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心理療法士のオレフ・フコフスキー氏(41)は、ウクライナ東部に作られた仮設の教室でホワイトボードの脇に立ち、セッションに参加した兵士たちに話しかけている。内容は、戦闘ストレスへの対応方法だ。

以前は精神科医だったフコフスキー氏が軍に加わったのは、2022年2月にロシアが全面侵攻を開始してから6カ月ほど経った頃だった。現在では、廃墟と化したリマンの方面で第67独立機械化旅団に随行する心理支援グループを指揮している。

教室では基本的な心理学理論と、呼吸法などストレス対応手法を教える。講師からの質問やアドバイスに対し、出席している十数人の兵士の反応は良い。だがフコフスキー氏は、与えられた時間でできることは限られていると認めている。

フコフスキー氏は、「(兵士たちは)任務があり、前線に戻らなければならない」と語る。兵士の一部は、医療支援センターで軽度の負傷や戦闘ストレスの治療中だ。センターの所在地については明らかにしないようウクライナ軍からの要請を受けた。

「私たちがやっている診療行為は、彼らをある程度落ち着かせること。それが全てだ」とフコフスキー氏。「つまり、何らかの症状から完全に回復させるというわけではない。私たちが置かれた状況では、それは無理だ」

心理学的な支援を必要とする兵士の多くは短い休養の後で戦場に戻るが、症状が重く、さらなる治療のために戦線から離れたリハビリ拠点に送られる兵士もいる。

ウクライナ各地では、フコフスキー氏をはじめ数百人もの専門家やボランティアが、メンタルヘルス上の問題を抱える兵士の治療に当たっている。はるかに規模の勝る敵を食い止めようと消耗戦を強いられているウクライナ軍にとって、戦闘ストレスの問題は膨らみつつある。

戦闘に参加する兵士の多くは志願兵であり、大砲や迫撃砲、そしてドローンによる攻撃にさらされる、時として激烈をきわめる戦闘に備えた訓練はほとんど受けていない。

ウクライナ軍を構成するのは動員された市民で、つい昨日までは教師や芸術家、詩人、IT専門家、労働者だった人々だ」と語るのは、士気・心理面の支援を担当するダナ・ビノフラドバ副旅団長。

職業軍人向けの包括的な心理訓練を行っている余裕はない」

ウクライナ軍は、ストレス対応の「最前線」、つまり心理学的な支援を行う人材をさらに集めようとしている。

どの程度の規模で人材採用を試みているのか、また侵攻開始以降に心理的問題で治療を受けた兵士の数についてウクライナ軍に問い合わせたが、回答は得られなかった。こうした詳細は軍事機密扱いとされることが多い。

ロイターでは、部隊支援の関係者13人、治療中の兵士4人に取材した。治療の内容には、数日間の短期治療から、深刻な心的外傷に伴う数週間のリハビリ、また四肢の一部の切断により障害を抱えた生活に向けた備えまで含まれる。

兵士らは、極度の疲労やストレス、不安、恐怖、罪悪感について語る一方で、所属部隊に早く戻りたいという戦友意識や使命感、敵を撃退したいという強い動機も口にしている。

<悪夢と恐怖>

フコフスキー氏は、ウクライナの兵士は交代の頻度が十分ではないと指摘する。戦争が長引き、ロシアが防衛線を固めるにつれて、ウクライナ政府にとっては、低迷する経済を空洞化させることなく、さらに多くの国民を参戦させるというプレッシャーが高まっている。

「兵士が前線にとどまり、メンタルヘルスを維持できる限界は45日間だ」とフコフスキー氏は言う。

「だが、前線配備の期間がはるかに長くなる状況がある。脳振とうも多くなっているし、深刻な戦闘疲労も多い」

先月フコフスキー氏の講義に出席していた兵士の1人が、ウクライナ中部の工場労働者だった「DJ」さん(50)だ。他の大半の兵士たちと同様に、部隊内でのコールサインで呼ばれている。

