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新型コロナウイルスパンデミック中、米国債は従来と異なる値動きを示し、「安全資産」としての地位に疑問符が付いた――。ニューヨーク大学などの学者らは、22日から開かれた米年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)でこうした論文を発表した。

米国債はドイツ、英国、フランスの国債、ひいては大企業の社債と比べても、やや不安定だったと示唆している。

論文は、米ニューヨーク大学のロベルト・ゴメスクラム氏、英ロンドン・ビジネス・スクールのハワード・カング氏、米スタンフォード大学のハンノ・ラスティグ氏の3人による共著。「新型コロナウイルスに反応し、米国債投資家は価格設定においてリスクの高い債務のモデルへとシフトしたようだ」とし、中央銀行などの政策担当者は、このシフトを踏まえて市場が適切に機能しているかどうかを判断すべきだとした。

投資家はパンデミック中に過去の世界的金融危機の時とは異なり、米国債買いに走らず、米国債を売ったと指摘。これは他の国々の国債に対する姿勢と大きく似ているとした。

米連邦準備理事会(FRB)は当時、市場が機能不全になったと想定して巨額の国債買い入れを実施した。しかし論文は、米国債はリスクの高い国の国債と同様、政府支出の「ショック」に反応して売られたと示唆。「そうした環境で、多額の政府支出に対応して中銀が多額の資産購入を行うことは、財政に好ましくない影響を及ぼす」とした。

この論文に対し、米財務省高官その他の会議参加者からは、パンデミックを取り巻く不透明性が反映されていないとの反論が出た。

カンザスシティ連邦準備銀行ワイオミング州ジャクソンホールで24日開いた経済シンポジウムでエコノミストグループが説明した論文によると、米連邦準備理事会(FRB)の住宅ローン担保証券MBS)の保有は、金融政策の効果が経済情勢に波及する過程で「中心的な役割」を担っている。

論文は、FRBが経済情勢に影響を及ぼすことを目指した行動や政策金利の変更の効果を強化するため、米国債MBS保有高の増減をどのように活用しているかを調査した。

2020年に始まった量的金融緩和(米国債MBSの買い入れ)によりFRBの資産保有高は22年夏には2倍超の約9兆ドルに増えてピークに達した。FRBMBS保有高は当初の約1兆4000億ドルから22年3月には2兆7000ドルに増えて天井を打った。

米国経済における住宅金融の重要性を踏まえると、MBSの買い入れは特に注目度が高い。だがエコノミスト中央銀行当局者はこれまで長い間、資産買い入れの効果を数量化するのに苦労してきた上、資産買い入れの価値を疑問視する声も聞かれた。

論文はFRBMBS買い入れの効果を数量化した上、そのプロセスがどのように機能するかについて説明。民間銀行も一定の役割を担っているとした。

論文は「2020年から21年にかけてのMBSスプレッドの低下で、銀行とFRBはそれぞれ約40ベーシスポイント(bp)相当の効果をもたらした」と推計。「これが、約3兆ドル相当の住宅ローン組成の累積的な増加と、正味で約1兆ドル相当の(MBSの)発行につながった。銀行の影響は増加分の約半分を占めた」と説明した。

その上で「こうした効果は消費支出と住宅投資に大きな影響を及ぼした」と付け加えた。

FRBが量的金融引き締めを追求する局面でも、FRBMBS保有が金融政策運営に及ぼす強い効果は、やはり発揮されている。量的金融引き締めによりFRBの資産保有高は7兆3000億ドル、MBS保有高は2兆3000億ドルに減少した。FRB保有しているMBSが償還されても再投資していない。

FRBの量的金融引き締めのプロセスは、当初の想定よりもゆっくりとしたペースで進んでいることが分かった。高金利局面で住宅市場の低迷により住宅ローンの組成が減速し、MBS保有資産から切り離すFRBの能力が鈍ったためだ。FRB米国債を中心に保有するという方針を達成するため、ある時点でMBSを(償還まで待つのではなく)積極的に売却しなければならなくなるかもしれないとの見方もある。

