https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

10月末の政策決定会合前でも、今、日銀が政策変更するとしたら、①YCC再修正・放棄、または②マイナス金利政策の解除だろうと指摘されていた。

マスコミ報道でもYCC再修正が予想されていたが、結局は「現状追認の微調整」に終わったと筆者は考えている。日銀はYCCの放棄はもちろん、この枠組みの変更はできない。

それはなぜか。政策変更をすれば、さらなる長期金利上昇を日銀自身が招くことになるからだ。金融システムの大混乱し、日銀自身が死に体になる。

長期国債の爆買で長期金利を低く抑えつけるYCCは、そもそも、オーソドックな金融論では中央銀行の禁じ手だ。「短期金利中央銀行長期金利はマーケットが決める」がオーソドックスな金融論の教えであり、世界の金融界の常識だ。したがって長期金利を政策目標にしている中央銀行は日銀以外、他には昔も今もない。

かつて日銀自身が一般向けホームページ「教えて!にちぎん」にそう書いていた。しかし、異次元緩和に手を染め国債の爆買いを始めた結果、そのオペレーションとの整合性をとるためか「長期金利はコントロールできる」と変えたのだ。

日銀が長期金利政策金利をゼロ%としながらも、上限を0.25%、0.5%、1.0%に段階的に変え、今回は「1.0%を多少超えても可」とするに至った。市場の圧力に敗れ上振れさせてきたことは、「中央銀行長期金利をコントロールすることなどやはり無理」の証明でもある。

日銀が長期金利をあるレートに設定をすると、金利上昇の際、市場圧力の増加に対応するため、過度の国債買いオペ(お金のばらまき=量的緩和の加速)を迫られる。お金をばらまかないと、長期金利上昇を止められない。お金のバラマキは景気過熱、インフレ促進であり長期金利を抑えようとして、逆に市場の長期金利を押し上げてしまうのだ。

長期金利の上限(あるいは上限目途)の度重なる引き上げは、日銀が市場の圧力に屈してきた結果である。いずれ日銀は長期金利のコントロール自体が不能となり、長期金利の市場金利は、虎を野に放つ勢いで暴騰すると私は思っている。

なお、今までの中央銀行は(短期金利の話だが)政策金利を動かすことによって市場金利をコントロールしてきた。市場金利をコントロールできなくなった中央銀行中央銀行の体をなさない。

長期金利が1.0%になると、日銀や日本の金融システムはどうなるのか。金利上昇は債券価格の下落を意味する。つまり様々な金融機関の保有債券評価額(評価損、いわゆる含み損)が拡大することになる。

債務超過になると何が怖いのか。時価会計ベースで「債務超過になる」とは資産、負債両サイドを現時点で現金化した場合、借金等の負債を全部返済するのには現金が不足するということ。民間銀行だと「取り付け騒ぎ」のリスクが生じる。

よく「債券は満期になれば元本がきちんと返ってくるから問題ない」と主張する人がいるが、債権者は債券の満期までその企業からの資金回収を待ってくれない。リーマンその他多くの企業がこのケースで資金繰り倒産している。

中央銀行の信用が傷つけば、発行する通貨の信用は失墜する。日銀自身が、このことを十分認識しているのは明らかだ。雨宮正佳・日銀副総裁(当時)は、日本金融学会の2018年度秋季大会で「マネーの将来」と題した特別講演を行い、こう発言した。

「もちろん、中央銀行への信用がひとたび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」

一般の方は、日銀に預金ができないから日銀の口座にはなじみが薄い。しかし、日銀当座預金とは日本経済にとって極めて重要な口座だ。

日本の経済的取引の最終決済は、この口座で完結する。たとえば、手形交換。約束手形手形交換所で交換されるが、その裏の資金決済(各銀行の勝ち負けをネットアウトした金額の決済)は日銀当座預金口座を通じて行われる。国債取引、株取引、内国為替、外国為替、すべてそうだ。

