については「原子力発電所の設置・運営は国家のエネルギー政策に深く関わる問題であり、国がみずからの責任において原発の設置を許可したものであることを考慮すれば、責任の範囲を一部に限定することは相当ではない」として、東京電力と同等の責任があるとしました。

2審の判決は1審と比べて賠償の対象範囲を広げました。

具体的には、事故の後に避難指示の対象になった福島県浪江町富岡町などの原告について「ふるさとを喪失した損害がある」などとして賠償額を大幅に上積みしたり、新たに認めたりした人がいました。

また、国の指針や1審判決で賠償の対象にならなかった
福島県西部の会津地方や
宮城県南部の原告の一部への賠償も認めました。

その結果、賠償の総額は1審の4億9000万円余りから、2審は2倍以上となるおよそ10億1000万円に増えました。

判決では、これまでの裁判でも焦点となってきた専門家などでつくる国の地震調査研究推進本部が平成14年7月に公表した巨大地震の予測=長期評価について国と東京電力の対応に言及しました。

この時の長期評価は福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけてどこでも大きな津波を伴う地震が発生するリスクを指摘するもので、これを踏まえて国が、東京電力に対して、試算を開始するように指示するか、当時の規制当局の原子力安全・保安院が試算をするなどしていれば、10メートルを超える津波の可能性を認識できたとしています。

そのうえで、当時、専門家の間で見解が分かれていた長期評価の信頼性については、「国自らが地震に関する調査などのために設置し、多くの専門家が参加した機関が公表したもので、相当程度の客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かしがたい」としました。

また、当時の原子力安全・保安院東京電力など電力事業者が海外の事例などを踏まえて想定を超える津波や水漏れのリスクについて話し合っていた「溢水勉強会」と呼ばれる非公開の勉強会にも言及していて、平成18年には敷地を越える津波が到来すれば、重大事故を起こす危険性が認識されていたと指摘しています。

そして判決は、国と東京電力に対し「対応措置をとった場合の影響の大きさを恐れるあまり、試算を避け、あるいは試算結果が公になることを避けようとしていたものと認めざるを得ない」などとしています。

こうした判決に対して、原子力安全・保安院を引き継いで発足した原子力規制委員会の事務局の原子力規制庁は、「判決は承知しているが、個別の内容についてのコメントは控えたい。私たちとしては2度と原発事故を起こさないよう厳正な規制を行っていきたい」としています。

原子力規制委員会は事故で保安院が廃止された後、事故の教訓を踏まえ、原子力を推進する経済産業省から離れ、独立性を高めた、いわゆる「3条委員会」として発足した規制組織です。

【事案の概要の要旨】

1 本件は、平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震が引き起こした津波の影饗で、一審被告東電が設置し運営する福島第一原子力発電所福島第一原発)1~4号機から放射性物質が放出される事故(本件事故)が発生したことにより、本件事故当時の居住地(旧居住地)が放射性物質により汚染されるなどしたとして、福島県又は宮城県茨城県若しくは栃木県に居住していた一審原告ら(提訴時は3864人)が、一審被告東電及び一審被告国に対し、以下の請求をしているものである
(当審の口頭弁論終結までにされた訴えの変更を反映)。

(1)原状回復請求
 一審被告らに対し、人格権又は一審被告東電に対しては民法709条、一審被告国に対しては国賠法1条1項に基づき、旧居住地における空間放射線量率を本件事故前の値である0.04μSV/h以下にすること

(2)平穏生活権侵害に基づく損害賠償請求
 一審被告東電に対しては、主位的に民法709条等、予備的に原賠法3条1項に基づき、一審被告国に対しては国賠法1条1項等に基づき、各自、平穏生活権侵害による慰謝料及び1割相当の弁護士費用合計約590万円並びに民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払

(3)「ふるさと喪失」による損害賠償請求(提訴時40人の一審原告ら)
 上記(2)と同様の根拠法条に基づき、各自、「ふるさと喪失」による慰謝料として600万円、及び1割相当の弁護士費用合計660万円並びに民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払