DJさんは教室でのセッションで、「悪夢を何度も見て、ひどく疲れた。横になる時間があっても、まったく眠れない」と語った。

後日、DJさんは寮のベッドに腰を掛け、スマホ内の写真に目を通しながら、戦闘の過酷さに対していかに心構えが不足していたかを語った。

「初めて戦争に参加して前線に立ったとき、ようやく気がついた」と頭を剃り上げたDJさんは言う。ウクライナの国章である三つまたの矛をデザインしたペンダントとイアリングを身に着けている。

「最初は、迫撃砲戦車砲、大砲がどんなものか理解していなかった。じきに、いつまでも耐えられるものではないことが分かった」

リマン方面の前線でDJさんが配備された地点は、ロシアによる「年中無休、24時間」の砲撃を浴びていたという。彼は他の兵士と同様、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と脳振とうに悩まされたと続けた。

11月の雨の日、近くの村では、第21独立機械化旅団に所属するドミトロさんと呼ばれる兵士が、部隊のストレス管理グループを率いるセルヒー・ロスティコフ氏と話をしながら歩いていた。村の家屋には、2022年にロシア側が一時的にこの地域を掌握していた頃の戦闘による損傷が残る。

ロスティコフ氏によれば、心理学的なサポートを求めるかどうかは兵士たち自身の判断だという。ただし他の専門家は、懸念すべき兆候が見られる場合は部隊指揮官がその旨を勧告することもできると話している。

「砲撃を浴びた後は、戦闘位置に戻ることへの恐怖が増した」と24歳のドミトロさんは言う。戦闘服を着て、頭にフードをかぶっている。

「セルヒーに助けを求めた。しばらく一緒に治療に取り組んで、その後、リハビリ施設に送ってもらった。今は恐怖感もなく、戦闘位置にもあっさり戻れる。兵士はたくさんのストレスに悩まされるから、心理学者が必要だと思う」

取材の後、DJさんは、さらに治療を受けるために戦闘から離れていたと語った。ドミトロさんは自分の部隊に復帰した。

#ウクライナ戦力(焦点:動員されるウクライナ市民、広がる「メンタルヘルス問題」)

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#ウクライナ戦力(ウメロフ国防相「国外に住む25~60歳のウクライナ人男性に兵役に就くよう求める方針」・イラリオン・パヴリュク報道官「国外からの招集については議論していない」「いかなる強制もしない」「ポイントがずらされた」)

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して24日で1年10か月になりますが、ことし6月に大規模な反転攻勢に乗り出したウクライナ軍と、防御陣地を固めるロシア軍との攻防は、こう着状態に陥っているとも指摘されています。

こうした中、ウクライナ軍は23日、東部ドネツク州の拠点、アウディーイウカの周辺でロシア軍が30回余り攻撃を繰り返すなど、東部や南部で激しい戦闘が続いていると明らかにしました。

また、ウクライナ各地でロシア軍による空爆などの攻撃があり、民間人にもけが人が出ているとしています。

ウクライナ側では、戦闘の長期化で兵員の確保が課題になっているほか、アメリカによる支援の先行きが見通せない状況が続いて弾薬不足への懸念も強まっています。

ゼレンスキー大統領は22日、オランダからウクライナへのF16戦闘機の引き渡しに向けた準備が始まったと明らかにしていて、航空戦力の強化を急いで戦況の打開につなげたいねらいがあるとみられます。

一方、イギリス国防省は23日、前線の状況についてSNSに投稿し「大量のネズミが発生して、双方に被害が出ている可能性が高い。ネズミは車両や防御陣地に入り込み、兵士の士気に影響を与える」と指摘しました。

#ウクライナ戦況(反転攻勢・NHK「1年10か月」「ウク側では兵員の確保が課題」「アメリカによる支援の先行きが見通せない状況」・イギリス国防省「大量のネズミが発生して、双方に被害が出ている可能性が高い。ネズミは車両や防御陣地に入り込み、兵士の士気に影響を与える」)

#ウクライナ戦況(反転攻勢・Times /Australian ・ウク応援団の大衆に諦めるように勧告「ウクが勝利する可能性は極めて低い」「前線に出す新兵がすぐに死んでしまうため、新兵にコールサインを割り当てることもやめてしまった」)

