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川上の物価上昇が止まらない。1月の企業物価指数(CGPI)は36年4カ月ぶりの高水準を記録した。大きな要因である原油価格の上昇は、ウクライナ情勢の緊迫化を背景に継続しそうで、4月以降は日本の消費者物価指数(CPI)も前年比上昇率が2%に接近する可能性が高まっている。米国では、インフレ高進がバイデン大統領の支持率低下に直結しているが、日本でも同じ構造が生まれるのか。

もし、物価高が支持率低下と連動するような事態になれば、今夏に参院選を控える岸田文雄首相も安閑としてはいられなくなるだろう。そのケースでは、今は実施を否定している石油製品にかかる税金を減税する「トリガー条項」の発動や、物価高に拍車をかける円安を進めさせないような対応を持ち出してくるかもしれない。

ウクライナ危機、原油価格強含み要因に>

10日発表の1月企業物価指数速報によると、国内企業物価指数は前年比プラス8.6%の109.5となり、1985年9月以来36年4カ月ぶりの高水準を記録した。石油・石炭製品が前年比プラス34.3%と大きな押し上げ要因となっている。

昨年後半、原油の専門家は需給が緩む春から夏にかけて、原油価格は低下すると予想する向きが少なくなかった。そのムードを一変させたのがウクライナ危機だ。米系金融機関の中には、ロシアのウクライナ侵攻が現実となれば、WTI先物は1バレル=120ドルまで上昇すると予想する声も出ている。

ロシアの侵攻がなくても、西側との緊張が継続する今の情勢が続けば、1バレル=100ドル台に乗せ、しばらく高値が継続するとの予想が足元では増加している。

<値上げと世論の動向>

原油価格の上昇は、他の資源価格の連れ高を生み、日本企業にとって輸入原材料の上昇継続が収益の圧迫要因となり、販売減少に直結すると避けてきた製品値上げの動きを活発化させると筆者は予想する。

4月以降、携帯電話通信料の値下げ効果がはく落する日本のCPIは総合が2%に接近する展開になるとみられ、テレビのワイドショーでは「値上げ」をめぐる動きがメインテーマになっているのではないか。

日本では第2次石油危機以降、40年近くも大きな物価上昇を経験してきていない。そこに2%近い物価上昇が起きれば「生活が苦しくなった」との声がわき上がり、政権への批判の声が高まると予想される。

先行指標として注目されるのは米国の例だ。昨年12月のCPIは前年比プラス7.0%と大幅に上昇。今月3日に公表されたロイター/イプソスの最新世論調査では、バイデン政権の支持率は41%と過去最低を更新。不支持率は56%に上った。

今のところ、日本のコアCPIは12月が前年比プラス0.6%、岸田内閣の支持率は直近で低下傾向とは言え、50%台から60%台を維持。バイデン政権との苦境とは、かなり距離がある。

だが、農林、水産など1次産業を基盤にする地域では、原油価格の高騰が生産コストの上昇に直結。ビニールハウスでの野菜、果物、花きを生産する農家では、暖房用燃料代の値上がりで、利益が急減しているところが続出。水産業でも同じような状況に直面しているところが多い上に、新型コロナウイルスの影響で外食向けの需要が急減。ダブルパンチを受けている。

1次産業が主体の地方は、今年夏の参院選の行方を左右する1人区になっているところが多い。批判票が野党系の候補に集まれば、与党優位の下馬評が一気に崩壊する可能性もある。政権選択選挙でない参院選では、政権への批判が溜まると批判票が出やすくなるという過去の例もある。

<岸田首相の危機感とトリガー条項>

4-6月にCPIが総合で2%を突破し、WTI先物が100ドル前後で推移しているようなら、岸田首相にとってもバイデン大統領が経験している支持率低下は「他人事」でなくなるだろう。

岸田首相の危機感を図る重要な物差しがあると筆者は考える。トリガー条項の発動だ。石油の平均小売価格が1リットル160円を3カ月連続で上回ると、1リットル当たり53.8円のガソリン税のうち、25.1円分の上乗せ課税分を消費者に還元すると規定されている。だが、2011年の東日本大震災の復興財源に充てるため、同条項は凍結されたままだ。

岸田首相は、国と地方の財政に大きな影響を与えるとして、同条項の発動に否定的な見解を繰り返し表明している。

もし、岸田首相がトリガー条項の発動に言及するようになれば、原油高やインフレ全般に大きな脅威を感じ、決断したと見て差し支えないだろう。

<やっかいな円安>

その際は、ドル高・円安の進行も政権にとって、問題視されているのではないか。1月の企業物価指数によると、契約通貨ベースの輸入物価は前年比プラス28.0%。これに対し、円ベースでは同37.5%になる。

ラフに考えて、この2つの数字の差が「円安効果」と考えていいだろう。10%近く輸入価格を押し上げる円安を止めるのか、放置するのか。

円安を止める方法には、為替介入と日銀の金融政策などがある。ただ、主要7カ国(G7)の中で日本だけがドル売り・円買い介入を実施するのは現実的ではないだろう。

金融政策は日銀の判断に任せるというのが、岸田首相がこれまで示してきたスタンスだ。岸田首相が何らかの判断を日銀に伝えることが、将来、あるのかどうか。ウクライナ情勢が大きくかかわるのは間違いのないところだ。