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アイリスオーヤマが東京に本社を置かず、株式上場もしない理由|アイリスオーヤマ社長 大山健太郎|ダイヤモンド・オンライン

東日本大震災で被災企業となった経営者として今回の熊本地震に対する思い、そして、東北復興と地方創生、さらに株式上場などについて大山社長の考えを聞いた。

――2011年の東日本大震災後に仙台経済同友会の代表幹事に就任され、復興にも熱心に取り組まれてきましたね。


大山 それまでは本業優先で財界活動とは距離を置いていました。しかし、「震災で全国の皆さんからあれほどご支援を得ながら、地域を代表する企業が自分の損得だけで考えてはいけない」とお引き受けしました。


 ただし、引き受けたからには地方創生のフロントランナーになる、という意気込みでやっています。


――復興にあたってさまざまな提言をなさっていますが、一方で失望を感じられることも多いと聞きました。


大山 被災地と政府では、「復興」という言葉の意味が真逆です。私たちは、「復興なのだから地域の将来につながるような施策を実現したい」と考えます。しかし、政府の復興とは「復旧」にすぎないのです。


 政府の論理は、「30兆円にもおよぶ金を国中から集めてきて、その金で新しいことをやられたら他の地域の産業を潰すことになる」というものです。だから震災前の状態に戻す「復旧」なのです。その論理は、国の公平性の視点では至極当然なものです。ならばなぜ「復旧予算」と言わずに「復興予算」と言っているのか。そういう点は首を傾げたくなりますが、それが政治なのでしょう。


 それならば、「復旧は速やかに、復興は時間をかけて付け焼き刃ではない取り組みをしよう」と考え方を変えました。復興に予算が回らないなかで地方が元気になるには人材育成しかないと思いました。


――東北未来創造イニシアティブの「人材育成道場」が生まれたきっかけですね。これはセミナーのようなものなのですか。


大山 全然違います。まさに道場です。私が塾長で、みっちりと勉強を重ねます。拠点は気仙沼、大船渡、釜石の中小企業経営者で、塾生4人で1チームをつくり、秘密保持契約を結んで経営情報も開示してもらい、これからの事業展開について議論を重ねます。


 チームには、4大監査法人から派遣された会計士や日本政策投資銀行マッキンゼーなどのコンサルがメンターとして付き、さらに博報堂の協力も得てマーケティングなども議論します。


 地元の経営者は親の会社を引き継いだといったケースが多く、これまで事業や財務の戦略教育を受けてきた人は少ない。「夢だった仕事がある」と言うので事業化できるかどうかを議論をすれば、終いには「お前らは俺の夢を潰す気か」と反発する人もいました。しかし、そうした取り組みこそが人を育てるのです。

――大山さんの地方再生についての考えをお聞かせいただけますか。


大山 僕は、「少子化と人手不足が地方を元気にする」と考えているのです。成熟した社会に生まれた人たちが多くなり、豊かさについての考え方が変わる。つまり豊かさは金ではない、と考える人が増える。情報化も進み、自分の人生を豊かに暮らしたいと考えれば地方に住むようになります。


 一人っ子の長男や長女が東京に出て行くのは仕事や、やりたい業種が地方にはないからです。給料も東京の方が少し高い。


だが一方で、通勤に片道1時間半、つまり、1日3時間もかかる。一番しんどいのはこれです。地方ならば4〜5万円で家を借りてクルマで20分もあれば通えるのに、東京ではそうはいかない。

――しかし、「働く場所がない」という現実は変わっていません。


大山 豊かさや価値観の変遷が何をもたらすのか。それをもう少し長期的に考えてみると、企業の本社なども東京である必要はなくなると思うのです。


 例えばアメリカを考えてみてください。金融機関などの本社は確かにニューヨークにあるけれど、現在のアメリカ経済を牽引しているアマゾンやスターバックスコストコ、そしてボーイングなどは全部、本社はシアトルにあります。なぜかと言えば、シアトルは気候や都市機能などでアメリカのなかで最も住みやすい町だからなのです。