2 当審の口頭弁論終結時までに、提訴時一審原告らのうち93人が死亡し、承継一審原告らがこれを各自の承継分に応じて承継し、提訴時一審原告らのうち230人及び承継一審原告らのうち16人が訴えを取り下げ一審被告らの同意を得たため、最終的に、当審の口頭弁論終結時において当事者として訴訟を追行していた者は、提訴時一審原告らが3541人(うち2人は一審被告東電との間の訴訟のみ係属。)、承継一審原告らが276人、合計3817人である(ただし、提訴時一審原告と承継一審原告を兼ねている者についてはダブルカウントされている。)。

【当裁判所の判断の要旨】

1 原状回復請求(上記(1))

 一審原告らの旧居住地の空間線量率を本件事故前の値である0.04μSv/h以下にせよという原状回復請求は、一審被告らに求める作為の内容が特定されていないから、不適法な訴えである。

2 平穏生活権侵害・「ふるさと喪失」に係る損害賠償請求(上記(2)・(3))

(1)一審被告東電の損害賠償責任

ア、ー般不法行為民法709条)に基づく請求
特則(原賠法3条1項)が適用されるため、認められない。

イ、特則(原賠法3条1項)に基づく請求
「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えた」(原賠法3条1項)と認められることから、その請求は一部認められる(後記3「損害」参照)。
なお、原賠法3条1項は無過失責任ではあるが、慰謝料の算定に際しての考慮要素として、また、一審被告国の規制権限不行使の違法性を判断する前提として、一審被告東電の義務違反を判断する。

(一審被告東電の予見可能性の対急)
 本件事故は、本件津波が、1~4号機の主要建屋敷地高さ(0.P.+10m)を超えて遡上し、1~4号機海側エリア及び主要建屋設置エリアがほぼ全域冠水するなどしたこどにより、1~4号機全てにおいて全電源喪失に陥ったというものであるところ、予見可能性は、結果回避措置を採ることを法的に求める前提となるものであるから、予見可能性の対象は、このような全電源喪失を招くような津波というべきであり、一審被告東電の義務違反を判断する際の予見可能性の対象は、0.P.+10mを超える津波の到来である。

(一審被告東電の予見可能性
 平成14年までに、津波津波地震に係る知見、溢水事故の危険性とその対策等に係る知見が積み重ねられていた中で、平成14年7月31日、地震調査研究推進本部地震本部地震調査委員会により、日本海溝沿いのうち三陸沖から房総沖にかけての領域を対象とした「長期評価」が公表され、その中で、福島県沖海溝沿い領域についても、今後30年に6%程度の確率で、Mt8.2前後の地震が起きる可能性があるなどとされた。地震本部は、一審被告国が平成7年の阪神・淡路大震災を機に、地震防災対策の強化を図ることを目的として制定された地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)に基づき設置され、海溝型地震の発生可能性について、海域ごとに長期的な確率評価を行っていた国の公的機関であるから、「長期評価」は、単なる一専門家の論文等とはその性格や意義において大きく異なるものであった。
 そして、一審被告東電は「長期評価」の見解を踏まえた津波地震のシミュレーションをすぐには実施しなかったが、平成20年4月、これを行ったところ、最大、敷地南側で0.P.+15mを超える試算結果(平成20年試算)に接したのであるから、仮に「長期評価」公表後速やかに平成20年試算と同様のシミュレーションを行っていたとすれば、遅くとも平成14年末頃までには、同試算で特定された津波と同等の津波が到来する可能性を認識することが可能であった。したがって、一審被告東電には、平成14年末頃までに、福島第一原発1~4号機敷地において、0.P.+10mを超える津波の到来について、予見可能性があったと認められる。

