ダニラ・ダビドフさん(22)が母国ロシアを離れたのは、政府がウクライナ侵攻を開始してから数週間後のことだった。支持しない戦争で血を流すことを恐れたからだという。
デジタル・アーティストのダビドフさんは、サンクトペテルブルクで暮らしていた。紛争が長引く中で、ロシア政府が自分のような若者に対し、軍務に就くよう圧力をかけるのではないかと懸念している。
ダビドフさんは現在の勤務地であるカザフスタンでロイターの取材に応じ、「戦争にも刑務所にも行くのは嫌だったから、国を出る意志を固めた」と語った。
弁護士や人権活動家によれば、ウクライナ侵攻が始まった2月末以来、ダビドフさんのように兵役義務を逃れようとするロシアの若者が増加している。ロシア社会における紛争への複雑な思いが垣間見られる。
若い男性の中には、国を離れる人もいれば、兵役免除など別の道を探るべく助言を求める人もいる。あるいは、召集を無視して当局による訴追がないことを期待するだけという例もある。ロイターでは、兵役回避を模索している男性7人のほか、弁護士や人権活動家5人に話を聞いた。
ロシアでは18─27歳の男性に兵役が義務付けられており、拒否すれば罰金または2年の禁固刑が科されるリスクがある。ある男性はロイターに対し、兵役を拒否したことで、兵役は若者の義務だと信じている家族との間が険悪になったと語った。
ダビドフさんは、国外で採用が決まっていたので兵役登録を解除し国を離れることができたと語る。いずれは母国に戻りたいと言いつつ、しばらくは無理だろうと嘆く。「ロシアを愛しているし、とても寂しく思う」
兵役回避の規模やロシア軍の兵力運用に対する影響の有無についてロシア政府にコメントを求めたところ、窓口として国防省を紹介されたが、回答は得られなかった。国防省はウェブサイト上で、「陸軍・海軍における任務はロシア国民の名誉ある義務であり、将来においてかなりの優遇が約束される」としている。
ロシア政府は、現在「特別軍事作戦」を遂行中であり、計画通りに進行していると述べている。ロシアのプーチン大統領は、国家のために戦う兵士らは「英雄」であり、ロシア語話者を迫害から救い、「ロシアを崩壊させようとする西側の計画」を挫折させている、と称賛している。大統領は3月、ロシアより西側に近い考えを持つ者は、「裏切り者」であると述べた。
2月24日、ロシアは万単位の兵力をウクライナに投入し、第二次世界大戦以来で最大となる地上侵攻を開始した。キエフ近郊からロシア軍部隊が撤退した後、戦況は膠着気味となり、ロシア政府はウクライナ東部の確保に注力して砲撃の応酬による消耗戦が繰り広げられている。
プーチン大統領が頼りにしているのは職業軍人で構成される陸軍だが、西側諸国によれば、開戦以来相当の損失を被っているという。ロシア陸軍が十分な志願兵を補充できなければ、同大統領の選択肢は、ロシア社会を巻き込んで徴集兵を動員するか、自身の野望を縮小させるか、ということになる。
プーチン大統領は、徴集兵をウクライナ紛争での戦闘に参加させるべきではないと繰り返し公言しているが、国防省は3月初め、すでに一部の徴集兵がウクライナで戦っていると述べている。6月にはロシア軍検察官が国会上院において、約600人の徴集兵が紛争に動員されており、その結果、10数人の将校が懲戒処分を受けたと証言している。
ウクライナでは戒厳令が敷かれ、18歳から60歳までの男性は出国が禁止されている。ウクライナ政府は、ロシアによる侵攻は一方的な帝国主義的な領土奪取であり、最後まで戦い抜くと表明している。
<「怯えている人は多い」>
ピョートル大帝がロシアを欧州の大国として変貌させて以降、ロシアの支配者は、世界屈指の規模の戦闘部隊である巨大なロシア軍の一部を徴兵制に頼る例が多かった。対象年齢の男性は、1年間の兵役に就かなければならない。ロシアは年2回行われる召集により、年間約26万人の兵士を集めている。ロンドンを本拠とする国際戦略研究所(IISS)によれば、ロシア軍の兵力は合計約90万人である。
学業や医療上の理由による応召延期などの合法的な手段も含め、兵役回避は以前から定着している。だがここ数カ月、兵役回避の方法について支援を求める若い男性が増加していることが、そうした助言や法的支援を提供している弁護士や人権活動家4人への取材から明らかになった。そのうち2人によれば、大半はモスクワやサンクトペテルブルクなど大都市の若者だという。
無料の法律相談を提供している団体の1つが、ロシア出身で現在キプロス在住のドミトリー・ルツェンコ氏が共同運営者を務める「リリース(解放)」だ。ルツェンコ氏によれば、徴兵忌避の方法について助言を求める人々のために「リリース」がメッセージングアプリ「テレグラム」上で運営している公開グループでは、ウクライナ侵攻前に約200人だった参加者が、現在では1000人以上に膨れあがっているという。
