エチオピア 政府軍が北部州都へ攻勢を激化 市民の被害拡大か #nhk_news https://t.co/9ChXSD46j6
— NHKニュース (@nhk_news) 2020年11月28日
エチオピアでは、北部の州政府を担う少数民族ティグレの軍事部門が、11月4日に政府軍の基地を攻撃したのをきっかけに、政府軍との間で戦闘が始まりました。
北部ではインターネットなどの通信が遮断され、詳しい状況は明らかになっていませんが、アビー首相は「作戦は最終段階に入った」とする声明を出しています。
また、ロイター通信によりますと、政府軍の高官は27日、政府軍が、すでに北部のいくつかの町を制圧して、州都メケレに向けて攻勢を強めていると明らかにしました。
国連のグテーレス事務総長は、双方に対立をやめて、平和的に解決するよう求めているほか、アフリカ諸国でつくる、AU=アフリカ連合が仲介のために特使を派遣し、27日、首都アディスアベバで、アビー首相と会談しましたが、アビー首相は、軍事作戦を続ける考えを伝えました。
現地からは、すでに4万人を超える人が隣国のスーダンに難民として逃れるなど、人道危機が深まっていて、今後、およそ50万人が暮らすメケレに戦闘が及ぶことで、市民の被害が一層拡大することが懸念されています。
ノーベル平和賞を受賞したアビー首相が、なぜ軍事行動という強硬な手段に出ているのか。
背景には、国内で民主化を進める中で、民族対立が表面化していることがあります。
エチオピアの人口は1億人余りと、アフリカでは、ナイジェリアに次いで2番目に多くなっています。
およそ80の民族で構成される多民族国家で、アメリカの情報機関によりますと、最大勢力のオロモが全体の35%を占め、次いでアムハラが28%、今回、政府側との間で衝突に発展している少数民族ティグレは7%となっています。
かつては、少数派ティグレが政権を主導してきましたが、2年前に、オロモ出身のアビー首相が誕生すると、非常事態宣言を解除して、政治犯の釈放を進めたほか、報道への検閲を廃止し、公正な選挙の実現を目指すと表明するなど、国内の民主化を進めました。
ノーベル平和賞の選考委員会は、隣国エリトリアとの和平に加え、国内の民主化に向けた取り組みを評価して、去年、アビー首相に平和賞を授与しました。
ところが、民主化が進むにつれ、オロモからは、最大民族に見合った権利の拡大を求める声が出たほか、ティグレやそれ以外の民族からは、アビー首相がオロモばかりを優遇しているとして、反発する動きが広がり、各地で、民族間の対立が表面化する事態となりました。
このうち、ティグレの勢力が主導する北部の州は、ことし予定されていた全国規模の総選挙が、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に延期されると、これに反発して州内で選挙を強行し、中央政府とのあつれきが深まりました。
こうした中、今月4日、ティグレの勢力の軍事部門が北部にある政府軍の基地を攻撃すると、アビー首相は「一線を越えた行動だ」として、ティグレの勢力を排除するため、軍事行動に乗り出しました。
ノーベル平和賞の選考委員会は去年、アビー首相に平和賞を授与すると発表した際、その功績をたたえる一方、エチオピアで民族対立が広がっているとして、「時期尚早だと考える人がいるのも疑いがない」とも指摘していました。
エチオピアで民族間の対立が激化し、人道危機が深まるなか、その懸念が現実のものとなり、平和賞が掲げる理想と逆行する事態となっています。
国連は、一連の戦闘によって、これまでに4万3000人を超える人々がエチオピアから隣国スーダンに逃れたとしていて、軍事衝突による人道危機が深まっています。
UNHCR=国連難民高等弁務官事務所が、現地で撮影した映像からは、隣国スーダンに逃れてきた人々がボートで川を渡り、国境地帯で列をつくっている様子がうかがえます。
エチオピアから逃れてきた男性は「ここでは、爆発音も聞こえず安全だが、戦争のために着の身着のまま逃げてきたため、毛布の一枚も持っていない」と疲れた様子で話していました。
そのうえで、「まさか自分が難民になるとは思ってもみなかった。かつては誰もが働き、勉強し、安全な状況だった」と突然の状況を振り返っていました。