ウクライナ空軍は24日、ロシア軍が南部のミコライウ州やザポリージャ州に無人機15機で攻撃を仕掛け、このうち14機を撃墜したとSNSで発表しました。

また、南部ヘルソン市の当局者はロシア軍の砲撃で3人が死亡し、8人がけがをしたとしています。

ロシア軍による攻撃が続く中、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは23日、ロシア政府の元高官やアメリカなどの当局者の話として、プーチン大統領が少なくともことし9月以降、仲介者を通じて停戦に向けた協議に関心を示してきていると報じました。

具体的には米ロ両国と関係を持つ外国政府を含む複数のルートでアメリカなどに伝えられ、キーウを首都とするウクライナの主権を認めるかわりに現時点でロシア軍が支配している20%近いウクライナの領土をロシア側が維持することを提案しているということです。

ただ、ウクライナゼレンスキー大統領はすべての領土の奪還を訴えているうえに、記事ではアメリカ政府関係者の話として「ロシアがよくやる相手を惑わせる試みで、本当にプーチン大統領が妥協しようとしているものではないだろう」とする懐疑的な見方も伝えています。

#ウクライナ和平交渉(NYT「プーチン大統領が少なくともことし9月以降、仲介者を通じて停戦に向けた協議に関心を示してきている」「キーウを首都とするウクライナの主権を認めるかわりに現時点でロシア軍が支配している20%近いウクライナの領土をロシア側が維持することを提案している」「アメリカ政府関係者『ロシアがよくやる相手を惑わせる試みで、本当にプーチン大統領が妥協しようとしているものではないだろう』」・NHK「ゼレンスキー大統領はすべての領土の奪還を訴えている」)

ウクライナでいえば、2014年2月21日から22日に起きた、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領を武力で国外に逃亡させた事件(米国の支援する反政府勢力によるクーデターだが、欧米や日本のメディアは「マイダン革命」とほめそやしている)以後、クリミア半島がロシアに併合され、東部ドンバス地域で紛争状態に陥ると、むしろ米国の政治家や諜報機関などの中には、ウクライナとロシアの紛争の火種を大きくし、戦争を巻き起こそうとする連中がたしかにいた。

たとえば、「2015年以来、CIA(中央情報局)はウクライナのソヴィエト組織をモスクワに対抗する強力な同盟国に変貌させるために数千万ドルを費やしてきたと当局者は語った」と「ワシントン・ポスト(WP)」は報道している。このCIAの関与はロシアとの戦争のためであり、ウクライナ戦争をアメリカが準備してきた証でもある。ロシアがウクライナ戦争を領土侵略のために起こしたとみなすのは、あまりにも短絡的な思考なのだ。

EU米首脳会議の前夜に当たる2023年10月20日、バイデン大統領はアメリカ国民に向けた演説『Remarks by President Biden on the United States’ Response to Hamas’s Terrorist Attacks Against Israel and Russia’s Ongoing Brutal War Against Ukraine』で、「明日(10月21日)にイスラエルウクライナを含む重要なパートナーを支援するための緊急予算要求を議会に提出する」とのべた直後に、「これは、何世代にもわたってアメリカの安全保障に配当金をもたらす賢明な投資であり、アメリカ軍を危険から遠ざけ、我々の子供や孫たちのために、より安全で平和で豊かな世界を築く助けとなる」と語った。

さらに、11月18日付の「ワシントン・ポスト」において、彼は、「今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ」と明確にのべている。

ほかにも、国防総省はそのサイトに11月3日に公表した「バイデン政権、ウクライナへの新たな安全保障支援を発表」の中で、「ウクライナへの安全保障支援は、わが国の安全保障に対する賢明な投資(smart investment)である」とはっきりと書いている。

どうして「ウクライナ支援」が「賢明な投資」なのかというと、実は、「ウクライナ支援」といっても、実際にウクライナ政府に渡される資金は米国の場合、ごくわずかだからだ。米戦略国際問題研究センターのマーク・カンシアン上級顧問は、2023年10月3日、「「ウクライナへの援助」のほとんどは米国内で使われている」という記事を公表した。