 つまり人が住みやすい町に本社が移されている。企業が主語なのではなく、働く人が主語になっている。日本とは真逆です。アメリカでは働き方ですでに「主語の逆転」が起きているし、それが成熟した社会の豊かさや価値観の変化そのものなのです。


――つまり日本でも、従業員が豊かに暮らせ、それが企業の発展にもつながるのであれば本社の地方移転は必然的なものになる、と。


大山 そう思いますし、そう確信しています。僕が常に言う「生活者視点」で企業のあり方も変わります。生活者にとって満足な社会を目指すべきです。国や企業が満足することを生活者に手伝わせる時代ではないし、生活者主体の時代はすでに始まっています。だからアイリスオーヤマの本社は、東京には行きません。

――興味深かったのは、お米と餅で新しいビジネスを始めていらっしゃることです。特に低温製法の3合食べきりサイズ「アイリスの生鮮米」は、私も食べてみましたが確かに美味しかった。


大山 米は被災地支援で始めました。舞台ファームという15代続く米農家が津波でやられ、「私は美味しい米はつくれるが販売先がない」というので支援を始めたのです。


 美味しい米をつくれる農家ほど、現状の流通に不満があると思います。現状の流通は県産米方式なので、うまい米もまずい米も混ぜて売ります。しかし、雪解けの一番水をもらってつくられる中山間地の米は美味いし、お客さまにも支持されています。新潟の魚沼も中山間地で、2倍の値段で売れた事例もあります。


 アイリスは販売ネットワークを持っているし、舞台の米は美味い。それで一緒にやろうとなりました。ただアイリスの生鮮米には、当社にしかない独自のノウハウも込められています。


――どういうことですか。精米方法が他とは違うとか。


大山 15度以下の低温環境で玄米の保管から、精米、包装までを行なっています。米の甘みや食感に影響する「αアミラーゼ」という重要な酵素があるのですが、この酵素は熱に弱いため、精米時の発熱による高温環境下で米の劣化が加速してしまうのを抑えます。


 こうしたノウハウは、事業化する過程で分かってきたことだったのです。


――「3合食べきり」という販売サイズも驚きです。


大山 なぜ米だけが5キロ詰めとか10キロ詰めでポリ袋に入っていたのか。それはプロダクトアウトの発想なのです。一度にたくさん売ってしまえば農協の実入りも増える。しかし農家にとって都合の良いことは生活者には都合が悪い。10キロの米を買い、1ヵ月も寝かしたらどんなお米だってまずくなりますよ。


 これを小分けにしたら、いつ食べても美味しい。つまり供給者理論のプロダクトアウトではなくユーザーインに変えて需要を創造したいと考えたのです。


 ご飯は、1膳が150グラムで、これは炊いて膨れた量なので米そのものは65グラムです。米がキロ400円ならば、1膳26円です。これは高いか安いかと議論する以前の安さでしょう。しかも新鮮だから高級炊飯器を買わなくても十分に美味しく炊ける。


――餅というのも面白いですね。


大山 生活者が求めるのは結局は、簡単に調理でき、かつ美味しいものです。なぜ朝食がトーストや牛乳、目玉焼きになったかと言えば簡単だからです。50年前には1人が年間110キロの米を食べていたのに今は約半分ほど。これは貧しくなったからではなく、面倒で米よりもパンの方が美味しくなったからです。


 米については生鮮米で美味しく供給できる体制を創りました。さらに餅は、簡単さという意味では非常に優れた食材なのです。まずレンジでチンで食べられる。そのまま食べてもよいし、味噌汁に入れてもいい。しかもご飯は水で3倍に膨らませて食べていますが、餅は米をついているからほどんど米であり、ちょっと食べただけでカロリーがある。


 餅は、正月の「鏡餅」と言われたように贅沢品でした。しかし今は安い。アイリスがつくっているお餅は、生鮮米同様に美味しい。


 餅はもち米でできていますが、米として売るのではなく簡単便利な食材として活用してもらう。物の見方、ステージを変えると需要創造できるんです。

――今、アイリスオーヤマの本社は東京には行かない、というお話がありましたが、グループ全体の売上高が3000億円を超え、自動倉庫への投資などもかさんでいます。株式の上場という選択肢はないのですか。


