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【記者会見】白川総裁(8月10日) (PDF, 188KB)

(問) 本日の金融政策決定会合の結果について、簡単にポイントをご説明下さい。


(答) 本日の決定会合では、「無担保コールレート・オーバーナイト物を、0.1%前後で推移するよう促す。」というこれまでの金融市場調節方針を維持することを全員一致で決定しました。
こうした決定の背景となる経済・物価情勢についてご説明します。まず、わが国の景気は、先月の中間評価に沿った動きを続けており、「海外経済の改善を起点として、緩やかに回復しつつある」と判断しました。具体的に申し上げますと、輸出や生産は、新興国経済の高成長や世界的な情報関連財需要の拡大などを背景に増加を続けています。鉱工業生産指数は、季節的要因の影響を除く際に、金融危機以降の大幅な落ち込みの影響を正確に調整することが難しいことなどから、数字だけではその実勢が読み難くなっていますが、企業ヒアリングから得られる情報等も踏まえて、増加を続けていると判断しました。
設備投資は、企業収益が改善を続けるもとで、持ち直しに転じつつあります。雇用・所得環境についても、引き続き厳しい状況にはあるものの、その程度は幾分和らいでいます。個人消費は、各種対策の効果から高い伸びを続けてきた耐久消費財需要が、このところ増勢を鈍化させていますが、全体としては持ち直し基調を続けています。このように、わが国経済は、輸出や生産の増加の影響が国内民間需要に波及する動きが引き続きみられています。
次に、金融環境をみると、緩和方向の動きが続いています。ターム物金利が低水準で安定的に推移する中で、企業の資金調達コストは引き続き低下傾向にあります。CP・社債市場では、相対的に改善が遅れていた低格付社債の発行環境がこのところ一段と改善しており、全体としても良好な状況となっていることが一層明確となっています。企業の資金繰りについても、総じてみれば改善の動きが続いています。
物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、経済全体の需給が緩和状態にあるもとで下落していますが、高校授業料無償化の影響を除いた基調的な動きをみると下落幅は縮小を続けています。
先行きの中心的な見通しについても、先月の中間評価から変更はありません。わが国経済は、昨年の第4 四半期以降、他の先進国と比べても高い年率4%を超える高い成長を続けてきましたので、ここにきて、さすがに伸び率自体は低下するとみられますが、引き続き回復傾向を辿ると判断しています。
物価面では、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想定のもと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、下落幅が縮小していくと考えています。
次に、リスク要因についてご説明します。景気の上振れ要因としては、新興国・資源国経済の更なる強まりなどが挙げられます。一方で、国際金融面での動きなど下振れリスクもあると考えています。国際金融資本市場は、市場が最も注目していた欧州ストレステストの結果の公表を受けて、欧州金融機関のCDSプレミアムが低下し、米欧株価も小幅上昇するなど、ひとまず落ち着きを取り戻しましたが、米国の経済指標などに振れやすい不安定な地合いが続いています。一部欧州諸国の財政・金融状況を巡る動きなどが、国際金融資本市場の動きを通じて、世界経済、ひいてはわが国経済に与える影響には注意する必要があります。物価面では、新興国・資源国の高成長を背景とした資源価格の上昇によって、わが国の物価が上振れる可能性がある一方、中長期的な予想物価上昇率の低下などにより物価上昇率が下振れるリスクもあります。
日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安定のもとでの持続的成長経路に復帰することがきわめて重要な課題であると認識しています。そのために、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針です。金融政策運営に当たっては、きわめて緩和的な金融環境を維持していく考えです。


(問) 米国、欧州の回復の持続性について不安視する声が聞かれていますが、この点について総裁の考えをお聞かせ下さい。


(答) 米国経済は、先般発表された本年第2 四半期のGDPや先週発表された雇用統計を初めとして、回復テンポの減速を示す指標がいくつかみられますが、全体としてみると緩やかに回復していると判断しています。
日本銀行は、わが国のバブル崩壊後の経験から、バランスシート調整の厳しさについて、もともと市場参加者や国際機関などよりもかなり慎重な見方をしており、本年の比較的最近までのやや楽観的な市場の見通しについては、多少、私どもの判断との間に距離感があると感じていました。私どもは、米国経済について、4 月末の展望レポートや先月の中間評価では、その回復テンポが緩やかなものに止まるという慎重な見通しを持っており、現在の米国経済の姿は、こうした私どもの慎重な見通しに概ね沿ったものと考えています。
日本銀行としては、日本経済について――もちろんリスク要因について注視する必要があることは言うまでもありませんが――こうした米国経済の慎重な見通しを前提として考えており、現在までのところ、展望レポートで示した標準的な見通しの枠の中で動いていると判断しています。
次に、欧州経済についてです。金融市場の動向やストレステストについては先程申し上げた通りですが、この春先以降に金融市場が不安定であったにもかかわらず、足許の経済指標は比較的強い内容となっているとみています。
しかし、米国同様に欧州も、2000 年代半ばにかけての大きな信用バブルの拡大、崩壊あるいは調整、さらにはそのもとで生じているソブリンの問題、こうした調整圧力を引き続き抱えていると思っています。経済には、その時々の上昇・下降はもちろんあるわけですが、私どもとしては、米国同様欧州についても慎重にみています。