それによると、これまで議会が承認した1130億ドルの配分のうち、「約680億ドル(60%)が米国内で使われ、軍と米国産業に利益をもたらしている」と指摘されている(詳しい分析は拙稿「「米国内への投資」を「ウクライナ支援」と呼ぶバイデン政権」〈上、下〉を参照)。

12月20日の記者会見で、アンソニー・ブリンケン国務長官は、米国のウクライナ支援の90%は国内で使用され、地元企業や労働者の利益となり、米国の防衛産業基盤の強化にもつながっていると説明した。

ウクライナ支援」の美名のもとで、本当の「援助」は欧州や日本にやらせ、米国だけは「国内投資」に専念するという虫のいいやり口が隠されている。それにもかかわらず、欧米や日本のマスメディアはこの「真実」をまったく報道しようとしない。

では、アメリカは具体的にどのように「戦争の長期化」に寄与するように働きかけたのか。そこには巧妙な「ナラティブ」が存在した。

こう考えると、なぜウクライナ戦争の和平が実現されず、長期戦になっているかが理解できるはずだ。現に、バイデン政権は過去に二度、ウクライナ和平の契機を潰した(これも、米国に気兼ねしてメディアが報道しないため、あまりに無知な人が多い)。米国内への投資のためにウクライナを援助する以上、ウクライナ戦争を停止するわけにはゆかないのだ。なぜなら軍需産業の雇用が増え、バイデン再選へのプラス効果が出ているからである。再選のためなら、バイデン大統領は手段を選ばない。

第一の和平の契機は、2022年3月から4月であった。ウクライナとロシアとの第1回協議は2022年2月28日にベラルーシで行われ、第2回協議は3月29日にイスタンブールで行われた。ここで課題となったのは、

1.ウクライナの非同盟化、将来的に中立をどう保つのか

2.ウクライナの非軍事化、軍隊の縮小化

3.右派政治グループの排除という政治構造改革

4.ウクライナの国境問題とドンバスの取り扱い

である。

第2回会合の後、双方が交渉の進展について話し、特にウクライナは外部からの保証を条件に非同盟・非核の地位を確認することに合意した。たしかに和平に向けた話し合いが一歩進んだのである(なお、プーチン大統領は2023年6月17日、アフリカ7カ国の代表に18条からなる「ウクライナ永世中立と安全保障に関する条約」と呼ばれる文書を見せた。TASSによれば、文書のタイトルページには、2022年4月15日時点の草案であることが記されていた。保証国のリストは条約の前文に記載されており、そのなかには英国、中国、ロシア、米国、フランスが含まれていた。つまり、相当進展した条約が準備されていたことになる)。

しかし、2022年4月9日、ボリス・ジョンソン英首相(当時)がキーウを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、英首相はウクライナに対し、120台の装甲車と対艦システムという形での軍事援助と、世界銀行からの5億ドルの追加融資保証を約束し、「ともかく戦おう」と戦争継続を促した。

この情報は、ウクライナ側の代表を務めたウクライナ議会の「人民の奉仕者」派のダヴィド・アラハミヤ党首が、2023年11月になって「1+1TVチャンネル」のインタビューで明らかにしたものだ。もちろん、ジョンソンの背後にはバイデン大統領が控えており、米英はウクライナ戦争継続で利害が一致していた。

それは、ゼレンスキー大統領も同じである。戦争がつづくかぎり、大統領という権力は安泰であり、2024年3月に予定されていた選挙も延期できる。だが、戦争継続は多くの市民の流血を意味する。そこで、和平協定を結ばないようにするには、理由が必要であった。

こうした時系列と文脈の中でブチャ虐殺を考えると、興味深いことがわかる。ここでは、ロシアの有力紙「コメルサント」(2022年4月6日付)の情報に基づいて、ブチャをめぐる「物語」(ナラティブ)を紹介してみよう。

ロシア軍がブチャから完全に撤退したのは3月30日のことだった。その翌日に撮影されたビデオをみてほしい。アナトリー・フェドリュク市長は、同市の奪還を喜びながら宣言している。だが、なぜか集団残虐行為、死体、殺害などには一切触れていない。むしろ、明るい表情でいっぱいであることがわかるだろう。