もう1つの人権団体「シチズン・アーミー・ロー(市民・軍・法)」は、軍ではなく病院などの国営機関で働くなど、兵役以外の形での公的奉仕を模索する人への助言に力を入れている。この団体によれば、問い合わせる人は、昨年の同時期には40人前後だったのが、最近ではその10倍に当たる400人以上に増加したという。同団体のセルゲイ・クリベンコ氏は、「怯えている人は多い。実際に戦闘に従事している軍には入りたくないのだ」と語る。
「プリツィブニク(徴集兵)」と呼ばれる法務支援団体の会長を務める弁護士のデニス・コクシャロフ氏は、具体的な数は明らかにしなかったものの、ウクライナ侵攻当初、兵役回避についての助言を求める人の数が約50%増大したと話す。問い合わせの件数はその後減少し、最近では戦闘を志願する若者の数が増えていると話す。
コクシャロフ氏はこうした変動について、人々が紛争という状況に慣れ、「愛国心を示そうとする」人が増えたのではないかと推察している。
<母国を離れて>
サンクトペテルブルク出身のフョードル・ストレリンさん(27)は、侵攻開始直後には戦争に抗議していたが、2月末にはロシアを離れる決意を固めたという。
現在ジョージアの首都トビリシに移ったストレリンさんは昨年、近視を理由に免除を認められて兵役を回避していたが、全面的な動員の懸念があることからロシアを離れることを選んだと話す。「故郷を離れて寂しいし、自分の居場所を失ってしまったという思いがある」とストレリンさんは言う。
軍務に就くよう召集を受けた若い男性の中には、当局が他で十分な人数を確保していることを当て込んで召集を無視する人もいるという。ロイターの取材に応じた若者や弁護士、人権活動家6人が明らかにした。
テクノロジー分野で働くロシア南部出身のキリルさん(26)の場合、4月に召集令状が届いた後、5月には身体検査を受けるよう電話があった。だが、ウクライナでのロシア軍の作戦を支持していないため、応じなかったという。
キリルさんによれば、そのせいで戦争を支持し、誰もが兵役義務に応じるべきだと考える家族や友人の一部との関係が緊張したという。「ウクライナの人々は兄弟のようなものだ。あの国は知り合いもたくさんいるし、こうした軍事行動は支持できない」とキリルさんは説明する。
キリルさんによれば、6月、彼が不在のときに警察が自宅を訪れ、母親になぜ息子が兵役を忌避しているのか尋ねたという。キリルさんの証言の裏付けを得ることはできなかった。ロイターは、ロシア内務省のメディア広報担当部署に取材を試みた。電話に出た担当者には別の電話番号を教えられたが、何度かけても応答がなかった。
<戦争と平和>
ウクライナ政府と同国を支援する西側諸国政府は、ロシアはすでに、1979-89年のアフガニスタン侵攻の際にソ連軍が失った1万5000人と同程度かそれ以上の犠牲を出していると推測している。ロシア政府は3月末、ウクライナでの軍事作戦開始以来、ロシア軍兵士1351人が戦死し、数千人が負傷したと発表したが、その後公式の戦死者数は更新されていない。
ロシアが兵員の補充を模索している兆候はある。5月、プーチン大統領は軍への志願者に対する40歳の年齢上限を撤廃する法律に署名した。このとき国会議員らは、この改正により先端的な装備やエンジニアリングなどの専門分野における経験豊富な人材が集まるはずだと述べていた。
匿名を希望する30代のロシア人男性はロイターに対し、いくつか個人的な事情を確認したいという建前で、軍のオフィスに出頭するよう電話で要請されたと語った。オフィスでは、軍服を着た正体不明の男性が過去の従軍歴について質問し、ウクライナでの戦闘に参加すれば月額30万ルーブル(約65万円)の報酬を出すと申し出たという。
ロイターではこの証言について独自の裏付けを得ることができなかった。
この男性は、自分は職業軍人ではなく、兵役を終えて以来1度も十を発射したことがないことを理由に、このオファーを断ったという。
「30万ルーブルもらっても、死んでしまっては何もならない」とこの男性は話した。
ウクライナでは14日、西部のビンニツァ州へのロシア軍によるミサイル攻撃で、子ども3人を含む24人が死亡し、60人以上がけがをして病院で手当てを受けています。ウクライナの公共放送は、この攻撃で亡くなった4歳のリーザちゃんについて詳しく伝えています。
リーザちゃんはダウン症で、生後6か月のときに心臓の手術も受けたということです。攻撃を受けたのは、母親のイリーナさんに連れられてセラピーを受けた帰りで、リーザちゃんはその場で死亡し母親も大けがをして病院で治療を受けているということです。
ロシア軍によるミサイル攻撃はほかでも相次いでいて地元当局などによりますと、16日は、南部の港湾都市オデーサで男性1人がけがをしたほか、広い範囲で火災になりました。
また、北東部ハルキウ州のチュフイウにも攻撃があり、3人が死亡し、3人がけがをし、ロイター通信のまとめでは、14日以降の都市部への攻撃でウクライナ全土で合わせておよそ40人が死亡したということです。
