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ヨルダン東部アズラクに設けられたシリア難民キャンプでは、2児の母であるサミール・サボーさんが食料品の買い物代金を支払う際に、懸命に目を見開いていた。国連が手がける虹彩認証(瞳孔の周囲の虹彩パターンを通じた個人識別)の決済システムを利用するためだ。

このキャンプで暮らす4万人弱の難民の多くは、キャッシュレスでカードも必要ない同システムの利便性はよく分かっているが、好ましいと思う人は少ない。

2015年にアレッポから脱出してきたサボーさんも「本当にうんざりする。1回では認証されず、2回か3回はかかる。個人的には指紋認証の方がましだ」と話した。

国連世界食糧計画WFP)は2017年、「ビルディング・ブロックス」と呼ぶブロックチェーン技術に基づいた支援プラットフォームを導入。現在ではヨルダンとバングラデシュで生活している100万人余りの難民向けに展開している。

WFPによるとこれを用いれば、現金や食糧、水、医薬品といったさまざまな種類の支援の追跡や調整、配達が可能となり、約250万ドル(約3億4000万円)の銀行手数料が節約できたという。

<実験動物>

しかしデジタル人権団体は、そうした新技術を難民など立場の弱いグループに使用することや、彼らが大事な身体に関するデータを食糧と引き換えに提供してしまうことに疑問を投げかけている。

ハーバード大学のバークマン・クライン・インターネット・社会センターのペトラ・モルナー研究員は「難民たちは実験動物になっている」と非難し、こうした実験が社会の片隅に追いやられている人々を対象に行われている事態に困惑を隠さない。

モルナー氏は「地元の食料店で突然、虹彩認証システムが既成事実化されたら、住民は武器を持って暴れ出すだろう。そんなことが難民キャンプではまかり通っている」とトムソン・ロイター財団に語った。

また支援が頼りの難民に、個人情報提供に同意するかどうか決める権利が果たしてあるのかと問う声も出ている。

チュニジアで人権問題を調査研究しているディマ・サマロ氏は「同意問題には疑問符がつく。難民が同意を与えるのは納得したからか、それとも強制されたからなのだろうか」と述べた。

これに対して国連難民高等弁務官事務所UNHCR)の広報担当者は、難民から個人データ収集の同意を得る際に、その目的を説明していると主張。「UNHCRは身体データを他のどのような組織とも共有はしていない」と明言した上で、もし難民が虹彩認証システムを使わないと決めても同じレベルの支援を受けられると付け加えた。

<保護法制の欠如>

戦争や貧困、迫害から逃れる人が増え、世界中で自然災害も記録的な規模で発生している中で、各国は入国者の動きを追う上でデジタル技術を駆使するようになってきた。

ただ各国や支援機関などがこれらの技術は効率性を高め、無駄な資源投入を減らすと強調する一方で、立場の弱い難民などは監視対象になったり、個人データを商業利用されたりするとの批判がある。

デジタル人権団体アクセス・ナウの中東・北アフリカ政策マネジャー、マルワ・ファタフタ氏は「これらのデータが悪意を持つ者たちの手に渡ったらどうなるか」と述べ、強力な個人情報保護法制が整備されていない国にいる難民は、法的な守りという面も乏しいと警鐘を鳴らした。

ファタフタ氏は「個人識別のために身体データを集めるという行為は、相当侵害的な認証方法だ。必要不可欠でも相応な措置でもなく、国連が本来従うべきプライバシー保護の国際基準に違反している」と訴えた。

UNHCRは既に、バングラデシュロヒンギャ難民キャンプで個人データを収集した問題で批判に直面。人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは昨年のリポートで、データの及ぼす影響に関してUNHCRが全面的な調査をしなかったばかりか、幾つかのケースでは難民データをミャンマー政府と共有することに同意を得ていなかったと指摘した。ミャンマー政府はロヒンギャを迫害した当事者だ。

<歓迎の声も>

国連から委託され、アズラクのシリア難民キャンプで虹彩認証決済システムを実際に運営しているアイリスガードのディレクター、サイモン・リード氏は、同社としてはいかなる難民データも保存していないと説明。暗号化機能が内部にあり、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)も順守していると話す。

シリア難民の1人、モハマド・ジャバーさんは、自分の身体データに誰がアクセスしたかは気にならないし、USHCRを信頼していると述べた。

この決済システム導入まで、ジャバーさんはデビットカードのようなIDカードを使わざるを得ず、すぐどこか違う場所に置き忘れたり、暗証番号を忘れてしまったりする面倒な問題があったが、「以前よりずっと状況は良くなった」という。

#コンピューター化#個人データ#身体データ#プライバシー権

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