ところが、ロイター電によると、ブチャ市長は、4月3日、ロシア軍が1ヵ月に及ぶ占領の間、意図的に市民を殺害したと非難したと報じた。これらの時系列が真実だったとして、なぜ、撤退直後ではなく数日後に急に虐殺を非難しはじめたのか。ロシアとの戦争継続のための理由づけとして、ブチャ虐殺が利用されたと一面的には考えることもできる。和平交渉を停止して、戦争を継続する理由としてブチャ虐殺は格好の題材となる。少なくともこんな「物語」(ナラティブ)を想定することができるのだ。

これに対して、2022年4月4日付の「ニューヨーク・タイムズ」は、キーウ近郊のブチャで民間人が殺害されたのは、ロシアの兵士が町を離れた後であったというロシアの主張に反駁するための衛星画像を報じた。これが正しい見方であったとして、しかし同時にこれらの資料が市民殺害の実行犯までを特定することもできないのも事実だ。そしてロシア軍によるブチャ虐殺という物語が伝播するにつれて、ロシア代表が何を言っても、国連安全保障理事会で彼の主張に耳を傾ける者はほとんどいなくなった。

その後は実際にわれわれが目撃した通り、バイデンおよびゼレンスキーの訴えた物語は欧米の人々の心を強く打ち、和平交渉の話どころではなくなってしまった。

ここで注意喚起しなければならないのは、イスラエルがガザ最大の病院、アル・シファ病院に軍隊を送り込んだ理由としてあげた、

1.五つの病院の建物がハマスの活動に直接関与していた

2.その建物は地下トンネルの上にあり、過激派がロケット攻撃の指示や戦闘員の指揮に使っていた

3.そのトンネルは病棟の中からアクセスできる

といった情報の信憑性が疑われている点だ。これらに関する「ワシントン・ポスト(WP)」の報道によると、

1.国防軍が発見したトンネル網に接続された部屋には、ハマスが軍事利用した形跡はなかった

2.五つの病院の建物は、いずれもトンネル・ネットワークとつながっているようにはみえなかった

3.病棟内部からトンネルにアクセスできたという証拠もない

という。

つまり、イスラエル政府が提示した証拠は「不十分であった」のだ。つまり、イスラエル政府は「嘘」をでっち上げたと考えることができるのであり、同じことはウクライナ政府においても、どの政府にとっても可能である。少なくとも国際社会でまことしやかに報道される「物語」が、完全なる真実だと信じることはできないのだ。

第二の和平の契機は、2022年11月、停戦交渉の必要性を示唆したマーク・ミリー統合参謀本部議長(当時)の和平提案をバイデン大統領が無視した出来事に示されている。

ウクライナ軍が南部の都市へルソンからロシア軍を追放し終えた直後の11月6日に、ミリーはニューヨークのエコノミック・クラブで講演し、「軍事的にはもう勝ち目のない戦争だ」と語った。

さらに、翌週、ミリーは再び交渉の機が熟したことを示唆した。記者会見で彼は、ウクライナがハリコフとヘルソンからロシア軍を追い出すという英雄的な成功を収めたにもかかわらず、ロシアの軍隊を力ずくで全土から追い出すことは「非常に難しい」とまで率直にのべた。それでも、政治的解決の糸口はあるかもしれない。「強者の立場から交渉したい」とミリーは言い、「ロシアは今、背中を向けている」とした。

だが、バイデン大統領はこのミリーの提案をまったく無視したのである。ウクライナの「反攻」に期待した「ウクライナ支援」が継続されたのだ。その結果、2022年のロシア侵攻以来、ウクライナでは1万人以上の市民が殺害され、その約半数が過去3カ月間に前線のはるか後方で発生していると国連が2023年11月に発表するに至る。

もう一度、はっきりと指摘したい。バイデン大統領は「米国内への投資」のために「ウクライナ支援」を継続し、ウクライナ戦争をつづけ、同国市民の犠牲をいとわない姿勢をいまでも堅持している。彼にとっての最重要課題は、彼自身の大統領選での勝利であり、そのためには、米国の軍需産業を儲けさせ、雇用を拡大することが優先事項なのである。