 (一審被告東電の結果回避可能性)
 当事者間の衡平の観点から、少なくとも、一審原告らが一定程度具体的に特定して結果回避措置について主張立証した場合には、一審被告東電において、その措置が実施できなかったこと又はその措置を講じていても本件事故が回避不可能であったこと等の結果回避可能住を否定すべき事実を主張立証すべきであり、これらの主張立証を尽くさない揚合には、結果回避可能性があったことが事実上推認される。一審被告東電は、仮に平成20年試算に基づいて津波対策を講じた場合、同試算において津波が遡上するとされた敷地南側及び北側に防潮堤を設置することによって敷地への浸水を防ぐのが合理的対策であったが、その対策では、敷地東側から到来した本件津波を防ぎ切れなかったと主張するが、一審被告東電が主張するような防潮堤を設置することでは結果回避措置として十分なものとはいえないため、同主張は失当であり、結果回避のために合理的な措置を講じても本件事故という結果を回避することが不可能であったことについて、具体的な主張立証をしていないから、一審被告東電に結果回避可能性があったことが推認される。

(一審被告東電の義務違反の程度)
 「長期評価」の見解等の重大事故の危険性を示唆する新たな知見に接した際の一審被告東電の行動は、当該知見を直ちに防災対策に生かそうと動いたり、当該知見に科学的・合理的根拠がどの程度存するのかを可及的速やかに確認したりせず、新たな防災対策を極力回避しあるいは先延ばしにしたいとの思惑のみが目立つものであったといわざるを得ず、一審被告東電の義務違反の程度は決して軽微といえない程度であったというべきであり、一審原告らに対する慰謝料の算定に当たって考慮すべき要索のーつとなる。

(2)一審被告国の損害賠償責任

 ア 国賠法1条1項に基づく請求

(一審被告国の予見可能性の対象)
 一審被告国の規制権限不行使の違法性を判断する際の予見可能性の対象も、0.P.+10mを超える津波の到来である。

(一審被告国の予見可能性
 前記(1)イのとおり、平成14年7月、地震本部により「長期評価」が公表されたが、地震本部文部科学省に設置された組織であるから、これは当然に一審被告国の知見とすべきものであるところ、ー審被告国は、一審被告東電と同じ知見を同一審被告と同時に認識していたのであるから、経済産業大臣において、一審被告東電に対し、直ちに「長期評価」の見解を踏まえた試算を開始するように指示し、あるいは規制当局として自ら「長期評価」の見解を踏まえた試算をするなどしていれば、遅くとも平成14年末頃までには、福島第一原発に0.P.+10mを超える津波が到来する可能性について認識し得た。
 「長期評価」の見解の信頼性を論難する一審被告国の主張は、いずれもそのまま採用することはできず、これらの主張を踏まえても、「長期評価」の見解は、一審被告国自らが地震に関する調査等のために設置し、多数の専門学者が参加した機関である地震本部が公表したものとして、個々の学者や民間団体の一見解とはその意義において格段に異なる重要な見解であり、相当程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かし難い。

(一審被告国の結果回避可能性)
 一審被告国の結果回避可能性に係る事実の主張立証責任も、一審被告東電と同様の理由等により、少なくとも、一審原告らが一定程度具体的に特定して結果回避措置について主張立証した揚合には、一審被告国について、その措置が実施できなかったこと又はその措置を講じていても本件事故が回避不可能であったこと等の結果回避可能性を否定すべき事実を主張立証すべきであり、これらの主張立証を尽くさない揚合には、結果回避可能性があったことが事実上推認されると解するのが相当である。
 一審被告国は、一審原告らが主張する防潮堤の設置による結果回避可能性について、平成20年試算に基づき敷地南側及び北側に防潮堤を設置する対策では、敷地東側から到来した本件津波を防ぎきれなかったと主張するが、同主張が失当であることは、一審被告東電の主張に関して前示したとおりである。そして、仮に本件において、福島第一原発において省令62号4条1項の技術基準に適合しない点が認められるとして、経済産業大臣から技術基準適合命令が発せられ、一審被告東電が安全裕度を踏まえて本件試算津波からー定の幅を持った範囲の津波を想定して防潮堤を築く結果回避措置を採ったとしても、本件事故という結果の回避が不可能であったことについての的確な主張立証はない。
 また、一審原告らが主張する重要機器室及びタービン建屋等の水密化による結果回避可能性については、本件事故当時までは、津波対策としては、ドライサイトコンセプトの考え方が主流であったが、水密化という技術自体は新しいものではなく、現に他の原子力発電所においては本件事故前に建屋の水密化工事が行われるなどしてしていたのであるから、経済産業大臣から技術基準適合命令が発せられた場合には、防潮堤の設置と共に、重要機器室及び夕ービン建屋等の水密化についても検討の対象となったであろうと推認することが相当であって、これらの対策では本件事故という結果の回避が不可能であったことについての的確な主張立証はされていない。
 以上より、一審原告らが主張する結果回避措置が実施できなかった又は実施していても本件事故が回避不可能であった旨の一審被告国の主張は採用できず、結果回避可能性及び因果関係があることが事実上推認される。
 