日銀当座預金を閉鎖した場合、日本国内でのあらゆる銀行業務はできなくなる。民間金融機関が日銀検査を異常に怖がる理由の一つである。日銀当座預金閉鎖は銀行業の廃業命令と同義である。

米銀が日銀当座預金口座を閉鎖するとは日本での銀行業務から撤退することを意味する。さまざまな弊害があるが、特にドル/円の取引が不可能になるのが怖い。

ドル/円のリンクがはずれれば、円はローカルカレンシー(地域通貨)化する。そんな通貨を世界は相手にしない。貿易でも、為替市場でも円は受け取ってくれない。円の大暴落だ。

制裁のためにスイフト(国際金融取引の決済ネットワーク)から除外されたロシア・ルーブルと同じ状態になる。ロシアは産油国であるため、「ルーブルでなければ原油を売らない」と脅しかけルーブルの価値をある程度保つことができたが、円にそれは期待できない。

撤退の意思決定は米銀審査部のごく少数の幹部や経営陣が秘密裏に行うだろう。

経済評論家やマスコミは、物価上昇を抑えるために「YCCを撤廃するべきだ」と主張する。もちろん植田総裁は十二分にわかっている。

しかしYCCを撤廃すれば、長期金利1%をはるかに超える。債務超過、円のローカルカレンシー化、すなわち大暴落の引き金をひいてしまう。そうなればハイパーインフレに一直線だ。日銀にYCC廃止などできるわけがないのだ。

外資の日銀当座預金閉鎖は一晩で起こりうる。その時、日本円しか持っていない日本人はどうやって資産を守るのか。そんなリスクを背負うことを賢明だとは思わない。

なお、金融論的には、「中央銀行債務超過に陥っても大丈夫な条件」が3つある。

① 債務超過が一時的である。
② 金融システム救済のために債務超過になるが中央銀行自体のオペレーションは健全である。
③ 国家の財政が健全化に向かっており、近い将来、税収で、中央銀行債務超過を補塡ほてんできる

との3条件である。米銀の審査部はこの辺を考えながら、日銀当座預金を閉鎖するか否かの判断をすることになるだろう。現在の日銀は上の3条件、どれ一つ該当していない。

先月31日の政策決定会合の際には、YCCのほかに「マイナス金利政策の解除」が可能性として取りざたされていた。

私は、これが日銀の取れる唯一のオペレーションであり、いつかはこれを行うと思っている。しかし、これは「金融緩和政策の変更もどき」であって実質的に何の意味もない。金融緩和の解除などとはお世辞にも言えない。

世界各国の中央銀行は、政策金利の変更を通じて市中金利に影響を与えようとする。銀行間の貸借レートに変化を与え、貸出金利、企業への融資レート、FXのスワップポイントに反映させることを狙う。

FED(米国の中央銀行)も同様だ。現在のFED政策金利5.25~5.5%は、銀行間の1日間の貸借レートそのものだ。だからこそ、FED政策金利を引き上げると市中金利(特に1日物金利)もそれと同じだけ上昇する。

ところが、日銀の金利政策である▲0.1%とは、銀行間の1日間の貸借レートそのものではない。

3層に分かれている545兆円の日銀当座預金市中銀行が日銀の預けてある当座預金)のうち、たった30兆円弱に付利されている金利のことである。いわば日銀に預け過ぎの部分に適用される一種のペナルティーに過ぎない。

実際、11月2日の銀行間の1日間の貸借レートは▲0.011%だ。マイナス金利政策を解除しても、銀行間の1日間の貸借レートがたったの0.011%上昇するだけだ。「マイナス金利解除」と聞くと大イベントのように聞こえるが、実質的に何も起こらないのである。

先日、日経新聞紙上で、前田栄治前日銀理事が「マイナス金利解除では変動金利型の住宅ローン金利は上がらない」と発言していたが、これがその理由。このニュースで為替が多少円高に振れてもすぐ円安基調に戻るだろう。