(問) 米国経済が減速する中で円高が進行していますが、これが日本経済に与える影響は如何か。また、これまでリスクバランスは上下にバランスしていると判断されているが、とくに下方向のリスク状況は如何なのか。また、こうした中で、追加金融緩和の必要性があるのか。この3 点についてお聞かせ下さい。
(答) 米国経済については、先程ご説明しましたので、まず、為替の影響についてですが、このところ円の対ドル相場は円高傾向を辿っています。一般論として申し上げると、円高の進行は、短期的には、わが国の輸出や企業収益の下押し要因となります。もっとも、それが経済全体に与える影響は、世界経済全体の情勢、企業の売上や収益の動向、更には、金融環境の動向など、様々な要因に依存することも、バランスよく認識する必要があります。この点、世界経済は新興国等に牽引されて回復を続けているほか、企業収益や企業の景況感は引き続き改善しています。金融環境という点では、このところ円高と並行して長期金利も幾分低下していますが、そうした中で企業の資金調達コストの低下傾向が続き、企業収益との対比でみた低金利の緩和効果が強まっているほか、企業の資金繰りも総じて改善しているなど、緩和方向の動きが続いています。こうした点を踏まえると、今のところ、わが国経済は、4 月末の展望レポートや先月の中間評価の想定に沿って回復傾向を辿ると判断しています。
もちろん、米国経済や為替相場の動向は、日本経済に大きな影響を与え得る要因であると思っています。日本銀行としては、その可能性も十分意識した上で、引き続き、注意深く点検するとともに、日本経済を取り巻くグローバルな経済・金融情勢の動向も踏まえながら、バランスよく総合的に評価していきたいと考えています。
次にリスクバランスについてですが、前回の会合では、不確実性は高いものの、わが国経済に関するリスクバランスは概ねバランスしていると判断しました。今回も、前回会合以降に公表された各種の経済指標やデータ、企業からのヒアリング情報を丹念に点検した結果、前回までの判断を大きく変える材料はないと判断しました。ただ、様々な動きが生じているだけに、注意深く検していく必要があるという認識でした。先程の説明と多少重複することを承知の上で申し上げると、わが国経済の上振れ要因としては、新興国・資源国経済の更なる強まりが挙げられます。一方で、引き続き、国際金融面での動きなどを下振れリスクとして認識しました。前回会合との比較で言いますと、国際金融資本市場では、市場が最も注目していた欧州金融機関のストレステストの結果公表などを受けて、ひとまず落ち着きを取り戻す方向に好転しています。
もっとも、一部欧州諸国のソブリン問題などを背景に、依然として不安定な状況が続いていることに変わりはありません。また、為替市場では、米国経済の先行きを巡る不透明感を意識した動きがみられています。こうした動きが実体経済に与える影響については、引き続き、十分に注意する必要があると思っています。
前回も申し上げたことですが、リスクバランスの評価の仕方は、従来以上に難しくなってきていると思います。上振れ要因、下振れ要因を挙げて、どちらが勝るかという捉え方だけでは、わが国経済が直面しているリスクを必ずしも適切に捉え切れないと考えています。2つだけ例を挙げたいと思います。
高い伸びを続けてきた中国向けの輸出の増加テンポは、中国における一連の措置の効果もあって、足許では幾分鈍化しています。これは短期的には下振れリスクと分類されるわけですが、これまでのような高い伸びを続けるほど、その後の反動減が大きくなることを考えると、景気拡大の持続性という、より長期的な観点からは、むしろこれはプラスに評価されるべきかもしれません。また、現在は、大きく整理すると、先進国は景気の下振れリスク、新興国は上振れリスクが意識されているわけですが、その場合、先進国における金融緩和の長期化予想、あるいは先進国における景気の下振れの可能性を意識した新興国の金融緩和修正の遅れが、新興国への一層の資本流入を促進し、これが新興国の上振れをもたらす可能性もあります。つまり、先進国の下振れが新興国の上振れをもたらすかもしれないという側面もあります。そういう意味で、私どもとしては、経済・金融がグローバル化しているもとでは、新興国、先進国に関する上下のリスク要因は複雑に絡み合っており、リスクが顕現化する経路も一様ではなくなってきていると思っています。日本銀行としては、こうした点も念頭に置きながら、わが国経済を巡るリスクとその影響をしっかりと点検していく必要があると考えています。