(「長期評価」の見解に対する一審被告国の対応)
 福島第一原発の原子炉施設が技術基準に適合し安全性を具備している状態を確保するために一審被告東電を規制する立場にある一審被告国には、一審被告東電が津波対策等の防災対策を適切に講じているか否かについて厳格に判断することが期待されていた。
 しかしながら、平成14年8月に一審被告東電から「長期評価」の見解の科学的根拠についてヒアリングをした保安院の対応は、国の一機関に多数の専門分野の学者が集まり議論して作成・公表した「長期評価」の見解について、その一構成員で反対趣旨の論文を発表していた一人の学者のみに問い合わせてその信頼性を極めて限定的に捉えるという、不誠実ともいえる一審被告東電の報告を唯々諾々と受け入れることとなったものであり、規制当局に期待される役割を果たさなかったものといわざるを得ない。
 また、「長期評価」公表後も、津波による浸水により福島第一原発が重大事故を起こし得ることについての知見が積み重ねられており、それについて認識し得たというべきであるから、経済産業大臣による技術基準適合命令の発令という規制権限行使に対する期待は一層高まっていた。

 (「津波評価技術」の考え方との関係)
 一審被告国は、原子力規制機関は、想定津波に対する波源設定の安全性の審査又は判断の基準として、事実上「津波評価技術」と同様の基準を採用していたのであるから、裁判所はこの事実上の審査基準の合理性とその具体的な適合性の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があったか否かによって審査すべきであると主張するが、本件ではそのような判断枠組みは採用できない。「津波評価技術」は、当時の原子力規制機関が「事実上」基準として用いていたにすぎないもので、これを作成した土木学会原子力土木委員会津波評価部会は、原子力事業者を適正に監督・規制するための見解を策定するには不向きな団体であって、原子炉設置許可処分の取消訴訟における原子力安全委員会等と同列に扱うことはできない。

