トルコのイスタンブールにある「アヤソフィア」は、537年にギリシャ正教の聖堂として建設されましたが、オスマン帝国の征服後にイスラム教のモスクに改修され、トルコが建国されると、政教分離の方針に沿って博物館に変更されました。
これについてトルコの裁判所が10日、博物館への変更を無効とする判断を示し、これを受けてエルドアン大統領は直ちに、アヤソフィアをモスクに変更する大統領令を出しました。
アヤソフィアは博物館とされたことで異なる宗教や文化の共存の象徴とも言われてきましたが、国民の多くを占めるイスラム教徒の中にはモスクに戻すことを望む声が根強くあり、エルドアン大統領としては、そうした声に応えることで、景気の悪化などによって低下している国民の支持をつなぎとめるねらいもあるものとみられます。
この問題をめぐっては、国民の多くがギリシャ正教を信仰する隣国のギリシャがモスクに戻す動きに反発してきたほか、アメリカのポンペイオ国務長官も博物館のまま維持するよう求める声明を出しており、今後、波紋が広がりそうです。
これについて、世界遺産の登録を行うユネスコ=国連教育科学文化機関のアズレ事務局長は声明を発表し、トルコ政府の決定に強い遺憾の意を示しました。
そのうえで「アヤソフィアは何世紀にもわたり、ヨーロッパとアジアが交差してきた、この地域の歴史を伝える名建築だ。博物館という位置づけは、その普遍的な価値を反映している」として、モスクに変更することに深い懸念を示しました。
さらにアズレ事務局長は「トルコ政府は、この変更がアヤソフィアの普遍的な価値に影響しないことを保証しなければならない」として、トルコ政府に対して、ユネスコとの対話に速やかに応じるよう求めるとともに、世界遺産の登録や保全状況を議論する世界遺産委員会の次の会合で、アヤソフィアについても話し合いたいという考えを示しました。
内戦が続くシリアでは、安保理決議に基づいて北隣のトルコから国境を越える2つのルートを使って、反政府勢力の最後の拠点であるシリア北西部のイドリブ県などに食糧や医薬品などを届ける人道支援が行われています。
しかし決議ではこのルートの使用期限を今月10日としていることから、安保理では欧米側が期限の6か月延長を求める決議案を提出し10日、採決が行われました。
その結果、15か国のうち13か国が賛成したものの、常任理事国のロシアと中国が拒否権を行使したため決議案は否決されました。
この問題では欧米は新型コロナウイルスの感染拡大も重なって人々の暮らしはさらに悪化しているとして、2つのルートを維持すべきだと主張していますが、主権の侵害だと反発するシリアを支援するロシアや中国はルートは1つで十分だとしています。
決議案を提出したドイツとベルギーは「シリアの人々の生命線を確保しなければならない」として協議を続けるとしていますが、ロシアや中国との間で合意が得られるかは不透明でシリアの人々の生活がさらに悪化する懸念が強まっています。
国連によるシリアへの人道支援は当初、イラク、ヨルダン、トルコの3か国との国境から、主に反政府勢力の支配地域に向け食糧や医薬品などを運びこんできました。
しかし、こうした活動の縮小を求めるロシアと中国の意向を受け、ことし1月以降イラクとヨルダンからの2つのルートが使えなくなり、国際的なNGOは医薬品の供給などに大きな影響が出ていると指摘しています。
今回の決議案で使用期限の延長が求められていたトルコからの2つのルートは、人口の7割にあたる280万人が支援を必要とするシリア北西部にとって重要な補給ルートとなってきました。
OCHA=国連人道問題調整事務所は、新型コロナウイルスの影響でシリア経済がさらに低迷していることなどから食糧不足が深刻化しているとしていて、決議案が否決されたことで国連による人道支援が続けられるのか懸念が高まっています。
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