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米連邦準備理事会(FRB)は今年の初め、リセッション(景気後退)が「起こってもおかしくない」とするなど、景気・物価に対して暗い認識を示していた。インフレ鎮静化のための急速な利上げにより、経済成長は滞り失業率が上がるとも予想していた。

しかし実際には、インフレ率は予想以上に早く低下する一方、失業率は上がらず、経済は政策担当者が1年前に想定した0.5%の5倍のペースで成長。今では利下げが予想されている。

アトランタ地区連銀のボスティック総裁は先週ロイターに、この1年、「われわれは非常に幸運だった」と語った。

<何が起こったのか>

この1年は、数々の出来事がFRBの意に沿った展開で推移。それは予想外の事もあったし、必ずしも金融政策の効果ではない部分もあったが、コロナ禍を経て経済は正常化の様相を強めた。

FRBは春、銀行に対して臨時の貸し出しプログラムを実施し、肝心な時に金融セクターの混乱を収えることができた。また、生産性が予想外に上昇したり、労働力が増えたりと、おおむね良い方向のサプライズがあった。

<供給制約が解消>

パウエルFRB議長はずっと前からインフレは「一過性」だという言葉を使わなくなっているが、先週の記者会見では、なぜ一過性だと思い込んだのかを、その言葉には触れずに説明した。

コロナ禍に対応し、米政府は消費者に数兆ドルの支援金を給付し、需要に火を付けた。一方で、コロナ禍ゆえに世界のサプライチェーンは目詰まりを起こし、インフレにつながった。

ところが今年は供給制約が解消し、モノの価格上昇が収まって総合インフレ率が下がり始めたのだ。

労働力の供給増加も嬉しいサプライズだった。パンデミック初期には女性の労働力が恒久的に減少してしまった、との懸念が広がっていたが、女性の労働者数は今年、過去最高を記録。過去最大に達していた求人件数と求職者数のかい離は、移民の増加によって和らいだ。労働力の増加と求人件数の減少により、インフレを押し上げると懸念されていた賃金の上昇ペースも鈍化した。

<コロナ支援金の威力>

コロナ禍中の支援金によって家計と地方政府に積み上がった蓄えは、多くのエコノミストの予想より長期間にわたって威力を発揮した。支援制度が終わって随分時間がたったにもかかわらず、今年も支出に回せる資金が数千億ドルあったと推計されている。

その結果、消費者支出は一貫して予想を上回り続けた。最近のデータを見ると、需要はついに減速し始めたようだが、消費者支出の予想外の持久力こそは、FRBが当初示した低い成長率予想が外れた重要な要因だ。

<生産性ボーナス>

他の条件が同じなら、成長率が予想を上回ればインフレ率は上がるはずだ。FRBは潜在成長率を1.8%前後と予想しているため、推計2.6%という今年の成長率はインフレにつながりそうに見える。

しかし、その潜在成長率は労働生産性の急上昇により、少なくとも当面は上昇している可能性がある。生産性が向上すれば、成長率が加速してもインフレを引き起こさずに済むため、中央銀行にとっては心強い味方となる。

生産性向上のおかげもあり、パウエル議長はインフレ退治に伴う「痛み」に言及しなくなった。

現在の失業率は3.7%で、FRBが利上げを開始した時の3.6%からほとんど変わっていない。

<銀行危機に至らず>

最後に挙げるサプライズは、シリコンバレー銀行に始まった一連の銀行破綻を見事に封じ込められたことだ。

もちろん市場にストレスは生じたが、幅広い危機には発展しなかった上、「景気鎮静化のために与信を引き締める」というFRBの意向に沿った影響をもたらした。

実際、7月の利上げ以降、市場は債券を売って利回りを押し上げることで、FRBによる利上げの肩代わりをし始めた。結局、7月をもって利上げは打ち止めとなった。

FRBが利下げに向けて舵を切った今、市場金利は急激に低下している。

#経済予測(アングル:FRBの暗い経済見通しが外れた5つの理由)