一方、OCHA=国連人道問題調整事務所は、政府軍と少数民族ティグレの軍事部門との間で戦闘が起きている北部の地域以外でも、複数の衝突があり、新たに9万5000人以上が、住む場所を追われたとしています。
こうした地域で人々は、屋根のない場所で寝泊まりしていて、水や食糧、それに避難所が必要だとしています。
エチオピアの隣国スーダンで難民の支援にあたっている、ユニセフ=国連児童基金の担当者はNHKのオンライン形式の取材に応じ、劣悪な環境のなか、女性や子どもたちが歩いて避難してきているとして、国際社会の支援を求めました。
ユニセフの東部・南部アフリカ地域事務所のジェームス・エルダー広報チーフは、エチオピアからの難民について、「4、5日かけて、子どもを背負った妊婦が歩いたり、川を渡ったりしながら逃げてくる厳しい状況で、到着した時には、健康状態が悪くなっている。水は病気の発生を防ぐためにも欠かせない」として、水や食糧による支援を急いでいるとしています。
また、子どもたちの状況について、「家族と離れ離れになっている子もいる。心のケアや家族の安否確認もわれわれの使命だ」と述べました。
さらに、アフリカでも影響が広がる新型コロナウイルスの感染について、「人道上、懸念する点だ。予防策を繰り返し行っている」と述べ、コロナ禍での支援の難しさを指摘しました。
そのうえで、「この地域では、新型コロナに限らず、バッタの食害もあり、ことしは困難な年だった。そこに、戦火にさらされて家を追われた人々がいる。想像を絶する困難の中にある」と難民の置かれた窮状を訴えました。
一方、エチオピア軍の軍事作戦の標的となっているティグレ州の州都メケレでは、人口50万人のうち、およそ半数を子どもが占めているということです。
衝突が拡大すれば、さらに多くの難民が発生することが懸念され、ユニセフでは、戦闘を停止する必要性を訴えるとともに、国際社会に対して支援を求めています。
エチオピアで、北部の州を拠点とする少数民族の勢力と政府軍との間で戦闘が続くなか、国際的な人権団体、アムネスティ・インターナショナルは、独自に入手した写真や映像、証言などをもとに、今月9日に北部の町で市民数百人が襲われ、虐殺が起きたおそれがあるとする報告書をまとめました。
報告書では、「今回の戦闘に関与していない、日雇い労働者などの多くの民間人が虐殺されたことを確認した。これは恐ろしい悲劇だ」と指摘し、目撃者や生存者などの話として、多くの人が刃物やなたで襲われ、殺害されたと報告しています。
アムネスティ・インターナショナルは、虐殺が誰によって行われたかは確認できていないとしながらも、目撃者の話として、少数民族ティグレの軍事部門が、民間人の虐殺に関わった可能性があるとしています。
この地域への立ち入りは制限されているほか、通信が遮断されていて、アムネスティ・インターナショナルは政府に対し、通信の復旧のほか、すべての人が自由に人権団体などにアクセスできるよう求めています。
エチオピア情勢に詳しい、アジア経済研究所の児玉由佳研究員は、今回の対立について、「エチオピアは民族ベースの連邦制を敷いているので、権力対立が起きると、結果的に民族対立の構図になってしまうのが問題だ」と話し、中央政府と州政府の対立が、そのまま民族間の対立に結び付く難しさを指摘しました。
一方、去年、アビー首相がノーベル平和賞を授与されていることについては、「ノーベル賞の受賞は、時期尚早であったかもしれないが、民主化を国内で進めていたアビー首相に対してだけではなく、他のアフリカ諸国にも民主化を進めてほしいという励ましを込めての授与だったと思う」と話し、エチオピアやアフリカ諸国全体への期待を込めた授与だったという見方を示しました。
ただ、今回の政府による北部の州への対応については、「政府が電話やインターネットを遮断しているため、現地の情報が入ってこない。ライフラインなどが遮断されることで、市民の生命に危機的な事態が生じていて、非難されるべきだ」と批判しました。
そのうえで、今後の展開について、「今回の紛争で、政権がひっくり返ることはないと思うが、事態が落ち着くかは疑問だ。ティグレ人民解放戦線が完全に降伏せず、ゲリラ的な手段に出ることもあり、事態は見通せない。今後重要なのは、来年に延期された選挙を、民意を反映させるような形で行えるかが、いちばんのポイントになる」と分析しています。
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