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 ところが、日本のMBAホルダーには悪夢のような現実が待っている。「MBAを取得しても給与は上がらず、逆に職探しさえ苦労する。期待と希望は、落胆と失望へと変わる。それが日本のMBA」と厳しい現実を語るのは2005年に早稲田大学ビジネススクールの教授に就任以来、名物教授として知られてきた遠藤功氏だ。


 2016年3月、定年退職年齢の70歳まで10年以上ありながら「結論を言えば、ビジネススクールという『不完全な装置』では、優れた経営者やビジネスリーダーを育てるのはできない」「MBAという『金メッキの勲章』には何の価値もない」と退任し、『結論を言おう、日本人にMBAはいらない』(角川書店)を執筆したのだ。


 遠藤氏は、「経営においては『経験』こそが最大の学び」と説き、「経験を積むことのできる『実践の場』を学生に提供できない」日本のMBAは「なんちゃってMBA」だという。


「多くの学生は、仕事のかたわらビジネススクールに在籍し、実ビジネスから隔離された教室に閉じこもり、捻出した限られた時間のなかで与えられた教科書を読み、現実感の乏しいケーススタディをこなし、卒業に必要な最低単位を取得し、MBAを手に入れる。たったそれだけの努力で『自分は“経営のプロ”になった』と勘違いする輩も多い」


 日本のMBAが提供するプログラムは企業の過去と現在を分析する定量的分析理論、手法ばかりなのだ。このため、“経営のプロ”といいながら生み出されるのは“分析屋”ばかりになる。「MBAという『分析屋』は『できない理由』を列挙するのは得意」だが、それでは未来を切り開くことができないのだ。


 遠藤氏は一例として自らの「経営戦略」の授業のゲストスピーカー・マザーハウス社長の山口絵理子氏とMBA学生との象徴的なエピソードを挙げる。


 マザーハウス社長の山口絵理子氏といえば、2006年に「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をビジョンとして掲げ、アジアの最貧国バングラデシュのジュートを材料にしたバッグの工場を設立し、日本での販売を始めた女性起業家だ。現在は業務を拡大し、いまでは年間売上高30億円を目指す成功ベンチャーの1つになっている。


 創業当初、遠藤氏の授業で、MBA学生たちに彼女のビジネスプランへの評価を発表させたところ、「発表した学生全員が山口さんの挑戦に否定的な内容の発表をした。バングラデシュという国を調べ、政治的不安定さ、インフラ整備の遅れ、品質の悪さなどを指摘し、バングラデシュでの生産はうまくいかないと論じた。また、バッグ市場や消費者の嗜好性についての情報を集め、『「メイド・イン・バングラデシュ」のバッグなど誰も買わない』と決めつけた。(略)『山口さんの挑戦はうまくいかない』と結論づけたのだ」。


 MBAという、イノベーションに否定的な分析屋ばかりでは、日本は停滞するばかりになってしまう。一方で「山口さんは『どうしたらできるか?』を常に考えている。自分の眼で現実を直視し、どんな困難があろうが自分の力で未来を切り拓こうとしている。そんな人に、過去の数字など何の意味も持たない」。


 未来を切り拓くために必要なのは分析ではなく、行動だ。実はこうしたMBA批判をしたのは、遠藤氏が初めてではない。米国の「MBAプログラムは(略)重大な欠陥を抱えており、総合的なマネジメント教育とは言えない。『間違った人間を間違った方法で訓練し、間違った結果を生んでいる』」と2004年に経営学者のヘンリー・ミンツバーグが『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社)で痛烈な批判を行っているのだ。MBA教育の中心であるケーススタディは教師のシナリオへの誘導が中心で、学生たちはいかに教師に喜ばれる議論を展開するかを競い合う。このため、偏執的な計算重視の利己的な個人主義を育み、「ビジネススクールの二年間で、学生は顧客のニーズと商品の品質より株主価値を重んじるようになる」「会社のオーナーに少しでもたくさんのものを提供しようとし、それ以外の人間をすべてコケにするのだ」。


 MBAホルダーは、分析がしやすい、データがふんだんにある古い産業(日用消費財産業)への就職を好み、データのない新興企業、ハイテク企業の起業には二の足を踏む。「社会に出て雇用を創出し、GDPの増加に貢献する起業家を輩出することはビジネススクールに期待されているとすれば、その点でビジネススクールが成功しているとは言えない」という研究者の声をミンツバーグは紹介する。


 それでも、アメリカでも実際に成功をするMBAホルダーは一握りはいる。その成功者を前面に押し出してブランド化を図っているのが本場・アメリカのMBAなのだ。

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http://d.hatena.ne.jp/d1021/20170109#1483958249