歴代のトート役者は、髪型やメイクなどの外見から、内面の表現に至るまで、それぞれの個性が最大限生きるよう工夫をこらしてきた。
だが、大きな流れでいうと、歴代トートの変遷は、「黄泉の帝王という、人間離れした絶対的な存在」としてのトートと、「神でありながら、生きた女性を愛してしまう、ひとりの男としてのトート」との間を揺れ動く過程であったように思う。
そして今回、7代目の瀬奈トートはというと、どちらの極への触れ幅も大きく、なおかつ両極の間で絶妙なバランスの取れた、「完成度の高い」トートであったと思う。
このトートならばエリザベートも迷わず飛び込んでいけるだろう、という説得力十分の、美しく、強く、優しいトートであった。
この図式は、初演時からはっきりしていたわけではないだろう。回を重ねるごとに「発見」されていったのである。
時とともに、役者とともに、成長し、進化し続ける「エリザベート」。その過程をダイレクトに見守り続けることができる、そこに、この作品が多くの人を惹き付けてやまない理由があるのだろう。