日銀はインフレが加速しても何もできないのだ。インフレに対処しようとすれば日銀が自滅してしまうからだ。円の暴落を恐れて、何もしなければ、円はとめどもなく下落を続ける。暴落よりはスピードが遅くなるが、と言うだけの話だ。

さらには長期金利の上昇を抑えるため、お金を回収するどころか、今後もバラマキ続けなければならない(=国債買いオペを継続)。単年度の財政が黒字になるか、はたまた、よほどに長期金利が上昇し日銀以外の国債の買い手が現れない限り、保有国債の減少(=市中からのお金の回収=インフレの鎮静化)など夢のまた夢である。すでお金の回収に入っている他の中央銀行とは、どえらい違いだ。

米国がどうなろうと、日本がデフレや景気低迷が続かない限り、日銀はどこかで他国と同様に金利を引き上げなければならない。より重要なのは、バラマキ過ぎた円の回収を図らねばならないことだ。しかし、今の日銀にそれはできない。

日米金利差が縮小しようがしまいが、日銀の財務は日ごとに悪化(=お金をバラマキ続けている)し続け、改善は全く不可能だ。ばらまいたお金を回収に入っている欧米の中央銀行と、バラマキを継続せざるをえない日銀の違いはどえらく大きい。金利差など小さな問題なのだ。

Bloombergの報道によると、著名投資家のドラッケン・ミラー氏は最近「米財務省が事実上のゼロ金利を利用して長期の国債発行を増やさなかったのは『史上最悪の失策』だ」と批判したそうだ。

金利が低い時に長期債で資金調達をすべき」はオーソドックスな金融論の教えるところであり、私もJPモルガン時代は、その原則にのっとってオペレーションをしていた。基本のキである。ドラッケン・ミラー氏は、もっと長い期間の長期債を低金利時代に発行すべきだったと米財務省を非難したのだ。

対して日本である。日銀は、統合政府論の実践である「財政ファイナンス」(財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を中央銀行が通貨を増発して直接引き受けること)を事実上実践してきた。

これは統合政府で考えると「せっかく政府が長期国債を発行したのに、日銀が、日銀当座預金という1日のお金に変換してしまった」ことを意味する。米財務省が「長期債の代わりに短期債を多く発行した」どころの話ではない。「長期債の代わりに1日間という極超短期のお金で資金調達をしている」状態を意味する。

金利上昇に対して、とんでもないほど脆弱な国家を作り上げてしまったのだ。この状態を元に戻すのはもはや不可能もいいところである。

最近、海外のマスコミも日本や日銀に厳しい目を向けるようになってきた。だんだん、日銀や円の厳しい実情が、海外にバレ始めてきたようである。

Bloombergは11月2日、「円はトルコ・リラやアルゼンチン・ペソと同じ部類」というドイツ銀行の為替調査グローバルヘッド、ジョージ・サラベロス氏の主張を紹介した。

このような記事が多くなり、多くの外国人が日銀や円の実態を知るようになれば、Xデイは間近に迫っている。米銀の日銀当座預金の閉鎖も可能性も一段と現実味を帯びてくるだろう。

そうなれば円の紙くず化が近い。保険の意味でもドルを買っておいた方がいいという私の主張を理解していただけるのではないだろうか。

#ドル/円(藤巻健史「『日本円の紙くず化』は最終ステージに突入」)
#アベノミクス#リフレ#金融政策#円安政策(藤巻健史金利上昇に対してとんでもないほど脆弱な国家を作り上げてしまった」)

d1021.hatenadiary.jp

#日銀(植田和男総裁「大規模な金融緩和策からの脱却を慎重に進め、債券市場に大きな変動を引き起こさないようにしたい」・FTインタビュー)

d1021.hatenadiary.jp

#ドル/円(ピーター・セント・オンゲ博士「日本円が崩壊しつつある」)