その後のアメリカのさらに不可解な選択は、現在のウクライナ戦争やガザでの状況につながっている。

こうなるとゼレンスキー大統領もバイデン大統領も和平を望んでいないように思えてくる。まず、ゼレンスキー大統領はあえて自ら和平への道を断った。2022年9月30日、ウクライナ国家安全保障・国防評議会の決定「プーチン大統領との交渉が不可能であることを表明すること」を含む決定を同日、ゼレンスキー大統領は大統領令で承認したのである。この段階で、彼は自ら和平交渉への道筋を断ち切ったのである。

他方、バイデン大統領は負ける公算の大きかった反攻作戦にこだわった。だからこそ、2022年11月段階でのミリーの提案を無視したのである。反攻作戦がだめでも、とにかく戦争を長引かせれば、米国内への「投資」を継続し、米国内の労働者の雇用を増やすことができるからである。大統領再選につながるのだ。

2023年9月3日付で、ジョン・ミアシャイマーは、「負けるべくして負ける ウクライナの2023年反攻」という長文の論考を公開した。なお、彼は私と同じく、2014年2月にクーデターがあったことを認め、そこに米国政府が関与していたことをはっきりと指摘している優れた政治学者だ(「2014年2月22日、アメリカが支援し、親ロシア派の指導者を倒したウクライナのクーデターは、モスクワと欧米の間に大きな危機を招いた」[John J. Mearsheimer, The Great Delusion: Liberal Dreams and International Realities, Yale University Press, 2018, p. 142]。

この日の出来事をクーデターであったと早くから的確に指摘しているのは、日本では私くらいだろう[拙著『ウクライナ・ゲート』社会評論社, 2014])。この尊敬すべきミアシャイマーがなぜ反攻が「負けるべくして負ける」と主張しているのかというと、過去の電撃戦と呼ばれる戦い方法の比較分析から導かれる結論だからである(詳しい説明はミアシャイマーの分析記事を参考にしてほしい)。

ここで強調したいのは、「ウクライナ軍で電撃戦を成功させる任務を負った主要部隊は、訓練が不十分で、特に機甲戦に関する戦闘経験が不足していた」点である。とくに、開戦以来イギリスが訓練してきた2万人のウクライナ兵のうち、わずか11パーセントしか軍事経験がなかった点に注目してほしい。「新兵を4~6週間の訓練で非常に有能な兵士に変身させることなど単純に不可能」であり、最初から負けはみえていたと考えられるのだ。

だからこそ、2023年7月23日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、「ウクライナの武器と訓練不足がロシアとの戦いで膠着状態に陥るリスク 米国とキーウは不足を知っていたが、それでもキーウは攻撃を開始した」という記事を公表したのである。

バイデン政権が人命を顧みないことは、2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動したことによく現れている。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃に対して、イスラエル軍が過剰な自衛権を行使する事態に陥っているにもかかわらず、あくまで「イスラエル支援」をつづけるバイデン政権はパレスチナの市民の人命を軽視している。

表面上、救援物資の輸送などで人道支援への努力をしているようにみせかけながら、他方で、国務省は12月8日の午後11時、議会の委員会に対し、1億600万ドル以上に相当する戦車弾薬1万3000発のイスラエルへの政府売却を推進すると通告した。この武器輸出は迅速化され、議会にはそれを止める権限はない。

国務省が中東への武器輸送のために緊急事態条項を発動したのは、2019年5月にマイク・ポンペオ国務長官サウジアラビアアラブ首長国連邦への武器売却を承認して以来はじめてのことであり、この動きは議員や国務省内部の一部のキャリア官僚から批判を浴びた。

『戦争の経済学』という視角からみると、パレスチナウクライナの人命価値はアメリカ人のそれよりもずっと低いのだろうか。少なくとも、バイデン大統領はそう考えているようにみえる。そんな身勝手な判断ができるのも、アメリカが覇権国として傍若無人な態度をとりつづけているからだ。世界の警官である覇権国アメリカには、逆らえないのである。