ウクライナの軍事専門家はNHKのインタビューで、各地で相次いでいるロシア軍のミサイル攻撃について「人々に恐怖を植え付け、国内世論に影響を与えることをねらっている」という見方を示しました。
ウクライナ軍に長年在籍した経験がある軍事専門家のセルヒー・ズフーレツ氏(54)は、ロシア軍によるミサイル攻撃がウクライナ各地で相次いでいることについて、「ウクライナの人々に恐怖を植え付けることでロシアと交渉すべきだという国内世論を高め、政府への圧力につなげようとしているのではないか」と分析しました。
また、ロシア軍がウクライナ東部ドネツク州の掌握に向け、部隊を立て直しているとみられることについて、「部隊の再編がいつ終わるか判断することはできないが、2週間から1か月かかるのではないか。ただ、完全に休止するのではなく攻撃は引き続き行われている」と指摘しました。
一方、ズフーレツ氏は、南部でウクライナ軍が反撃の構えを見せていることについて、本格的な戦闘は始まっていないとの見方を示したうえで「南部のへルソン州を奪い返すためには2、3か月しか残されていない」と述べ、降雨量が増える季節が到来することを考慮すると時間的な猶予はあまりないとの見方を示しました。
そして「東部の戦況次第で、南部にどれだけの兵力を振り分けられるかが決まる」として、東部の戦況が南部の戦線にも重要な意味を持つと指摘しました。
このほか、アメリカやイギリスなど欧米諸国からの武器の支援について「高機動ロケット砲システム=ハイマースは、前線での状況を好転させられると信じている。ただ、われわれの分析ではハイマースなどは少なくとも56基が必要だが、今のところ20基ほどしか提供の約束をされていない」として、さらなる武器の支援が必要だと強調しました。
ウクライナでは14日、西部ビンニツァ州へのロシア軍によるミサイル攻撃で、子ども3人を含む24人が死亡し、60人以上がけがをして病院で手当てを受けています。
また、南部の港湾都市オデーサでは、16日、ミサイル攻撃で男性1人がけがをし、広い範囲で火災が起きたほか、北東部ハルキウ州のチュフイウにも攻撃があり、3人が死亡、3人がけがをしました。
ロイター通信のまとめによりますと、14日以降の都市部への攻撃で、ウクライナ全土で合わせておよそ40人が死亡したということです。
各地で相次ぐミサイル攻撃について15日、モナスティルスキー内相から報告を受けたゼレンスキー大統領は「ロシアは民間人を標的にし、そのふるまいはテロリスト国家そのものだ。われわれは犯罪の命令を下した者と命令に従った者を見つけ出し、罰するためにあらゆることをする」と述べました。
こうした中、ウクライナ国防省の報道官は15日、ロシア軍によるウクライナへの攻撃のおよそ7割が民間施設などを標的にしていて、軍事施設などに向けられたのは3割にとどまるという見方を明らかにしました。
そのうえで報道官は、発射されたミサイルを破壊することが重要だとして、最新鋭の防空システムといった欧米の軍事支援が必要だと改めて強調しました。
ロシア国防省は16日、各地をミサイルで攻撃し、東部ドネツク州では、ウクライナ側の拠点の1つ、シベルシクを空爆するなどして、2日間で600人以上のウクライナ兵を殺害したと発表しました。
また16日には、ショイグ国防相が軍事作戦に関わる前線を視察したと発表し、ショイグ国防相は「ウクライナ側の攻撃からロシア側の市民を守る」と主張したうえで、作戦の強化を指示したということです。
ロシア軍は、激しい戦闘の末、今月3日、東部ルハンシク州の掌握を宣言したものの、その後は、兵士の休息や、補充など部隊の再編を優先させ、次の本格的な地上作戦に向け準備を進めてきたとみられていました。
これについて、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は16日までの分析で「ロシア軍は作戦の休止状態を終わらせつつある。ショイグ国防相の発言や最近のロシア軍の戦況がそれを裏付けている」と指摘しました。
そのうえで、ロシア軍の地上部隊が、ルハンシク州に隣接するドネツク州の掌握に焦点をあて、再び、攻勢を強めるという見方を示しました。
これに対してウクライナ軍は、高機動ロケット砲システム=ハイマースなど欧米から供与された兵器を活用して、ロシア軍を迎え撃つ構えで、ウクライナ軍の報道官は16日、「ロシア軍は明らかに攻撃作戦の新たな段階に向けた準備を行っている」と警戒感を示しました。
イギリス国防省は17日の分析で「ロシア軍は、南部の支配地域で防衛態勢を強化している。ウクライナ軍は、南部ヘルソン州では1か月以上、ロシア側に圧力をかけ続けてきた」と指摘しました。
そして、ショイグ国防相が作戦の強化を指示した背景には、ウクライナ軍の攻撃に対応するねらいもあったとしたうえで、南部で攻勢に転じるウクライナ軍は、ロシア軍にとって深刻な脅威になっていると分析しています。
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