 (総合的検討)
 以上のほか、平成18年5月の溢水勉強会における一審被告東電の報告により、敷地高さを超える津波が到来すれば福島第一原発が重大事故を起こす危険性が高いことは一審被告国がこれを現実に認識したと認められること、同年9月には、耐震設計審査指針が全面改訂されて既存の原子炉施設に対する耐震パックチェックが始まり、津波安全性評価もその対象とされるに至ったことなど、全ての事情を総合考慮すると、本件における経済産業大臣による技術基準適合命令に係る規制権限の不行使は、専門技術的裁量が認められることを考慮しても、遅くとも平成18年末までには、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くに至ったものと認めることが相当であり、一審原告らとの関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。
 原子力基本法等が想定する原子力発電所の安全性は、いわゆる相対的安全性(何らかの事故発生等の危険性の程度が、科学技術の利用により得られる利益の大きさとの対比において、社会通念上容認できる水準であると一般に考えられる場合に、これをもって安全と評価するという意味での安全性)を意味するとの一審被告国の主張は、当裁判所もこれを否定するものではなく、かかる観点を踏まえて検討した上で、たとえ今後30年に6%程度の確率でMt8.2前後の地震が起きる可能性にすぎないとしても(前記「長期評価」の見解)、そのような地震が引き起こし得る本件事故のような極めて甚大で取り返しのつかない重大な原子炉事故が発生する危険性の程度は、上記の「科学技術の利用により得られる利益の大きさとの対比において、社会通念上容認できる水準であると一般に考えられる」程度を超えていたと判断したものである。なお、(1)「長期評価」公表直後の、保安院津波地震のシミュレーション指示に対する一審被告東電の抵抗、(2)平成20年8ないし9月頃の、一審被告東電内部における平成20年試算結果への対応の検討においては、津波対策は不可避である旨の情報が共有されていたこと、(3)平成21年8月の、平成20年試算結果を保安院には積極的に説明しない旨の一審被告東電における内部指示、(4)同月頃の、一審被告東電からのヒアリングにおける保安院担当官の「福島の状況に基づきJNESをよくコントロールしたい」等の発言等は、本件当時の一審被告らにおいても、「長期評価」の見解等当時の知見によれば、重大な原子炉事故が発生する危険性の程度が、「科学技術の利用により得られる利益の大きさとの対比において、社会通念上容認できる水準であると一般に考えられる」程度を超えていたことを認識していたことの証左というべきであって、一審被告らのいずれもが、福島第一原発について「長期評価」の見解による想定津波の試算が行われれば、喫繁の対策措置を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、そうなった場合の影響(主として一審被告東電の経済的負担)の大きさを恐れる余り、そのような試算自体を避けあるいはそのような試算結果が公になることを避けようとしていたものと認めざるを椙ない。

イ 一審被告国の損害賠償責任とその範囲

(一審被告国の損害賠償責任の成否)
 以上によれば、本件における経済産業大臣技術基準適合命令に係る規制権限の不行使は、遅くとも平成18年末までには国賠法1条1項の適用上違法となったというべきであり、かつ、この時点においては経済産業大臣の過失も認められ、上記不行使と本件事故との因果関係も認められるから、一審被告国は、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を免れない。

(一審被告国の損害賠償責任の範囲)
 原子力発電所の設置・運営は、原子力の利用の一環として国家のエネルギー政策に深く関わる問題であり、我が国においては、一審被告国がその推進政策を採用し、原子力発電所に高い安全性を求めることを明示しつつ、自らの責任において、一審被告東電に福島第一原発の設置を許可し、その後も許可を維持してきたものである等の本件に現れた諸事情を総合考慮すれば、本件事故によって損害を被った者との対外的な関係において、一審被告国の立揚が二次的・補完的であることを根拠として、その責任の範囲を発生した損害の一部のみに限定することは、相当でない。一審被告東電及び一審被告国は一審原告らに係る損害全体についての損害賠償債務を負い、これらは不真正連帯債務の関係に立つ。

3.損害

(1)本判決の判断手法
 「ふるさと喪失」損害、これを除いた平穏生活権侵害に基づく損害も、いずれも訴訟物は異ならないから、本判決においては、旧居住地が帰還困難区域、旧居住制限区域又は旧避難指示解除準備区域である全ての一審原告らにおいて、「ふるさと喪失」損害及び平穏生活権侵害に基づく損害が認められるか、認められるとしてその額をいくらと評価するべきかを判断する。
 そして、一審原告らがいわゆる包括請求方式を採用していることを前提として、証拠上認められる全ての要素を考慮して精神的損害の賠償額を認定し、(1)それが「中間指針等による賠償額」を超えるか否かを判断し(現に受領したか否かを考慮しない。)、(2)既払額が「中間指針等による賠償額」を超える揚合には、ADRにおいて「中間指針等による賠償額」を超えて支払われた賠償金等による弁済の抗弁について判断し、(3)残った認定損害額を請求金額の範囲内において全部又は一部認容し、(4)認定損害額が「中間指針等による賠償額」及び上記(2)の「中間指針等による賠償額」を超える部分に係る既払額を超えない場合には、請求を全部棄却することとする。