(問) 本年度第1四半期の企業決算をみると、比較的改善が鮮明になってきていますが、先行きについては慎重な見方が多く、為替について気になるという発言が多く聞かれています。為替市場の不安定さが企業マインドに与える影響をどのようにご覧になっていますか。
(答) 本年度第1四半期の決算もそうでしたが、このところ企業収益は、見通しに比べ実績が大幅に上方修正されています。基本的には、企業が将来を慎重にみていくというマインドが、こうした動きにつながっていると思います。
今後を展望した場合に、今ご質問のありました円高は、企業マインドの下振れ要因であると私どもも認識していますし、現実にも、企業のヒアリングを通じてそうした声が多くあがってきています。そのこと自体はその通りですが、先行きの景気判断に当たっては経済全体をバランスよくみていく必要があります。昨年12 月頃に円高局面がありましたが、その後8か月程度経った現在を当時と比較してみると、先程申し上げたグローバル経済あるいは金融環境、企業収益それぞれの面で変化があることも事実です。企業収益の水準はかなり上がっています。金融環境も当時はまだ厳しい評価でしたが、これも随分改善してきたと思います。それから、先進国の景気についても、色々なリスク要因はありますが、当時に比べると回復してきています。円高がマインドの下振れ要因であることを十分認識しつつ、一方でバランスよくみていく必要があります。
そのような観点から点検していきたいと思っています。


(問) 先月、山口副総裁が一般論として、日本銀行はこれまでも今後も為替水準をみて金融政策を決定していくことはないだろう、という趣旨の発言をされましたが、総裁も同じお考えでしょうか。
(答) 今、正確に山口副総裁の発言を逐語的に記憶しているわけではありませんが、先進国の中で、為替相場の水準自体を金融政策のターゲットにしているという中央銀行はないと思います。日本銀行に限らず、先進国のどの中央銀行もそうですが、景気・物価情勢に影響を与える様々な要因を点検して金融政策を運営しています。その意味で、為替の水準や動向は、景気動向に影響を与える1つの要因ですが、そこから金融政策が直ちに決まってくるものではない、という点では山口副総裁と同じ意見です。


(問) 2点お伺いします。1 点目は、前回記者会見の際に、自律的回復に向けた動きがみられるとおっしゃっていたと思いますが、この動きは足許少し強まってきたのでしょうか。2 点目は、政治に関連することですが、一部の衆議院議員の方々が、次回の金融政策決定会合までに公開討論会を設定するよう日銀に要望しているようですが、こうした要望をお受けになるお考えはありますか。
(答) まず、最初のご質問の自律的回復に向けた動きが強まっているのかという点です。これは、今回の公表文にある通り、海外経済の改善を起点として国内の景気に波及してくるというメカニズムが作用している訳ですが、そのメカニズムが足許特に強まっているとは判断していません。この波及のメカニズムはそもそも緩やかであると認識していますが、足許の景気関連指標もこうした判断を裏付けるものだと考えています。
例えば設備投資についてみると、企業収益が回復し、需給ギャップも少しずつ改善してくる中で、先般発表されました日本政策投資銀行による本年度の設備投資計画調査結果でも確認された通り、設備投資は明らかに増加する方向に向っています。もっとも、その増加のテンポ自体は、現在のところは、私どもが4 月の展望レポートで想定した範囲を超えるものではないと思っています。
また、個人消費についてですが、基調的な消費の動きを規定する雇用・所得環境をみると、改善方向の動きは続いているものの依然厳しい状況にあることも事実です。従って、そうしたマイナス要素が徐々に消えていくことによって少しずつ消費も持ち直してくると考えていますが、個人消費に関する最近1か月間のデータをみると、強まったというよりは従来の想定の範囲内で推移していると判断しています。
また、2 番目のご質問である公開討論についてですが、私宛に次回の金融政策決定会合までに公開討論会を設定するようご要望を頂いております。
日本銀行としては、これまで日本銀行法に則って国会に対する説明責任を果たすべく最大限の努力を尽くしてまいりました。日本銀行法第54 条に基づく国会報告――いわゆる半期報告――を行い、その審議に十分な時間を頂いているほか、随時、国会の関係委員会からの求めに応じて、政策運営等に関する説明に努めています。私としても、国権の最高機関である国会という公開の場で、政策運営等について説明することは大変重要なことだと考えており、国会に対する説明責任を果たす努力を続けてきました。今後とも、国会からの求めに応じて、私どもの考え方を丁寧かつ明確に説明することをもって、しっかりと説明責任を果たしていきたいと考えています。