大山 昔も今も、まったくありません。そもそもなぜ上場するのか。そこがポイントなのです。僕は3つあると思う。


 まず、自分の間接金融では金が足らないので直接金融で世の中から出資してもらい、そのお金で会社を大きくして利益を分配する。2つ目が、上場して社会的な信用を得れば優秀な社員を雇用できるし、自己資本も厚くなる。3つ目が本音ベースの話で、相続対策です。会社が大きくなり持ち株が何百億円もの価値になり相続できない。結局、会社を手放すぐらいならば早めに他人に譲渡して経営権だけを動かしたい、というものです。


――しかし現在のアイリスオーヤマには、その3つともが不要なのですね。


大山 昔は法人税が高くて、55%も取られた時期がありました。税引前利益が売上高の5%だったら約6割を持って行かれるので税引後利益はたったの2%ですよ。これで再投資しようと考えたら金が足りない。


アイリスオーヤマも単品毎に10%の営業利益を確保する仕組みにしたので自己資本で回せます。だから資金問題はありません。


 2つ目の社会的な信用。東北には三十数社の上場企業がありますが、おかげさまでアイリスオーヤマは上場企業にひけを取らない知名度やブランド力があります。3つ目の相続も、息子への譲渡を始めています。


 もっと言えば、上場するデメリットの方が問題です。


――と言いますと。


大山 上場したら利益は後でいいのです。とにかく成長しなければならない。上場とは、「儲けるためにお金を出してください」ではなく、「成長分野があるから投資してください」ですね。とすれば成長しなかったら投資家をだましたことになりませんか。だからこそ上場企業は常に右肩上がりのチャレンジを続けなくてはなりません。


 これを悪いとは言いません。しかしいつも高下駄を履いたような経営であり、良いときはいいのですが、何かあると大変です。しかしアイリスオーヤマの経営は、成長は2番目のテーマなのです。一番が利益。いついかなる環境でも利益を出せる体制を創る。それが従業員のためであり、社会への貢献でもある。


――事業理念の「永遠に存続」ですね。


大山 資本家が入り、支配権は資本家が持っていく。そして経営者は資本家から任命される。だから社員と経営者には溝があります。もちろん当社にだって溝はありますが当社の場合は資本家と経営者が一体化している。


アイリスオーヤマでは過去、いわゆる労使交渉はゼロです。働く社員にとってよい会社を目指し、そのための仕組みづくりに力を注いできたらゼロだったという話です。アイリスではすべてが仕組みです。たまたま儲かったから社員にばらまくのではなく、いかなる時代でも利益の出せる仕組み、利益を出したらもらえる仕組みと、そのための公平で公正な評価手法を改善し続けてきました。


――会社への信頼を経営者と一緒に創る。


大山 考えてもみてください。1兆円もの利益を出している会社で賃上げは2000円。そして株主に配当する。見ようによってはばかげていませんか。社員は、「俺たちはもっともらって当然だ」と叫びたくなりますよ。


アイリスオーヤマには、「リーダー職」以上の社員を対象に決算賞与の仕組みがあります。社員が努力して利益を生み出した分を還元するために、営業利益の一部を配分するものです。


 社員あっての会社ですし、会社あっての社員です。アイリスオーヤマの仕組みは、非上場で資本家が経営者を兼ねているからこそできる経営スタイルと言われればそれまでですが、それでよいのですから上場の意味もない。


 上場企業では株主の多くは、儲からなくなれば株を売ります。ファンドにいたっては「不採算事業を売れ」と要求してくる。「では働いている従業員はどうなるのだ」などという問題に彼らの関心はありません。アメリカの資本主義は資本家のための価値観であり、社員は将棋の「歩」にもならないような存在です。


 社員をそんな風にしか扱わない会社が、持続的な成長を続けていけるとは到底思えないのです。

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