(2)損害判断の在り方・考慮要素
 当裁判所は、各一審原告について、(1)帰還困難区域並びに大熊町及び双葉町の居住制限区域及び避難指示解除準備区域、(2)旧居住制限区域(大熊町を除く。)、(3)旧避難指示解除準備区域(大熊町双葉町を除く。)、(4)旧特定避難勧奨地点、(5)旧緊急時避難準備区域及び(6)旧ー時避難要請区域の六つ(なお、本件訴訟には、旧居住地が旧屋内退避区域(解除後に緊急時避難進備区域に設定された地域を除く。)である一審原告はいない。)、中間指針等に沿って分類可能な、(7)自主的避難等対象区域及び(8)県南地域及び宮城県丸森町の二つ、並びに(9)上記以外の地域の合計九つのグループに分類した上で、(1)本件事故により侵害された事柄(基本的な社会インフラ、生活の糧を取得する手段、家庭・地域コミュニティを育む物理的・社会的諸要素、周囲の環境、自然、帰るべき地・心の拠り所となる地・想い出の地等としての「ふるさと」等)、(2)侵害態様(本件における一審被告東電の義務違反の程度は決して軽微とはいえない程度であったこと)・程度(上記に挙げた事柄が、本件事故により、どの程度放射能汚染されたか(空間線量率等)又は侵害されたか)、(3)本件事故後の経緯・現状等を考慮要素とし、放射線に関する知見、本件事故と放射性物質の放出、低線量被曝に関する知見等に係る認定事実に加えて、一審原告らの旧居住地ないし居住地の状況等に係る認定事実等を基にして、各グループごとに本件事故と相当因果関係のある損害の有無及び額を判断する。

(3)各グループの認定損害額

 平穏生活権侵害に係る損害(旧居住地が帰還困難区域、大熊町双葉町、旧居住制限区域又は旧避難指示解除準備区域である者については、「ふるさと喪失」損害も含む。)として当裁判所が認定した一審原告一人当たりの損害額は、旧居住地のグループごとに、以下の表の「認定額」欄記載のとおりである。

(編注:以下の数字はそれぞれ、対象となる人数、1人当たりの損害認定額、自主賠償基準を超える額)

▽帰還困難区域、大熊町双葉町、54人、1600万円、150万円

▽旧居住制限区域、52人、1150万円、300万円

▽旧避難指示解除準備区域、103人、1100万円、250万円

▽旧緊急時避難準備区域、202人、280万円、65~100万円

▽特定避難勧奨地点(南相馬市)、9人、540万円、50万円

▽一時避難要請区域、39人、80万円、10万円

▽自主的避難等対象区域、2673人、0~51万円、0~43万円

▽県南地域・宮城県丸森町、270人、0~34万円、0~30万円

▽上記以外(会津地域、宮城県茨城県、栃木県)、229人、0~11万円、0~11万円

4 最終的な認容額(弁済の抗弁及び弁護士費用等)
 「中間指針等による賠償額」を超えて、ADR等増額賠償及びペット賠償を受けている者については、上記表の「自主賠償基準を超える額」欄記載の額からその超える部分を控除し、弁護士費用として、10%相当額の加算をし、加算後の認容額に1万円未満の端数が出る原告については、端数切り上げ分に相当する弁護士費用を増額した。
 本件事故後に出生した一審原告を除き(同一審原告らについては出生日から)、本件事故日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を付した。

5 相互の保証
 一審原告らの中には、大韓民国籍、中華人民共和国籍、フィリピン共和国籍及びウクライナ国籍の者がいるところ、いずれの国との間にも「相互の保証」(国賠法6条)を認め、これらの一審原告らとの間でも一審被告国に対する請求を認容した。

6 結論
 以上の結果、一審被告らに、連帯して、一審原告らのうち3550人に対する、合計約10億1000万円及び遅延損害金の支払を命じた(うち一審被告国のみが訴え取下げに同意した一審原告2人については一審被告東電に対してのみ支払を命じた。)。

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