(問) 日本の経済・物価について、先行き緩やかな回復が続くが、海外の影響を受けて回復テンポは減速していくとみていると思います。景気回復が減速する中で、需給ギャップの改善も若干緩やかになるかと思います。日銀としては、景気は標準シナリオ通りに推移しているが、景気減速によって需給ギャップ改善が遅れて、物価の改善が遅れることに関して、現状どのようにみていますか。また、それが企業や消費者マインドへどのように影響しているとみているのかについてお伺いします。
(答) 日本の景気を考えていく上で、世界経済の動向が非常に大きな鍵を握っているという認識はその通りです。先程申し上げました通り、展望レポートで示した基本的なメカニズム、また、前回の中間評価で示した、本年度あるいは来年度にかけての成長率見通しの標準シナリオについては、今回これを変更する必要があると判断しているわけではありません。従って、マイナスの需給ギャップの解消テンポは、もともと緩やかですが、その緩やかな度合いが今回変わったと認識しているわけではないため、物価についての見方もその影響で変わったということはありません。ただ、繰り返し申し上げている通り、上下いずれにもリスク要因があると認識していますので、予断を持つことなく、しっかりと点検していきたいと思っています。


(問) リスクバランスについて、総裁は、現状認識を大きく変える材料はないとのご説明でした。それは、本日の会合で議論を尽くした上での、政策委員会の総意、コンセンサスと言えるものなのか、委員間のバラツキが若干あったのか、詳しくは議事要旨に譲るとしても、可能な範囲で教えて下さい。
(答) 私は、議長として、記者会見では金融政策決定会合での議論を踏まえて発言しています。例えば、政策決定は最終的に何対何で決まった、と明確に言えます。景気の現状認識についても、発表文の内容を最終的に確認するという作業を行っています。今回は全員一致です。そう申し上げた上で、景気・物価に関する足許から将来にかけての認識については、委員の間で、ニュアンスの差はもちろんあります。そういう意味で、私が記者会見で申し上げることはコンセンサスと考える内容を整理したものです。先程私が申し上げた整理に、政策委員会のメンバーが大きな違和感を感じることは、多分ないと思います。いずれにせよ、詳しくは、議事要旨や今後の様々な講演等で確認して頂きたいと思います。


(問) 米国で追加緩和の観測が出ていますが、この点について総裁のご意見を伺います。また、今回の決定会合で、為替についての議論はあったのか教えて下さい。
(答) ご質問の「米国の追加緩和」については、他国の中央銀行の金融政策であり、今晩開かれるFOMCについて、私が感想を述べるのは、不謹慎、不適切と思います。
為替については、本日の決定会合で、随分時間を割いて議論を行いました。為替相場が足許円高方向で推移していることが、企業マインドを含めて日本経済にどういう影響を与えるのかは、私どもにとっても大事な点検ポイントなので、十分な時間をかけて議論を行いました。