今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、景気低迷の兆しや労働市場の悪化リスクが議論に影を落とし、金融政策の行方に注目が集まった。

米欧の中央銀行は利下げに舵を切っているが、日銀は金融緩和の解除を進める方針を再確認しており、こうした金融政策の乖離や中国経済の低迷継続を背景に、世界経済と国際金融市場が今後も激しい変動に見舞われる恐れがある。

今月は米雇用統計が予想を下回り、米景気後退(リセッション)に対する懸念が浮上。7月には日銀のサプライズ利上げもあり、市場が混乱に陥った。

これまでのところ多くのアナリストは、世界経済が今後数年緩やかに成長するとの国際通貨基金IMF)の予測を支持している。IMFによると、米経済はソフトランディング(軟着陸)を達成し、欧州の経済成長は上向き、中国経済は低迷から脱する見通しだ。

だが、こうした明るい予測は不安定な土台に上に成り立っており、市場では米経済の軟着陸を疑問視する声や、ユーロ圏経済の腰折れ、中国の消費低迷を懸念する声が出ている。

主要中銀が利下げに向かう中で、これが金融政策の「正常化」なのか、一段の景気減速を回避する第一歩なのかは現時点で判断が難しい。

こうした不透明感を背景に、世界の株式市場や通貨が荒い値動きに見舞われるリスクがある。

IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「市場はやや未知の領域にあるため、ボラティリティーが再び高まる恐れがある」と指摘。
「日本は若干異なるサイクルにある。市場はそれが何を意味するか理解する必要があり、過剰反応する。このため、さらなるボラティリティーが生じるだろう」と述べた。

<成長リスク>

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、ジャクソンホール会議の講演で、9月の利下げ開始を示唆。雇用市場の一段の冷え込みは歓迎されないとの見解を示した。

ジャクソンホール会議では、求人数の継続的な減少が失業率の急上昇を招く転換点に近づいている可能性を示す論文も公表された。

欧州中央銀行(ECB)では、物価圧力の緩和に加え、経済成長見通しが大幅に悪化しているため、9月の利下げ実施で意見がまとまりつつある。

ECB理事会メンバーのレーン・フィンランド中銀総裁は「ユーロ圏ではマイナス成長リスクが高まっており、次回9月の理事会で利下げを実施する根拠が強まっている」と述べた。

日本でも需要主導の物価上昇ペースが鈍化しており、日銀の追加利上げに関する決定が複雑になる可能性がある。

元日銀審議委員で慶應義塾大学教授の白井さゆり氏は、内需が非常に弱いとし、経済的な見地から日銀が利上げを行う理由は乏しいとの認識を示した。

<中国への懸念>

懸念をさらに強める要因となっているのが中国だ。

中国はデフレの瀬戸際にあり、長期にわたる不動産危機に直面している。債務も急増し、消費者・企業マインドは冷え込んでいる。

第2・四半期の国内総生産(GDP)は予想を下回り、中国人民銀行中央銀行)は先月、予想外の利下げを迫られた。IMFが中国の経済成長予測を下方修正する可能性が高まっている。

IMFのグランシャ氏は「中国は世界経済で大きな役割を果たしている。中国の成長鈍化は世界の他の地域に波及する」と指摘した。

米中経済の減速の兆しがさらに強まれば、すでに需要低迷に見舞われている世界の製造業の先行きが一段と悪化する。

ブラジルなど資源が豊富な新興国は、中国経済の減速で金属や食品の輸出が打撃を受ける恐れがあるが、輸入価格の下落でインフレ圧力が和らぐ可能性もある。

ブラジル中銀のカンポス・ネト総裁はジャクソンホール会議で「差し引きでどのような影響があるかは、減速の程度に左右される」と述べた。

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