『戦争の経済学』のいう心理的影響は、もちろん、日本にも波及している。2022年に国家安全保障戦略、 国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書を策定した岸田文雄政権は、反撃能力の保有、南西地域の防衛体制の強化といった威勢のいい方針を打ち出している。

2023年度~2027年度の防衛力の抜本的強化のために必要な5年間の支出額は、約43兆円程度とされる(円安を考慮すれば、大阪万博よろしく60兆円にも70兆円にもなりかねない)。たとえば、日本政府はアメリカから巡航ミサイル「トマホーク」なども購入する予定だ。気になるのは、1980年代前半に運用されているトマホークにはさまざまな種類があり、在庫のトマホークを大量に買わされるリスクが大いにある点だ。

オーストラリア政府は、海軍のホバート駆逐艦のために、米国から約13億ドルで200発以上のトマホーク巡航ミサイルを購入することを決定した。そのトマホークについて、2023年12月に公表された米海軍研究所の論文は、「速度が遅く、射程距離も比較的限られているため、戦時中は一斉射撃の回数が増え、艦の弾倉をすぐに使い果たしてしまう可能性がある」とはっきりと指摘している。豪州も日本も、米国の軍需産業の絶好の「餌食」になっているのである。

それだけではない。日本政府は、12月22日にも改正する防衛装備移転3原則と運用指針に基づき、国内で製造する地対空誘導弾パトリオットミサイルを米国に輸出する。レイセオン社からライセンスを受けて、米軍のパトリオット用のミサイルを製造している日本側は、数十基のパトリオットミサイルを米国に輸出し、その分を米国からウクライナに輸出する。これは、軍需産業が政府と一体化して儲けを優先している(ウクライナ戦争で武器需要を高め、ウクライナへの直接輸出をいやがる日本のような国の意向を米国政府が調整し、事実上、ウクライナへの武器輸出を増やす。つまり、日米政府は武器製造の増加で協力し、国内の軍需産業を儲けさせている)証拠といえるだろう。

世界には、「悪い奴ら」がたくさんいる。どうか、そうした「悪」に気づいてほしい。そのために、これから随時、このサイトにおいて、覇権国アメリカの「悪」という視角から論考を掲載したい。なお、この視角から徹底した米国批判を展開したのが拙著『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社, 2023)である。

ウクライナ戦争については、拙著『プーチン3.0』、『ウクライナ3.0』、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社, 2022)、『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社, 2023)を参照してほしい。ロシアの「悪」についても分析するが、日本のマスメディアが報道しようとしない米国の「悪」について、とくに明らかにしてゆきたい。カネ儲けのために何でもする連中をのさばらせてはならない。

#塩原俊彦(覇権国アメリカの「悪」・ウクライナ支援は「投資」)

AI=人工知能を使って兵器が人間の関与なしに攻撃目標などを判断して攻撃する、自律型致死兵器システム「LAWS」について、国連総会は世界の安全保障に与える影響を懸念し、対応が急がれるとする決議を賛成多数で採択しました。

AI=人工知能を使って兵器が人間の関与なしに攻撃目標や方法を判断して攻撃する、自律型致死兵器システム「LAWS」は、戦場で使われれば民間人の犠牲などを深刻化させるおそれがあると指摘されています。

国連総会では22日、この自律型致死兵器システムについて
▽世界の安全保障に与える影響に懸念を示し対応が急がれるとしたうえで
グテーレス事務総長に課題をまとめて報告するよう求める決議案が提出されました。

採決の結果
▽日本やアメリカなど152か国の賛成で採択されましたが
▽ロシアやインドなど4か国が反対し
▽中国や北朝鮮イスラエルなど11か国が棄権しました。

自律型致死兵器システムについて国連総会で決議が採択されるのは初めてで、各国でAIを利用した兵器システムの開発が進むなか、具体的な規制につながるか注目されています。

#AI兵器(自律型致死兵器システム「LAWS」・国連総会「対応が急がれる」「グテーレス事務総長に課題をまとめて報告する」・ロシア/インドなど4か国が反対▽中国/北朝鮮/イスラエルなど11か国が棄権)

#NATOexpansion

#反ロシア#対中露戦

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