(問) 円高の影響については先程コメントがありましたが、どうして円高になっているのか、また、長期金利はどうして下がっているのかについて、総裁の見方をお教え下さい。
(答) 円相場の動きについてコメントするのは、適切ではないと思います。その上で、大きな流れとして市場でどのようなことが言われてきたかを、リーマンショック以降の円相場の動きでみると、2 つのことが言えると思います。1 つは、グローバルな投資家のリスクテイク能力や意欲が低下すると、相対的に安全だと思われている通貨である円に対する需要が高まるという動きです。もう1 つは、円の金利水準が非常に低いため円をファンディングカレンシー(資金調達通貨)とし、相対的に高金利の通貨の資産で運用するといういわゆるキャリートレードがあり、グローバル投資家のリスク認識が高まると、リスクがあるこのキャリートレードのポジションを巻き戻すため、円安から円高の方向になるという動きです。この2 つのことが、折々に、市場ではコメントされてきたわけです。私どもとしては、様々な可能性を念頭に置きながら、円相場の動きを注意深くみていく、その影響を捉えていく必要があると考えています。
それから、長期金利水準についても、為替同様、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思います。その上で、一般的に市場でどのようにみられているかを申し上げると、基本的には、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移する中、わが国経済の回復テンポが緩やかなものにとどまる、という経済・物価情勢に関する先行きの見方を反映したものとみられています。これに加えて、最近の低下の背景としては、米国経済の先行きに対する見方の慎重化を受けた海外金利の低下の影響もあるとみられているほか、企業の資金需要が弱いことを背景とした金融機関の積極的な国債投資姿勢などの影響も指摘されています。
長期金利の低下は、金融環境が緩和的になる1つの要因です。それと同時に、金融機関からみると、リスク管理の観点から大事なことでもあります。
最近、市場の一部では、2002 年から2003 年頃の経験を踏まえて、今回、長期金利が低下し、また反騰することがないのか、との議論もされています。金融機関の国債投資について、リスク管理の観点からみると、金融機関の収益や自己資本の状況が改善してきており、損失の吸収力が高まっていること、こうしたもとで、かつてと比べると国債投資を通じた収益確保のプレッシャーが大きくないこと、さらに2002 年から2003 年頃の経験も踏まえて、様々な手法で金利リスクを計測するなど、金利リスク管理の精緻化にも努めていることなどから、現時点で全体として金融機関が過大な金利リスク量を抱えているとはみていません。ただ、国債保有残高の増加に伴ってリスク量が蓄積される方向にあるとみられるだけに、金融機関のリスク管理体制や有価証券投資の動向などについては、引き続き、注意深くみていく必要があると考えています。


(問) 通常の経済モデルでは想定されていないような、大きな外因性のショック――例えば米国は最近の原油流出問題、世界的にみれば金融市場の混乱といったもの――があると思います。そうしたことに対して、中央銀行や政府などの政策当局は、普段からどのような対応を講じていくべきでしょうか。
また、円高に対しては、日本の企業は過去にもコストのドル化や海外への生産拠点の移管といった努力により対応してきたわけですが、現状ではどのような企業努力が必要だとお考えでしょうか。
(答) まず、外因性のショックに関するご質問についてです。ショックにも様々な種類がありますので、一般論でお答えできるかどうか確信は持てませんが、例えば、日本について考えますと、地震は最も大きな外因性ショックの1つだと思います。こうしたショックに対して日本銀行は、地震という事態のもとでも日本の経済、金融がしっかり機能していく仕組みを確保すること――BCP(Business Continuity Plan)と呼んでいますが――に全力を挙げて取り組んでいます。普段はあまり目立たない取り組みですが、日本銀行の相当の資源を投じて、外因性のショックに備えています。
また、金融危機というショックへの対応として中央銀行にとって一番大事なことは、金融市場や金融システムの円滑な機能を確保することです。この面では、日本銀行はいわゆる「最後の貸し手」として、また、安定的な決済システムの確保のために様々な努力をしています。こうしたテーマについて、本当はもっと時間をかけてマニアックにお話したいのですが、本日は時間の制約もあって全てはお話できません。いずれにしても、このような様々な側面で日本銀行は色々な努力をしています。
また、外因性という度合いはやや低いかもしれませんが、例えば、バブルに対してどう対応するかについては、私どもはそうした事態も念頭におきながら、金融政策の2 つの柱で点検しています。今後も、実際に起きる外因性のショックがどういうものかを念頭に置きながら、様々な対応をしていきたいと思っています。
それから2 番目のご質問ですが、企業は現在様々な努力――それこそ血のにじむような努力――をされていると思います。私自身も個々の分野について感想を抱くことはもちろんありますが、いわば高みからレクチャーをするようなかたちで「こういう部分が足りない」ということは申し上げられません。
企業経営者とは、本来アニマルスピリットを持っている、イノベーションの精神を持っている、そういう方々だと思います。そうした経営者の企業努力が最大限に報われるような経済環境をしっかり作っていくことが政策当局にとっては最も大事であり、レクチャーをするのではなくそうした環境を作ることこそが重要だ、というのが私の基本的な哲学です。日本銀行として何が大事かといいますと、マクロ的に安定的な金融環境を作るということももちろん大切ですし、ささやかではありますが、先般公表した成長基盤強化支援のための資金供給制度もその1つです。日本銀行としてはこの新しい制度についても、単に資金をつけるという即物的な行為だけではなく、そのことを通じて成長基盤が強化されるために何が必要なのか、何がネックになっているかといった点について、議論をもっと興していきたいということです。同制度については、今後色々な対外情報発信もしていきたいと考えています。