https://d1021.hatenadiary.com
http://d1021.hatenablog.com

今年2月、週刊文春に「豊田章男トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか」と題する「巨弾レポート」が掲載された(2月29日号)。「『全部愛人だと言われている二人の側近女性』との本当の関係」という思わせぶりな見出しもある。

しかし決定的に重要なのは、目次の見出しにある「現役社外取締役が実名告白『一家言ある副社長を次々放逐した』」とある部分である。コーポレートガバナンスの観点からいえば、これは歴史を画する「巨弾」と評価できるだろう。

そのときの記憶は、上記日経の「私はトヨタで主権を現場に戻し、どんな立場・出身であっても、経営に参加できるようにした。これが私流のガバナンスだった。トップの方々には、現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築を目指したいということを話した」という部分と重なる。そうなのだろうなあ、と改めて感じるのである。

そのトヨタについて週刊文春が伝えたのは、トヨタの独立社外取締役である菅原郁郎元経産省事務次官の言である。なんと豊田章男氏について、「昔は一家言持っている人たちが周りにいた。でも二〇年頃からかな、副社長を次々放逐したり、三人置くと言ったり。それで置いた人もまたいなくなって。章男さんに引き上げられた人ばかりで、率直に物を言う人がいなくなりました」と述べたというのだ。

記事は菅原氏に「さらに聞くと『章男さんは変わってしまった』と言って、こう言葉を継いだ」と続く。そうした菅原氏の発言が決定的に重要であると私は思っている。

菅原氏の発言についての記事はさらに以下のとおり続く。

《──イエスマンで固めたい?

「結果としてね。でも、役所出身の僕は媚びる必要がないから。取締役会で異論を言うのは僕くらい。だから、場が凍ります。執行役員が『会長の了解済み』という案件でも、僕は『おかしい』と言う。章男さんは『その通りだね』と受け止めることもあれば、意に沿わない時は『あなた、クルマ屋じゃないから本当にわかってない』と言われることも。是々非々です」

──B子さんらの登用は?

「周りの連中がブツブツ言っているのは、耳に入っていました。役所とか普通の組織だったら、何らかの形で整理します。リスクを取り除くという意味でも」

──日経新聞が嫌いだと。

「揉めたらしいけどね。メディアもだらしない。物事を正しく伝えるのが仕事なのに、テレビも新聞も提灯記事しかやらないから」

──グループ三社で不正が。

「心配なのはむしろ下請けの人たち。四・九兆円の利益(今年三月期の連結営業利益見通し)を出していたけど、何一人で儲かっているのか、と。下請けも含め、歴史的な増収増益なら立派だけど、そうじゃない。これをどう還元していくのか」

──では、トヨタ本体の不正は大丈夫なのか。

社外取締役として何度も確認しているけど、みんな『大丈夫、大丈夫』と。ただ、生産台数は凄いし、次々新しい車種が出ます。どこかで変えないと。でも、章男さんにはそういうの、届かないんだよな……」

そう語るのだった。》

#牛島信

d1021.hatenadiary.jp

議決権行使助言会社のグラスルイスは28日までに、トヨタ自動車(7203.T), opens new tabの豊田章男会長の取締役選任議案に反対するよう株主に推奨した。

「取締役会が十分に独立性を保っていない」ことが理由。早川茂副会長の選任も「その他のガバナンス上の問題」を理由に反対を推奨した。

2023年春闘から賃金上昇が目立つようになった。しかし、これは、賃上げを販売価格に転嫁することによって実現しているものだ。賃上げによって消費者物価が上昇するため、実質賃金は上昇しない。この状況が進めば、スパイラル的な賃金と物価の上昇に陥る危険がある。

企業は、原材料価格の高騰分を販売価格に転嫁する。これは、これまでも行われてきたことであり、日本の消費者物価はそれによって上昇した。今回は輸入物価の上昇率が非常に高かったために、はたして完全な転嫁をできるかどうかが、当初は疑問視されていた。

しかし、実際には、原価上昇分をほとんど消費者物価に転嫁できた。大企業は取引上優位な立場にあるので、ほぼ完全に転嫁できただろう。このため、企業の粗利益(売上げー原価。なお、これは付加価値にほぼ等しい)が増えて、賃上げが可能になった。

また、賃上げを販売価格に転嫁するという見通しもついたのだろう。少なくとも、大企業についてはそうである。

つまり、これまでのように海外のインフレが国内の消費者物価に転嫁されるのではなく、国内での賃上げが消費者物価に転嫁されるとプロセスに変化してきている。

これは、1973年に生じた第一次石油ショックで、世界の多くの国が悩まされた現象だ。原油価格が上昇するために輸入物価が上昇し、国内物価が上昇する。これに対応するため賃金を引き上げる。労働組合が職種別組合になっている欧米諸国、とくにイギリスでは、この動きがことに顕著に生じた。その結果、イギリス経済は危機的な状況に陥ってしまったのである。

今回の世界的インフレの発端は、2021年頃にアメリカで生じた賃金上昇だ。これはITなど先端分野において顕著に生じた。

コロナ禍でもITに対する需要は強かったため、この分野の専門的な技術者の賃金が上昇した。この結果、消費需要が増大し、インフレーションが生じたのである。これは需要の増加が価格の増加をもたらしたという意味で、「デマンドプル・インフレーション」と呼ばれる。

デマンドプル・インフレーションは、このように生産性の上昇に始まり、財・サービスに対する需要の増加、したがって、経済成長率の高まりをもたらす。その意味で、健全な形の物価・賃金の上昇だと言うことができる。「物価と賃金の好循環」とは、このようなプロセスだ。

それに対して、現在の日本の賃金上昇は、新しいサービスが開発されて、専門家の価値が高まったことが出発点になっているわけではない。つまり、生産性の上昇を伴わないものだ。物価が上がるから、賃金を引き上げざるを得なくなったのだ。そして、物価が上昇したために企業の利益が増加することによって、それが可能になった。後者は、賃金の上昇を転嫁したということである。つまり、最終的には消費者の負担において賃上げを行なっている。

結局のところ問題は、賃金上昇が何を原資として行われるかである。望ましい形の賃金上昇とは、新しい技術や新しいビジネスモデルによって労働者の生産性が高まり、それを反映して賃金が上昇するものだ。

それに対して、いま生じているのは、消費者の負担によって賃金を上昇させるメカニズムだ。多くの人々は賃金の受取り手であると同時に、消費者でもある。したがって、自分で負担して賃金を上げているにすぎない。だから、このプロセスによって格別に利益を受けるわけではない。

賃金が上昇しない人々は、物価上昇の影響だけを受ける。そして生活水準が低下する。こうした人々は、給与所得者の中でも、中小零細企業の勤務者に多い。また、フリーランサーや零細事業者など、取引上優位に立てない人々も、販売価格の引上げで賃上げを実現することなど、とても望めない。これらの人々が、ここで述べたメカニズムの最大の犠牲者だ。

#野口悠紀雄

d1021.hatenadiary.jp

#マーケット