【正論】文芸批評家、都留文科大学教授・新保祐司 「誠実本位」か「成功本位」か
「成功の秘訣」は、大正15年(1926年)、内村鑑三、65歳のときに書いたものである。
「成功」とは、もちろん世俗的な地位や名誉、あるいは金銭などを指したものではなく、「天職」を発見し、それに生きることが「成功」の根本なのである。
一、自己に頼るべし、他人に頼るべからず。
一、本(もと)を固(かと)うすべし、然らば事業は自(おの)ずから発展すべし。
一、成功本位の米国主義にならうべからず、誠実本位の日本主義に則(のっと)るべし。
一、雇人は兄弟と思うべし、客人は家族として扱うべし。
一、誠実によりて得たる信用は最大の財産なりと知るべし。
一、清潔、整頓、堅実を主とすべし。
一、人もし全世界を得るともその霊魂を失わば何の益あらんや。人生の目的は金銭を得るにあらず、品性を完成するにあり。
http://d.hatena.ne.jp/d1021/20080927#1222464173
ところが、このような昔の倫理的な言葉をもちだすと、すぐ、時代遅れだ、現代のグローバリズムの世界では通用しないなどと訳知り顔に説く人がいる。そういう軽薄な心は、内村も引用した「生ける魚は水流に逆らいて游(およ)ぎ、死せる魚は水流とともに流る」という警句を前に反省すべきである。そういう時代の「水流」に、逆らって生きる気力を保持していることが、その人間がまだ「生ける」魂である証しではないか。